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星のひかり  作者: 五十鈴スミレ
本編
13/101

十幕 死の瞬間に見た色



 リゼに言ったことは本当。でも、それだけじゃない。

 もちろん性格とか言動とかの理由が一番だけど。

 実は一つだけ、ジルのせいじゃない理由で彼に苦手意識を持っていたりする。


 金にも銀にも見える髪。それは夕日を浴びたシルバーの車体の色。

 明るい青緑の瞳。それは青信号の色。


 ジルは、わたしの死の瞬間に見た色を持っている。


 それが彼のせいじゃないのはわかっているけど、ついかまえてしまう。

 浮遊感。由美が呼ぶ声。猛スピードで走ってくる車。一瞬の衝撃。

 たった十秒にも満たない記憶。けれど濃密で、今でもたまに夢に見る、自分が死ぬ瞬間。

 そんなものを思い出させる存在は、あんまり愉快なものじゃない。


 こんな理由、もちろんジルに言えるはずがない。

 前世の光里の死因を知っている兄さまにだって言えないんだから。

 悪いなぁ、とは思う。持って生まれた色で避けるなんて。

 ジルのせいじゃないのはわかっている。それでも身体が拒否反応を起こすんだから仕方ない。

 だから運がなかったと思ってあきらめてほしい。


 というか今さらだけど、ジルは本当に本気なんだろうか?


 日常的に口説かれているせいでうっかり信じそうになっていたけれど、何度もくり返すとおりわたしは子ども。

 からかっているという可能性はないのかな。そんなの四年も続けられる?




 考えても答えが出るようなものじゃなかったので、わたしよりもジルを知っているはずの兄さまに聞いてみた。


「ジルって変態なんですか?」

「……いきなりどうした」


 そうだね、いきなりすぎたね。

 しかも聞く内容がちょっと変質した気がする。


「いえ、兄さまの交友関係に口をはさむつもりはないんですが、わたしにまで被害がおよぶ可能性があると、さすがに見過ごすこともできなくて」


 なんのことを言っているのかわかったんだろう。兄さまが微妙そうな顔をする。

 兄さまにとっては親友のことだから、わたしだってできるなら悪く言いたくはない。

 でも、ジルは度を越していると思うんだ。


「エステルはジルが嫌いか?」

「嫌いというより、苦手です。いつもへらへらしていて何を考えているのかわかりません。なによりわたしに対しての言動が危なすぎます」

「あいつは体面というものを考えないからな。だが、軽薄なやつではないぞ」


 そりゃあそうだろう。生真面目な兄さまがそんな人と友だちになれるわけがない。

 四歳になるくらいまでの記憶はあいまいなものの、それから二年以上も一緒にいればどんな人かくらいはわかる。

 へらへらしていて、というのも本音だけれど、ちゃんと真面目なところもある。

 聞いたことはないけど、兄さまみたいに将来のこともしっかり考えているんじゃないかな。


 でも、なんだろう。

 兄さまの言い方が引っかかる。


「兄さま、もしかしてジルのことを推してるんですか?」

「そういうわけではない。ただ、彼のことを信頼しているというだけだ」


 信頼してるから、大事な妹を任せられるって?

 本気でやめてください。そんなのわたしは望んでいない。

 あのジルの隣にいる自分なんて想像できない。ジルが嫌いだから、ではなくて。

 他でもない兄さまの言葉に、動揺しそうになる。

 別に兄さまがわたしよりジルを優先したことを悔しいなんて思って……いるね、確実に。

 ああ、ダメだ。外に出せない恋心が悲鳴を上げそうだ。


「わかりました。今まで自他共に認めるシスコンブラコン兄妹だと思っていましたが、考えを改めます。わたしの一方通行だったのですね。もう兄さまの愛情なんて信じませんから、一方的に思われていてくださいませ」


 なんだろう、この主張。自分でも訳がわからない。

 でも兄さまのことを嫌いになるとか無理だし。一方的でもいいって開き直るしかないじゃないか。

 もちろん、そこにこもっている気持ちには気づかせたりはしないけれど。


 兄さまがため息をつく。思わずわたしはビクッとしてしまう。

 ふわりと、身体が浮いた。

 奇妙な浮遊感なんかじゃなく、これは覚えのある安心できる感覚。

 兄さまはわたしを抱き上げて、しっかりと目を合わせた。


「私は友人として、彼の邪魔はしないと決めた。だが決しておまえを置いて話を進めたりはしない。私はエステルの幸せを願う兄でもあるのだから」


 大切にされてるなぁって、不覚にも泣きそうになった。

 兄さまの愛情を疑ったことなんて、本当はない。

 打ち解けてからは前世のことにかぎらず話す機会はたくさんあったし、妹として大切にされている自覚はあった。

 信じません、なんて言ってごめんなさい。

 素直に謝れないから、その代わりに兄さまの首にぎゅっと抱きついた。


 でもですね、一つだけつっこんでもいいですか?


「邪魔って……それじゃあの人がわたしのこと好きみたいじゃないですか」

「…………」


 兄さまが硬直するのが、肌を通して伝わってきた。

 え、え? 兄さま、なんでそんなに動揺するの?

 もしかして、図星だったりした?


「わたしは何も聞きませんでした。気づいてなんていません。ちょっとそうかなぁって思っちゃったことも気のせいだってことにしておきます。それでいいですね?」


 首から手を離して、兄さまをにらむように見ながら言い募った。


「あ、ああ」


 兄さまはコクコクと何度もうなずく。

 よし、言質は取った。



 わたしは何も気づいてないし、何も知らないのです。







10月31日 兄の台詞をほんの少し修正しました。

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