狂気の中の笑顔
「・・・・やあ、カイ。君も生きていたんだね」
自分に近寄る足音に気がついた飛鳥が振り向いて、そう声を掛ける。
その表情は、いつもの冷静な表情を崩さぬまま・・・・。
「お前も中々元気そうだな・・・・飛鳥」
そう言って俺は一歩一歩と飛鳥に近づく。
右手に持った拳銃を背後に隠しながら・・・・。
「・・・・ところで、カイ?」
「?」
飛鳥に問いかけられて、俺の足が止まる。
そして、奴は口を開く。
「絵里奈ちゃんを殺したのは・・・・君だね?」
「そう言うお前は、夕鶴を殺したんだろ・・・?」
奴からの問いかけに逆に此方から同じような質問をぶつける。
すると、暫くの沈黙が走った。
なんとも言えない緊張感・・・・。
気が狂ってしまいそうだ・・・・。
否、この状況なのだ。
政府が作り上げた、この殺し合いゲームが始まって早くも三日目。
普通の人間なら、何時自分が殺されるか解らないと言う酷い恐怖と緊張故に
とっくに正気を失い、気が狂ってしまっているだろう・・・・。
現に俺自身でさえ、正直な所、お世辞でももう正気とは言える状況ではない事は、
自分自身でも良く解っている。
緊張感が張り詰める沈黙の中、突然、飛鳥のクスクスと笑う声が聞こえた。
「嗚呼、そうだよ。俺が夕鶴を殺したんだよ」
「っ!」
「いいね、その表情・・・・嗚呼、君に見せたかったよ、あの時の夕鶴の姿」
楽しそうにそう言った飛鳥は、もう正気ではないのが一目瞭然だった。
否、奴だってこの状況下の中だ・・・・。
正気を保っている訳が無いと予測はしていたのだが・・・・。
それよりも、俺は奴が最後に言った言葉に引っかかりを感じた。
「あの時の夕鶴の姿・・・だと・・・?・・・・どういう事だ?」
「クスクス・・・・」
俺の問いに答えずひたすら笑い続ける飛鳥に苛立ちを覚えて、顔をしかめる。
すると、俺の表情に飛鳥は楽しそうに俺に告げた。
「・・・・そんなに、知りたい?俺が、彼女に何をしたか・・・・」
「・・・・・」
「俺ね・・・夕鶴を犯したんだよ」
「・・・っ!」
飛鳥の言葉に俺は今度こそ息を呑んだ。
まさか、夕鶴が・・・・そんな・・・・。
「可愛かったよ、本当・・・嫌がって泣きながら抵抗してさ。
抵抗される方が逆にこっちは萌えるのにね」
「・・・・ふざっ・・・・」
「ただ、残念なのが、夕鶴が君の名前ばかり呼んでた事かな・・・
『カイ、カイっ!』って・・・抱いて居るのは俺だったのにね」
「・・・・・」
もう、言葉が出ない。
変わりにもう枯れ果てた筈の涙が俺の頬を伝う。
好きでもない男に強姦されて、助けを呼んでも誰も助けなど来ない状況下、
其れでも俺の名前を呼んで、俺に助けを求めていた夕鶴・・・・。
一体、彼女は・・・夕鶴は、どれだけ辛い思いを・・・・怖い思いをしたんだろうか・・・・。
そう思った瞬間、俺の中の僅かに残っていた理性の糸が完全に切れた。
「飛鳥っ!貴様ぁぁぁぁぁっっ!!」
奴に襲い掛かり、押し倒して奴の細い首に両手を締め付ける。
しかし、当の飛鳥は余裕の笑顔だ。
「そんなに俺が憎いかい?カイ」
「貴様っ・・・・」
「そういえば君、まだ夕鶴と寝ていなかったんだっけ?
