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――その晩は満月だった。


夜風の冷たい風が心地よい。

クロヴィスはハーブティーに少し口を付けて月を見上げた。


「……っ!?」


不意に夜空を埋める巨体。

バルコニーの外から、突然覗き込むドラゴンと目が合う。


思わずクロヴィスはのけ反った。


「久しいな、今代の王よ」


「き、急に現れるな!あと父上はまだ健在だ!」


言いたいことは山ほどあるが、取り敢えず思い付くことを先に突っ込んでおく。

細かいことを気にしてると身が持たない。


「…それとドラゴンの姿は目立つ。せめて人の形で現れてくれ」


クロヴィスはがっくりと疲れた顔をしてハーブティーを持ち直した。


「面倒だな、人に関わると言うのは…」


「その面倒を押して現れた理由はなんだ?」


クロヴィスの問いかけに、姿を人の形に変えたドラゴンの目が細められた。

ヴァルトが低く(いにしえ)の言葉を紡ぐ。


『――同胞の血を得た男の、止まっていた時が流れ出した…』


「……古代語か?」


困惑するクロヴィスの顎に、ヴァルトの指が添えられる。

今度はクロヴィスにも伝わる言葉をゆっくり紡ぐ。


「王家の忌まわしい過ちが正せるかもしれんぞ?お前達の『縁』は複雑なようで、単純だ」


「王家の過ち?」


「力を求め一人の民を陥れたお前の祖先の過ちだ。文明ひとつ吹き飛ばした業の深い欲の塊よ…」


クロヴィスは目を瞬かせた。

あまりに抽象的すぎる。


「はっきり言え。何が言いたい?」


「はっきりは言えない。お前達が自ら知るべきことだからな」


「なら中途半端に関わるな。気になるだろうが」


息もかかる距離で、視線を合わせる二人の間に風が抜けた。

ヴァルトはクロヴィスから指を離すとそのままバルコニーから飛び降りた。


「お、おい!」


「王よ、古き時代を調べてみろ。お前達が『ガイ』にしたことが分かるかもしれんぞ…」


瞬く間にドラゴンに形を変えてヴァルトは飛び去った。

後に残されたクロヴィスの手のなかで、ハーブティーはすっかり温度を無くしていた。


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