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星のひかり  作者: 五十鈴スミレ
本編
7/101

四幕 一方的な八つ当たり



 竹内 まもる。享年二十八歳。

 私立中学、バリバリ進学校の特進クラスと行き、超有名大学を卒業後、大手企業に就職。

 海外を飛び回る忙しい日々の中、技術的なことも学び、ついには専門外のはずの企画まで任されたり。

 やりがいのある仕事に明け暮れていたある日、飛行機事故で亡くなった、と。


 兄の前世の話を聞いての、私の第一声は、


「兄さま、ずっこい!」


 だった。え、えへ?


「ずっこいって……」


 もちろん兄さまは言葉を失う。

 それはそうだろう。ただのヒガミだもの。


「わたしは偏差値五十台半ばのごくごく平凡な女子高生だったのに!

 高学歴で手に職も持ってて、なんて、そういうのチートっていうんですよ!」

「別に人外の力があるわけでもなし、言い過ぎだろう」

「何をおっしゃいますか、兄さま。

 時は金なり。知恵は万代の宝。

 わたしの倍近く生きて、知識と知恵をつけてこられた兄さまはずるいです!」

「年に関しては一理あるが、知識は努力次第ではないのか?」


 もちろん兄さまの言葉が正論なのはわたしにもわかっていた。

 それでも、納得できないことはある。

 このときは思考がぶっ飛んでいたこともあって、わたしは思うままに兄さまに当たった。


「努力できるのも才能のうちなんです!

 兄さまずーるーいー!!」

「ああ、もうずるくてもいいよ……」


 という、あとから考えるととんでもなく一方的な八つ当たりは、家族とのお茶の時間に呼ばれるまで十分ほど続いたんだけど。

 このやりとりによって、はからずもわたしたちは打ち解けることができた。

 いやぁ、何があるかわからないものだよね。

 これも怪我の功名ってやつかな。うん、違うね。




 それからも何度かわたしたちは話し合って、ほぼ同じ体験をしていたんだと知った。

 奇妙な浮遊感や、膜が張っているような違和感。

 不思議な声の主との会話。これは内容が少し違っていた。

 兄さまがずっとわたしを疑っていたのは、この会話のことがあったかららしい。


「こぼれた魂は、元は双子だったと言っていた。元の世界に戻ったとき、近くにいるかもしれない、とも」


 地球で生まれる前は兄さまと双子だったなんて、すごく驚いた。

 内容の違いは、兄さまの性格と死んだときの年齢が関係しているのかもしれない。

 わたしよりも冷静に話を聞いて、反応を返せていたんじゃないかな。

 わたしはもう一人いるなんてこれっぽっちも聞かなかったからね。言ってくれたらよかったのに。

 ……言われていても、気づけたかはわからないけれど。


 そう考えると、たったそれだけの情報でわたしが前世を覚えていると気づいた兄さまはすごい。

 わたしが素直に褒めると、兄さまは苦笑を浮かべた。少年と呼ばれる年齢の兄さまには似合わない、でも兄さまらしい表情だった。


「信じたかっただけかもしれない。私は、自分の記憶を完全に信じることができなかったから」


 その思いは、理解できなくはなかった。

 何しろわたしも、記憶が定着してからの一年、何度も考えたことだったから。

 これは本当に前世の記憶? ただの思い込みじゃないの?

 子どもの精神はまだ未発達で、未熟で。ないはずのものをあると思い込むことは、いくらでもある。有名なところではイマジナリーフレンド、架空の友人の存在。

 前世の記憶だと思っているものも、架空のものじゃないとどうして言いきれる?

 確認するように、何度もそう自分に尋ねてきた。


 わたしの場合、結局は直感的に決めた。これは思い込みじゃない、と。

 前世のわたしがそうしてきたように、自分の勘を信じた。

 もしただの思い込みだったとしても、誰にも言わないなら迷惑はかけない。

 兄さまはそんなふうに開き直れなかったらしい。


「おまえが問いに答えてくれたから、私もやっと自分を認めることができた。ありがとう」


 ふわりと、やわらかく兄さまは笑んでそう言ってくれた。

 初めて見る、きれいな笑顔だった。

 微笑みくらいは見たことあった。別に表情がまったくないわけじゃなかったから。

 でも、わたしだけに向けられた、最上級の笑顔。

 ドキッとしたことを知られたくなくて、わたしは「兄さまひきょうです」と憎まれ口を叩いた。



 兄さま、やっぱり格好いい。







兄の前世の経歴については適当なので、ツッコミはなしで。

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