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星のひかり  作者: 五十鈴スミレ
本編
26/101

二十三幕 黄色い花が似合う



 早速ですが、都に来ています。


 都は、すごい。何から何まで規模がまるで違った。

 人は多いし、建物は密集して建っているし、夜でも明るい。

 そういえば都会ってこんな感じだったっけ。と前世の記憶をひっぱりだしてみたり。


 そうそう、何に乗ってここまで来たかというと、実は馬車ではなく車だ。

 この世界には車がある。中世風なようでいて、けっこう近代的。

 あと百年もしたら、携帯電話も作られたりするかもしれない。

 とはいっても、前世は前世、今の世界になじんでいるわたしは、携帯電話がないから不便、だなんて思ったりはしない。

 逆に車があることに便利だって思うくらいだからね。


 この国には電車はない。他の国にはあるらしいけど。

 その代わりにバスみたいなものが普及している。小国だからそれですんじゃうのかもしれない。

 遠くに行くときは、たいてい車。

 我が家は大きいものと普通のと、二台の車を持っているけど、自家用車がない人はタクシーみたいな感じで人に乗せてもらう。

 庶民には手痛い出費だから、馬という交通手段もいまだに使われてはいる。ラニアみたいな田舎だとね。

 都だと、道も綺麗に舗装されているから、馬なんてどこにもいない。

 そういうところも都会的で、洗練されているように目に映った。


 で、今現在は、王宮に滞在中。

 なぜかというと、大公さまに請われて来たことになっているので、お客さま扱いなのだ。

 まあ、父さま的には立派に仕事みたいなものだけど。

 春期休暇中なのにご苦労さまです。でも、長いお休みじゃないと、領地を離れるなんてできないよね。




「……で、なんでジルもいるの?」


 王宮に着いて、好きに過ごしていいと言われたわたしたち。

 部屋で一休みしたあと、ちょっと散歩に行ってきます、と言って広い庭園に来たわたしが出くわしたのは、おなじみとなってしまった兄さまの友だち。

 ジルのほうも少しびっくりしているみたいだけど、都にわたしがいることに驚いているわけじゃなさそうだ。


「知らなかったの? 今、イーツ家も都に来ているんだよ」

「……知りませんでした」


 不思議そうに首をかしげるジルに、わたしは脱力した。

 そんな話、聞いてない……。

 せっかく、都にいる間は変態に困らせられることもなく、平穏に過ごせると思ったのに!

 都に来た目的の一つは、情報収集不足によって意味のないものになってしまった。

 でも、こんなの誰だって予想できないはずだ。ご都合展開にもほどがある。


「一週間ほどずれたからね。もう僕たちはほとんど観光しているようなものだよ」

「じゃあ父さまも一週間くらいでお仕事終わるんですね。よかった」


 滞在期間は二週間とちょっとくらい。父さまもずっと仕事していなきゃいけないわけじゃないなら、きっと一緒に都を楽しめるだろう。

 ジルがいることはうれしくないけど、それを早めに知れたのはよかった。


「一緒に庭園を回ろうか」

「戻るところだったんじゃないんですか?」


 渡り廊下から庭園に出ようとしたわたしと、庭園から渡り廊下に入ってこようとしたジルは、進行方向が真逆。

 となればジルは部屋に、少なくとも建物内に戻ろうとしていたのは明白だ。

 それを口実に、言外に断っているんだけれど、どうせジルはこちらの意図を汲み取る気なんてないだろう。


「君がいるのに戻るなんて、そんなもったいないことができるわけない」


 予想どおり、ジルはにこやかにそう言いきった。

 場所が変わっても、ジルは変わらない。いっそ清々しいほどに。


「この庭園に来たのは三回目だから、案内するよ。君の好きな花を知っている僕なら、エスコート役にはぴったりだと思うけど」

「……なんで知っているのかとか、つっこめばいいんですか?」

「つっこんでもいいけど、君にとってうれしくない答えしか返せないよ」

「できればもう黙っていてください」


 はあ、とこれみよがしにため息をついて、わたしは庭に一歩足を踏み入れる。

 隣にジルが当然のように並ぶのは、もうしょうがないとあきらめた。

 実際、初めて来る庭園。王宮にいくつもある庭園の中の一つとはいえ、広さは我が家の庭なんて比べ物にならないほどだから、案内人がいるのは助かる。

 敗北感を覚えながらも、どうせなら楽しんでやろうとわたしは花に目を移した。


「このへんは小さな四季咲きの花を中心にそろえてある。もう少し行くと春にしか咲かない花があるよ。エステルが好きなレンギョウもミモザもある。サクラは、北の庭園に行かないと見れないけど」


