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召喚送還師  作者: 銀槍
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地球と異世界で共通な事

家が潰れた。いや物理的では無く営んでいた家業がだ。元々家族で細々と続けていたが、この不景気の折り遂に止めを刺された。だがそれだけならまだましだ。俺の一つ上に兄が居るのだが、そのクソ兄貴が俺の名義で勝手にカードを作って借金をこさえやがった。まだ経営の為に借金をするのは判るが、なんとパチンコや競馬で使ったそうだ。それを問い詰めたら次の日、俺を残して家族全員が居なくなりやがった。一人残された俺は、自己破産の手続きをして、僅かばかりに残った金で築三十年の風呂無しのアパートを借りて其処に移り住んだ。


そして今俺はタクシーの運転手をしながら生活している。


今現在の俺は家族に裏切られて、家族を少しだけ憎んでいる。それでも憎みきれないのは、俺がお人よしなのか、或いは血の繋がった家族だからか。


謝ってきたら、許してしまう自分がいるのも確かだ。


唯一の救いは、四十三にもなって未だ独身でいる事だろう。結婚していたら奥さんに苦労掛けまくりだもの。


今日も夜勤が終わり、会社に車を返して家路に着くが、その前に腹が減ったので家の側のコンビニで食べ物を買いに向う。


コンビニに向う途中、歩きながら携帯を操作して、買っていた宝くじの結果発表を見る。

当然結果は外れでした。全くもって運が無い。携帯を上着のポケットに入れてコンビニの中に入る。俺と入れ違いにコンビニから出て来た女の人、凄い美人だ。金髪で端正な顔、外国から来た人だろうか?。一瞬目が合い、此方に向けて微笑んだ気がしたが、多分勘違いだろう。店の中には出勤途中のサラリーマンや近くの学校の高校生など十人がいた。家に帰っても碌な飲み物が無いので本が並んでいる場所から飲み物がある棚まで移る。その途中のふと見た本の中にかつてファンだった女優の表紙が目に入る。そしてその表紙にはこう書かれていた。


ついにあの人が脱いだ。


少し見たいと思ったのだが、近くで雑誌を読んでいる女子高生の存在が気になる。ここはじっと我慢して飲み物を取りに行く。飲み物の扉を開けた時、コンビニの床が光り輝く。何事かと思った瞬間、コンビニに居た俺と十人とコンビニの従業員の計十三人が深い森の中に立っていた。


訳が判らず立っている俺達から五十メートル程離れた場所に、四、五人程の集団が見えた。ジッと目を凝らして見詰めると人間では無いのが判る。


どうみてもゴブリンにしか見えない。


奇声を上げて、こん棒の武器を振り上げて此方に迫ってくる。流石に命の危険を感じてゴブリンの来る反対方向へ全員で走り出す。


走っている時気付いたのだが、妙に身体が軽く感じ、走りながら過ぎる景色もかなり速く感じる。


五分後、何とか全員奴らを振りきるのに成功した。驚いた事に五分間全力で走っても息が一つも乱れない。これはどういう事だ、と考えていると男子高校生達が…


「チートきたぁぁぁ」


「異世界きたぁぁぁ」


「ハーレムきたぁぁぁ」


などと喜び叫んでいる。バカか…


確かに身体能力が上がっている気がするが、それがなんでチートに繋がるのかも判断するには材料が足りな過ぎる。携帯を取り出し時間を見ると、やはりあれから十分程しか時間が進んでいない。インターネットにも繋がらない。しかも先程のゴブリンの存在を考えると…


ここは異世界なのか。


そう判断するしかない。これからどうしたらいいんだ。帰る手段はあるのか。考えても答えは見つからない。


暫くすると、今度はゴブリンが三匹こん棒を振り上げ此方に向って来ている。


「また来た、逃げろ」


俺は周りのみんなに叫んだが、忠告を聞いて逃げ出したのは社会人のみの四人と女子高生1人、高校生六人と大学生らしいコンビニ店員2人は近くに落ちていた木の棒を拾って迎え撃つ気でいる。迎え撃つ気でいる男達は全員木の棒を持ち、その少し後ろを女子高生が立って状況を見守っている。