君、彼女の事を相当大切にしていたみたいだからね・・・」
「黙れっっ!!!」
「じゃぁ、夕鶴の処女は俺が貰ったことになるね・・・少し君に悪いことしたかな?」
「黙れと言っているだろっっ!!!!」
悲鳴のような俺の怒鳴り声。
同時に奴の首を絞める力を強める。
もう、このまま奴を絞め殺してしまいたい・・・・否、絞め殺してやる。
どうせ、このゲームは自分が殺されるか、相手を殺すかの二つしか選択権が・・・
道が無いルールなのだから・・・。
しかし、何故、俺は自分が持っていた拳銃で奴を殺さなかったのだろう・・・・?
そう、すぐに俺は後悔する事になる。
「・・・・そんな力で俺に適うとでも本気で思っているのかい?」
「・・・?」
不気味に笑いながらそういう飛鳥に、一瞬手の力が弱まってしまったその刹那。
「!」
飛鳥が俺の手を振り解いたと、思った瞬間、今度は俺が飛鳥に押し倒される。
その時、地面に全身を強く打ち付けられ、痛みに一瞬身動きが取れなくなった。
その瞬間に、奴は自分の左手を俺の首に、右手に持っている拳銃を俺の額に突きつける。
「訂正逆転だね・・・カイ」
「っ・・・・」
「ねぇ、君さあ・・・俺に犯されてみる?夕鶴のように・・・」
「ふざけるな・・・っ」
「冗談だよ。俺だって君なんか好みじゃないさ・・・第一、俺は女の子しか興味ないよ」
けらけらと笑いながら奴は俺にそう吐き捨てる。
「・・・」
「でもね、死ぬ前に一つだけ教えておいて上げるよ」
「何がだ?」
「実は俺も、前から夕鶴を狙っていたと言う事・・・・
本当に大切なものはこういう状況下でも、常に傍らにおいて置かないといけないよ?」
「・・・」
「最も、夕鶴を自分の傍に置いて置かず、
彼女を俺みたいな輩から護り切れなかったのは君の失点だったけどね」
「まぁ、悪く思わないでよ・・・もう時期、君だって愛しの夕鶴の所へ逝けるんだから・・・・」
そう狂気的に笑う奴の声と、カチャリと、拳銃の撃鉄の音が聞こえた。
もう、死ぬ覚悟などとっくに出来ていた。
夕鶴の仇である飛鳥を殺せなかったのは悔いではあるが、
もう直ぐ夕鶴の居る所へ逝けるのだから、俺はもうそれで良いと思った――・・・・。
パーン・・・・・
乾いた銃声が森の中に鳴り響いた。
「・・・・俺に勝つのはまだ早いよ」
そう、狂気的な笑みと共に、もう息を途絶えた相手に吐き捨てる。
「さて、次は誰を殺ろうかな・・・?」
そう、楽しそうな笑みを浮かべながら、飛鳥は森の更に奥へと足を進めた。
もう、この先どうなってしまうのだろうか・・・?
その行き末は誰も知るわけが無い・・・・。
それが、神である存在であったとしても――・・・・。
そして、それから更に二日後――・・・・。
この残酷なゲームは終わりを告げた。
たった一人の少年だけを残して・・・・・。
勝者:篠崎飛鳥
しかし、何もかもを失い、悲しみと狂気だけをこの手に残してしまった彼は、
この先、何を求めて、何を頼りに生きていくのだろうか・・・・?
そして、飛鳥が日本に帰国して数日後の事だった。
彼が行方を眩ませたのは言うまでも無い――・・・・・。
<END>
・・・・・・遂にやってしまいました。
もう、なにも言い訳できません。スンマセン・・・・
某漫画の二次創作でのバトロワネタでは飽き足りず、
遂に自分の所のキャラでもやり始めてしまったか・・・燈渡よ。
正直、何故オリジナルでこんなネタを引っ張ってきたのか、
私自身も理解出来ていません・・・。
何と言うか・・・「魔が差した」とは又ちょっと違う気もしますが・・・
恐らく、その分類だと思います。←
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