Episode4
「――公女様!」
息を切らしてアルフォンスが駆け寄ってきた。
「アルフォンス卿?」
「だ、大丈夫ですか?何かされたりしてませんか?」
アルフォンスは慌ててラビエンが怪我をしていないか確認をする。
「大丈夫だ。これは、卿がやったのか?」
「ええ。眠らせました」
アルフォンスが事も無げに言う。
『すごいわね。無詠唱でこんな威力の魔術を使うなんて』
「無詠唱?アローアはアルフォンス卿に気づいていたのか」
『ええ。だから私が光って場所を知らせたんじゃない』
「余計な事を···これはアルフォンス卿に不利益な事になるのでは?」
「いえ。皇太子殿下は眠らされた事には気付かないでしょう。公女様、もしかして今、聖剣とお話をされているのですか?」
アルフォンスがきらきらして瞳でラビエンを見ている。
誤魔化す意味はないと思い、ラビエンは答えた。
「ああ。私とアローアは意思疎通が取れるから」
(しかしこの男、皇太子に怯まず魔術を使うとは)
ラビエンは思わず顔が赤くなり、目をそらした。
『ラビエン?あら、貴方。もしかしてこの子のことがちょっと気になってるんじゃないの』
「ち、ちがう」
『そうよね〜、ラビエンは誰かに守られるなんてあんまりないし』
「違うと言っている!」
思わず叫んでしまい、驚いているアルフォンスを見てラビエンの顔はまた赤くなった。
「と、とにかく!アルフォンス卿、貴方は私の実力を知っているんだろう?次からは通り過ぎて構わない」
「何故です?皇太子に剣を向けることは出来ないでしょう」
「何故って···剣を取らずとも大丈夫だ。さっきも付いて行きさえすれば何とかなっただろうし」
『えっ』
「何ですって?」
アローアとアルフォンスの声が同時に聞こえた。
『何言ってるのよ!そんな訳ないでしょ!まったく···』
「付いて行くって····正気ですか。本当に間に合って良かったです」
甲高い声で叫ぶアローアと、青ざめて低い声を出すアルフォンス。
「2人で同時にしゃべらないでくれ」
ラビエンは頭痛がしてきそうだ。
『この子とは仲良くなれそうだわ』
声は聞こえてないはずなのに、アルフォンスがペンダントに擬態しているアローアを見た。
「今、アローア様が私を呼んだような気が」
「え?」
『あら!』
アローアは気持ちを良くしたのか、輝きを放った。
「やはり!」
アルフォンスも嬉しそうに顔を輝かせる。
またアローアがピカッと光る。
(やめてくれ。アローアは眩しいし、アルフォンス卿の顔面も眩しい)
「とりあえず殿下をどうするか···」
ラビエンが言うと、アルフォンスが皇太子を足でつついた。
(ん?蹴った?)
ラビエンが目を疑うと、視線に気付いたアルフォンスは微笑って言った。
「ちなみにリガードは第二王子の派閥です」
(いやだからと言って皇太子を足蹴に···見なかったことにしよう)
「起きないので、あとで衛兵を呼んできましょう。先ほど会場でだいぶお酒を召し上がっていたので、眠っていてもおかしくありません。―あ、仕上げに」
アルフォンスは皇太子の頭に手をかざし、短く何か唱えた。
「1時間ほど前の記憶を消しました。公女様のことも覚えてないでしょう」
(こ、こいつは····)
ちょっと怖い。剣聖である父よりも、聖剣を持つ自分よりも厄介な人物なのではないか。
不穏な目をしてアルフォンスを見つめると、アルフォンスは照れたように顔を赤らめた。顔が赤くなるとこの美青年は異様な艶めかしさを放つ。
「あ、記憶操作などの精神魔法は、1時間くらいしか弄ることが出来ません。あまり役に立たないので普段使うことがあまりないのですが···」
(何を照れることがある?)
「そ、そうか。すごいな?」
アルフォンスの顔は更に赤くなった。
「で、ではアルフォンス卿、私はこれで」
向きを変え、その場から去ろうとすると、アローアが光った。
『待って。もう私、この子じゃないと認めないわ』
「···何を?」
嫌な予感だ。
立ち去るタイミングを逃してしまった。アルフォンスがゴクリと喉を鳴らした。
「こ、公女様。私に公女様とお話する機会をいただけませんか?公女様と仲良くなりたいのです」
若干憂いを帯びた、しかし熱のあるアメジストの瞳に見つめられ、ラビエンはしまったと思った。
応援するようにアローアが淡く光る。
(くっ、拒まないと。私は普通の恋愛がしたい!)
「わ、私は···」(なりたくない)
『ラビエン!この子の何がいけないのよ!この子だってきっと勇気を出してくれてるのよ!』
痺れを切らしたアローアが責め立てる。
(うう)
「は、話すだけなら」
アルフォンスの顔が輝いた。
自分が押しに弱いことを初めて知ったラビエンは、ピカピカと機嫌よく光るアローアを睨んだ。
「明日、邸宅に伺ってもよろしいですか?」
アローアが肯定するようにピカッと光る。
「えっ。明日改めて話すのか?今ちょっと話すんじゃ駄目か?」
アルフォンスはにこにこと答える。
「今もお時間があるなら。明日もご予定がなければ伺わせて頂きたいです」
(しまった。増えた)
『予定なんかないわよね?いいわよ!いいわよ!』
「いや確かに予定はないが···」
「嬉しいです!必ず伺います!」
『まぁ!楽しみね、ラビエン!』
「え?あぁ楽しみだな」
ピカピカ光りながら満足そうに話すアローアと、照れながら顔を輝かせて話すアルフォンスと、一体私は今誰と会話をしているのか?
結局、会場までエスコートをされ、兄にアルフォンスを紹介する羽目になった。
アローアがあまりにもアルフォンスを推すので、ラビエンの思い描いていた恋路とは違うものの、これはこれで悪くないのかもしれない。と既に絆されている。
――後日、邸宅で聖剣を手に訓練しているラビエンの元へ、アルフォンスは大きな薔薇の花束を持って伺った。それを受け取ってしまったのだから、すでにラビエンの退路は断たれたのだ。
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聖剣であるアローアが、ほとんど聖剣の姿にならぬまま終わってしまったのが心残りです。