振りかえらずに走り続ける俺達にかなり離れているのに、後ろから男達の気合の入った男達の声が聞こえる。どうやら耳まで良くなったみたいだ。


暫く走り続けると今度は前方から鎧を纏った集団が近付いて来るのが見えた。定番の盗賊かとも思ったのだが、彼らから発せられる声を聞いて安心する。


「大丈夫か、今助ける」


何と日本語で話しかけられた。やっぱりドッキリなのかとも思ったが、彼らの緊迫した表情からとてもそんな事が訊ける雰囲気じゃない。


彼らの集団が此方に到着すると体長らしき人が隊員を五人此処に残して隊長を含めた残り五人は、先程のゴブリンが現れた場所へ駆け足で走って行った。その速さは俺達よりも断然速かった。


「皆さん無事ですか」


残った隊員は辺りを警戒しつつ、俺達に話しかけて来た。


「ここは一体どこなんですか」


少し脅す感じで尋ねる俺に対して、その気持ちは判ると言った落ち着きゆっくりした話し方で現在の状況を説明してくれた。


この世界はやはり地球では無く異世界だという事、別の世界からこの世界にやってくる人を、落ち人と言う事、この森は、落ち人の森と呼ばれる様に結構な頻度で落ち人が現れるので定期的にパトロールしているのだとか。


彼ら日本語を話すのも、この国の誕生に日本人の落ち人が関わっていたらしく、言語が日本語で読み書きも日本語との事


まあ何にしても、まずは一安心と言った所か。


彼らから水を分けて貰い、暫らく休んでいると残りの生存者を連れて隊長が戻って来た。


一人足りない……


帰って来た全員別れる前までは、気合の入ったやる気のある顔をしていたが、今は疲れ切った青ざめた顔ばかり、一体なにがあったのか。


彼らの話では、高校生の一人が木の棒をゴブリンに叩きつけるがあっさりと受け止められて、その隙に別のゴブリンが叩きつけた高校生の頭をこん棒で思いっきり殴りつけたそうだ。その結果高校生は死亡、残った全員はそれを見て逃走、逃げてる途中で隊長達に保護されたそうだ。


ちなみに襲ったゴブリン達は隊長一人で処分したとの事、残った少年の遺体はゾンビにならないように処理をして埋葬した。


「死んだらゾンビになんのかよ」


この世界の空気や水には魔素という物質が含まれているらしい。その物質は生物の身体を強化する事が出来るらしく、俺達の身体が強化されたのもこの物質のお陰らしく、当然ゴブリンも強化されてるわけだ。

つまりはプラマイゼロと言う訳だ。


死んだ肉体に魔素が入り込むとゾンビになるらしく、ならない為には細かく切り刻むか、燃やすしか他に方法がないらしい。


この世界は、魔物が多くの土地を支配する世界で、人間やエルフ、獣人等の亜人種は一部の土地に固まりながら、魔物の脅威に対抗しながら協力して暮らしている。


しかもこの世界、落ち人は優遇されているらしい。


落ち人からもたらされる技術で文明を発展させ魔物に対抗しているのもあるが、神から与えられる職業が現地の人よりも優秀なのが一番の理由だ。


この世界神様が存在するらしく、人々に闘いを推奨している。なんでも自分以外の種族を殺すと殺した生物の力が自分の物にる。なんでも戦う事で進化を促進するとかなんとか。


しかも強い魔物が居る土地に限って希少な金属が沢山存在し、若返りの実や治癒の実などの不思議植物が数多く自生している。それもこれも人間の欲望を刺激して進化を促す為との事。全くエグイ性格している神様だ。


そんなこんなで、亡くなった高校生には申し訳ないが、隊長達に守られながら落ち人の森の直ぐ隣りに在る街 始まりの街 に到着した。


始まりの街なんて、益々ゲームみたいだと感じたのは、多分俺だけではない筈だ。


街の様子をみると近代に近く、街には他の街へ向けて蒸気機関車が走る。自動車は余り見かけないが、馬車の方が多く見受けられる。この国がエネルギーとして使っているのは魔物の体内から取れる魔石であり、文明の進歩に魔石の需要が追い付かないから優先的に汽車や空を飛ぶ飛行船等の公共の交通機関に優先的に魔石が供給されている。