 そう、都にはサクラがある。それを兄さまに聞いたことがあったから、というのも都に来た理由の一つ。

 外国からもたらされたものらしくて、都の決まった場所にしか存在していない。

 前世では特別好き、というほどではなかったけど、たんぽぽと同じくらい身近に存在していた気がするから、見てみたいとずっと思っていたんだ。

 それにしても本当に、ジルはわたしの好きな花を知っているんだなぁ。一度も言ったことないのに、とは長い付き合いだから断言できないのが痛いところ。


「詳しいですね。こっちに来てまだ一週間、でしたよね?」

「僕は八年前にも一度来ているからね」


 本当にそれだけ?

 庭なんて、八年も経てばかなり変わるはずだ。王宮とはいっても、花は生き物なんだから。

 わたしの疑いのまなざしにジルは肩をすくめた。


「それに、今回はあとでエステルが来ると知っていたから、覚えておいて損はないと思って。実際こうして案内できる機会を得られたしね」


 マメな男だ、と呆れてしまう。

 無駄になるかもしれないことに労力を使うなんて、物好きだ。

 それがわたしのためだっていうなら、なおさら。どうしてジルがこうもわたしに好意的なのか、やっぱりいまだにわからない。


 わたしはジルに何も返さずに、早咲きの小バラを眺める。

 渡り廊下から見える範囲の花が小さい花ばかりなのは、可憐な姿に和んでもらうためなのかもしれない。

 かわいらしい花が、胸のつかえを薄れさせてくれるような気がした。

 少し進むと、ジルの言葉どおりミモザの花が見えてきた。明るい黄色は目にまぶしくて、元気をわけてもらえる。


「エステルには黄色い花が似合うね」

「そうですか?」


 髪の色が少し赤みのある薄茶だから、黄色は似合わないわけではないとは思う。

 でも、似合う花というと、今まで言われたことがあるのは瞳の色に合わせたスミレやライラック。

 ジルのセンスは少し変わっているんだろうか?


「うん。周囲を明るく照らしてくれるような、ひかりの色。僕にとってのエステルそのものだ」


 心からそう思っているような、惚けるような微笑みと声。

 思わずわたしの脳裏に浮かんだのは、ずっと前に夢の中で聞いた言葉。


『見つけた、僕のひかり』


 ただの夢なのかもしれないと思っていたけど、今の言葉を聞くと、本当にあったことだという可能性が高いような気がしてきた。

 当時のわたしは二歳。ジルはどうしてわたしを光だなんて思ったんだろう。

 それが本当に口説き文句だったなら、どんなにひかえめに表現しても、異常としか言えない。

 何年も口説かれ続けてきたことを考えれば、それこそ今さらなのかもしれないけど。


 ジルがわたしに甘い言葉を告げるたび、わたしはわたしの中の想いを再確認させられる。

 兄さまが好き、という想いを。

 ジルを苦手だと感じるのは、そのせいでもあるのかもしれない。

 きれいな形のまま、いつか思い出になる日を待っているというのに、不用意に刺激するから。

 早く忘れろ、早く消してしまえ。そう急かされているようで、落ち着かない。少し、不快だとさえ思ってしまう。


 いまだに想い続けているわたしが悪いのか、子どもにちょっかいを出すジルが悪いのか。

 本当にわたしのことが好きだというなら、大人になってから口説けばいいのに。

 そのときにはきっと、初恋は思い出になっているはずだから。

 大人になったわたしなら、今よりは素直にジルの想いを受け止められるだろうから。



 受け止めたい、と思っているのかは……まだ、わからないけれど。







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