番外編2 銀之介 対 右近
拍手お礼小話の加筆修正版です。
銀之介の心境等々が、無駄に付け加えられています。
時期としては、7話と8話の間辺りかと思われます。
「じゃーん! こちらが右京さんなるよ!」
夜半。鈴緒は居間のテレビにゲーム機『ティン・トイ・ボックス』を接続し、銀之介へ愛用キャラクターの右近を紹介する。
きらめく笑みの彼女と比べ、銀之介はむっつりと渋面だ。
鈴緒によると、彼と右近は「似ている」とのことであったが、
「こいつ、とんでもなく感じが悪いじゃないですか」
銀之介は心外そうに首を振った。
短髪に眼鏡という点は、似ていると認めても良かろう。
「何だか癪に障る人柄です。言葉に棘があるというか」
「それは仕方ない。クールガイな、左近さんの相棒なのだ」
「彼は、クールをはき違えていますよ」
「銀之介さんは言えた身分か?」
「えっ」
思わず目を剥いた銀之介の隣に座り、鈴緒は淡々とコントーローラを操る。
なお左近とは、この「ファイターズ・クロニクル」の主人公だ。こちらは眉目秀麗で逞しい、王道的外見である。
長身の右近は、画面を縦横無尽に疾走し、対戦相手の半裸男を翻弄する。鈴緒によると、相手の防御を潜り抜ける「めくり」という技術らしい。
そして雷光を纏った足から必殺技を繰り出し、悠々と勝利をもぎ取った。
『バカの一つ覚えか、クソが』
倒れた半裸男を一瞥し、このような罵倒を浴びせていた。しかもカメラ目線で。銀之介が顔をしかめるのも、無理はない。
「でも、お年よりや女の子には、優しい言葉使いですよ」
「どんな言葉です?」
ペリドットの瞳を輝かせる鈴緒に、銀之介も何とか笑顔で続きを促す。
いつもこんな表情を浮かべてくれればいいのだが、と頭の片隅で考えながら。
「『年寄りは公民館で囲碁でも打ってな』や、『脂肪袋の代わりに、胸板を作って出直せ』です」
「ちっとも優しくないです。とんでもない根性悪ですよ」
「でもクール──」
「ご先祖様や金次郎さんに誓って言いますが、彼はクールではありません。こいつはただの、毒吐きナルシストです。こんな男にだまされないで下さいよ」
恍惚とのけぞった勝利ポーズも、銀之介の不満を煽っていた。
加えて、服装もいただけない。真っ白なロングコートを羽織っているのだ。こんな実用性に乏しい上着を、銀之介は生まれてこの方着た経験がない。また、着たいとも思わない。
「俺がこんな格好をして歩いていたら、ヤクザに間違えられますよ」
散々右近を貶められて落ち込んでいた鈴緒も、途端にぱぁっと明るくなる。
「大丈夫! 右近さんもヤクザよ!」
「オゥ……」
思わず、鈴緒から伝染した間投詞を、口ずさんでしまった。
「お口悪いけどね、右近さん、とてもお友達や家族を大事にする。そこも、銀之介さんに似てるよ。優しいところ」
最終ボスである巨人を倒し、鈴緒がポツリと言った。
まじまじと彼女を見下ろせば、ミルク色の頬を薄っすらと染め、はにかんでいる。
照れくさそうな顔は、小さな頃からちっとも変わらない。
あの頃も、目が合えばよく笑っていたな、と思い返せば、ついつい顔がやに下がる。
上機嫌が表へ出る前に、表情を取り繕った。
「いずれにせよ、似ていることは確定というわけですか。でも、長所もあって何よりです」
などと呑気にすましていれば、ロックな音楽と共に画面が切り替わる。
右近のエンディングだ。3Dグラフィックスの格闘パートから一変し、セル画調のアニメである。
ヤクザの若頭らしい右近は、薄暗い事務所で彼を待つ母に、帰還の挨拶をしていた。息子の無事を喜ぶ母へ、右近はニヤリと笑う。
『長生きしろよ、クソバアア』
「毒蝮三太夫ですか、こいつは」
鈴緒が好いていようが、関係ない。世間的には、右近はいわゆる「イロモノ」に属していた。