神様を祭る神殿に行き、神官を通して神様から職業を頂くが、落ち人が優遇されているのが良く判る。


最低の職業でも剣士なのだ。


この世界の人間で剣士が出る確率は百人に一人と言われている。騎士ならば言わずとも判るだろう。それ位レアなのだ。しかも俺と同じ歳位のサラリーマンのオッサンが、スーパーレアな治癒術師に職業が与えられた。治癒術師は力が上がると肉体の再生や病気も治せる安泰職、パーティで戦闘になれば後方に控えて回復だけすれば良い、正に中年の俺にとっては夢のような職業。


遂に俺の番になり、神様から職業が与えられる。その職業とは……


召喚送還師……、スーパーレアきたぁぁぁぁぁ、職業を得た途端、身体の中に魔力らしき物が生まれるのを感じた。神官さんによるとここ三百年で成り手が出ないほどの職業なのに、何故か神官さんから憐れみの視線が…、なんで?


神殿の受付で職業とこの国の住民の証となる一枚のカードを渡された時にその訳が判った。


なんでもこの職業、知っている物や、存在していると判っている物ならば、その物の構造や中身が判らなくてもそれ自体を召喚出来る。しかも時間を超えて召喚出来るらしい。


契約した魔物や人も召喚出来るが、契約するには契約志望者本人だけで戦わねばならず、まず自分より強い魔物と契約できない。


しかも職業が剣士と召喚送還師とでは、魔物を一匹倒した時の力の伸び方が全然違うらしい。


例えば魔物一匹で得られる力を召喚送還師が1とすると剣士は2になり、魔物を倒す程その差は開いて行く。長旅で必要な食糧は倒した魔物から得られるし、水が必要な時は、攻撃魔術も使える魔術師に頼めばいいし、召喚送還師はパーティではお荷物…、てか要らない存在と言われた。


実際、過去の召喚送還師は当時貴重だったコショウや砂糖を召喚して金に換えて生活していたとの事。

しかし文明の進んだ現代では、生産性の向上によってどちらも安く買える。それにこの世界では、金は余り価値が無い。


俺以外の人達は、国が派遣した職員と次々と契約していた。10年間国に仕えるのと引き換えに、衣、食、住の保障と護衛付きの安全なレベルアップ、しかも給料まで出る。


俺の所には職員は来ず、代わりに受け付けの人が当面の資金として渡された五万円だけ…

一万と書かれた数字に知らない人物が描かれた紙がたったの五枚


これから如何するかと考えながら神殿脇の噴水の縁に腰掛けて考える。貰った五万円は安い食事付きのホテルで泊ったら一週間で消えるお金と言われた。たぶん物価は元の世界と同じ位の価値があると考えて良さそうだ。


もう、元の世界には帰れない。


「こんな事になるのならあの雑誌、買っておけば良かった」


そう何気に呟いた途端、目の前に魔法陣が現れ輝くと引き換えに俺の身体から殆ど魔力がごっそり抜け落ちたのを感じた。


魔法陣が消えると現れたのはコンビニで見かけたあの雑誌、俺はその本を拾いページを開く。


「ほほう、これは凄い、全くけしからん、て何俺こんなの召喚してんだ」


本を床に叩きつけて一人叫んでいると周りに居た人から注目の視線を受けてしまう。ついでに叩きつけた雑誌まで見られた。当然この国の言語は日本語、表紙に書かれた言葉の意味を皆さん判ってらっしゃる。


集められた視線に耐えきれなくなり、急いで本を持ってその場を離れようとしたその時に一人の紳士に声を掛けられる。


身なりの良い青年は俺から本を無理矢理奪い取り、本を見開いたまま叫ぶ。


「これは凄い、まるで生きているようだ、しかも色が付いている」


この世界写真がまだ出来てないらしく、しかも印刷技術は偽札防止の観点から国が秘匿している為、娯楽などの本は一部少数しか出版されていない。もちろん裸のねーちゃんの本等存在しない。


俺はこの本を青年の言い値の五十万円で売った。


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