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星のひかり  作者: 五十鈴スミレ
本編
9/101

六幕 本気でロリコンかも



 今日、六歳になりました。

 そして今年は、家族水入らずで……とはいきませんでした。

 誰がいるかというと、わたしにとって本当にうれしくないことに、やつがいる。


「やあ、僕のエステル。誕生日おめでとう」


 そう白金の髪をなびかせて声をかけてくるのは、おなじみわたしの天敵のジル。

 くそう、無駄に美形でむかつく。

 ジルやリゼなど、かなり交流のある友人の家族だけを招待した内輪のパーティー。仮にも今日の主役であるわたしに挨拶に来ないわけがないのはわかっている。

 でも、もっとゆっくりでよかった。パーティーの終わりくらいとか。……無理だよね、うん。


「ありがとうございます、ジル。けれどわたしはあなたのものではありません」

「わかっているよ。それとも僕の愛しいエステルと言ったほうがよかったかな?」


 うざい。本気でうざい。

 キザったらしいセリフが様になっているのが、余計にうざったらしさを増長させる。

 やれやれ、というふうにわたしはため息をついた。

 普通の人間なら癪にさわる行為だとわかっていてのことだ。

 ジルにはこれくらいじゃ効かないって、もちろんわかっているけど。

 少しでもわたしが歓迎していないことを伝えたいのだ。


「ジルも、卒業おめでとうございます」

「ありがとう。できないわけはないけれどね」

「優秀な成績を修めての卒業は、誇れることです」


 そう、今回ジルがいるのは、卒業祝いのためでもあったりする。

 八歳から六年間。つまりは十四になった今年、兄さまとジルは学校を卒業した。六学年は二学期までしかないから。

 これから二人は一緒に、卿家を継ぐための勉強をすることになる。

 まずは卒業おめでとう、これからも精進しなさい。ということで、誕生日パーティーに呼ばれたのだ。


「そのおかげで今年は当日に祝うことができて、うれしいよ」


 嫌味か、それは。

 別にいいじゃないか、家族で誕生日を迎えたいと思ったって!

 たしかにジル対策だったのは否定しないというか、そのとおりなんだけど。

 何がなんでも当日に祝わなきゃいけないわけじゃなし、大人げないぞ。


「来年はまた前日にどうぞ」

「誰より早く祝ってほしいってことだね」


 にっこり笑顔で嫌味返ししても、ジルは気にせずいつもの調子で返してくる。

 どういう意味かわかっていてわざととぼけているんだろう。

 相変わらず食えないやつだと思う。


「冗談ばかりおっしゃっていては変態扱いされてしまいますよ」

「僕はいたって本気だよ」

「じゃあ今度から変態さんとお呼びしましょうか?」

「愛称をつけてもらえるなんて、照れるな」


 本気で照れているような表情をするものだから、ゾワッと鳥肌が立った。

 こやつ、本気でロリコンかも……。


「どう考えても愛称じゃないです蔑称です!」

「そんなことはないよ。だって僕と君の仲じゃないか」


 ダメだ、こいつは。

 これ以上話していても埒があかない。ただ気色悪い思いをするだけ。

 会話を強制終了させる必殺技を、今のわたしは知っている。

 くらえ!


「兄さま助けてこの人話が通じないー!」


 わたしが叫ぶと、気づいた兄さまはこちらに向かってきてくれる。

 ジルも兄さまの前だと少しだけだけど大人しくなるのだ。やっぱり親友だから?

 なんだかんだで仲がいいから、うらやましくなる。当然兄さまと仲のいいジルが、だ。


「……またか、ジル」


 ふう、と兄さまはため息をつく。

 打ち解けてからの兄さまは、何かとわたしにかまってくれるし、こうして助けてくれる。

 わたしが知らなかったこの世界の常識を教えてくれたり。

 わたしが子どもらしくないことを口走ったときにごまかしてくれたり。

 今みたいに、ジルと二人きりの状況をどうにかしてくれたり。


「“また”と言えるほどエステルと同じ時を重ねられるのは幸せだね」

「こりないな、お前も」

「こりる理由が見つからないからね」


 まあ、大人しくなるのは本当に少しだけ、なんだけどね。

 兄さまも何を言えばいいのかわからないらしく、困った顔をしている。


「いい加減こりてくださいマジで」


 思わずわたしは素でそう言ってしまった。


「エステル、口調」

「あ、……ごめんなさい」


 即座に兄さまに注意をされて、わたしはしょげ返る。

 生真面目な兄さまは、わたしの教育にも妥協をしない。

 それが兄さまの良さだってわかっているから、いいんだけどね。


「どんな口調でもエステルはかわいいよ」

「そんなフォローはいりません……」


 にこにこ、何が楽しいのか笑顔のジル。

 美形のきれいな顔を見ていても心は晴れない。

 観賞用にはいいと思うけど、こんな近くで見せられても困るだけだ。


 でも、こんなふざけた会話が日常になってしまっている時点で、わたしの負けなのかもしれない。



 ……絶対に認めないけどね!







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