Episode1
紫色に輝く剣を、地面に突き刺した。
自分の血と、返り血とで変色した鎧を脱ぎ捨てる。
「終わった」
肩で息をしながらしゃがみ込み、ため息と共に吐き出した。
これで、これでやっと。
―――私にも恋が出来る。
❉❉❉❉❉
8年続いた辺境での戦に終止符を打ったのは、皇帝ダナトスの懐刀、ワイマール公爵家の後継者だ。幼くして聖剣アローアに認められ、剣聖として名を轟かせる人物である。白銀の髪に、冷気すら感じる冷たい蒼い瞳。オークの様に大きい体躯であるとも、こどもの様に華奢だったとも言われ、本当のところは一部の者と、共に戦地を踏んだ者以外は知らない。
しかし蓋を開けてみれば、その正体はまだ16歳の少女だった。
『ちがう!ちがうって言ってるじゃない。そっちじゃないわよ!金髪の方よ』
「私は黒髪の方が良いと言ってるんだ。アローアと私では男性の趣味が合わない」
王宮の夜会にて、壁に寄りかかり私は1人呟いていた。厳密には、1人と1本。
『ラビエン。最初から逃げ腰では駄目よ。狙うなら大物を狙わなきゃ』
これ以上相棒の相手をすると、夜会会場で独り言を言うレディとしてレッテルを貼られてしまう。
それに何が悲しくて剣と好みの男性について語らねばならないのか。ラビエンは無視を決め込んだ。
しきりに話かけてくるこの無機物は、今は小さくなりペンダントに擬態しているが、この大陸に数本しかない貴重な聖剣だ。
5歳の頃に啓示を受け、それから10年。片時も離れず共にある。
ラビエン・ワイマールが、初めて剣を握ったのは2歳の時だ。ともするともっと前かもしれない。
ワイマール公爵家は、皇室の剣として建国初期からある由緒正しい家門だ。代々有能な騎士を輩出し、聖剣に選ばれる者も少なくない。
それ故、ワイマールの者たちは産まれた頃から剣に触れ、物心付いた頃から剣術を習う。
ラビエンの才能は、剣聖と呼ばれた父よりも優れているとされ、小さな頃から大人と共に鍛えられた。
――しかし、それも当然のこと。
3歳の頃から剣を振れたのも、初めて振った剣に皆が感動したのも、それは当然だろう。
ラビエンは転生者だった。
前世では剣道一筋であり、30年近く剣道に費やした。
好きなものは、恋愛漫画と、剣道。それのみ。恋愛はおろか、好きな人もおらず。死の淵で死ぬほど後悔して死んだのだ。
記憶を持ったまま、始まった2度目の人生。ラビエンは今度こそ恋愛をすると産まれてすぐに決意した。
(この剣術馬鹿の公爵家に産まれたことで、また不運を繰り返すかと思ったけど、なんとか戦争を終わらせた。もう私は自由に恋愛出来るはずだ)
『ちょっと!?聞いてるのラビエン?』
思案に暮れていたラビエンは、アローアの声で我に返った。
『目の前!目の前!』
何やら興奮しているアローアの声に、ラビエンはパッと前を向いた。
正面に立っていたのは、輝く金糸の髪にアメジストの瞳。長い睫毛に影が落ちている。通った鼻筋に、形の良い唇。目が合った瞬間、ラビエンは息が止まった。
(な?!う、美しい····)
前世で言う、"イケメン"などと言う言葉ではとても表せない。
『ラビエン?ちょっと?!大丈夫?』
「あ、ああ。大丈夫よ」
『すっごいかっこいいじゃないの!この人よ!この人と恋愛しなさいよ!』
「い、いや私は」
またアローアと普通に会話してしまっていることに気づき、ラビエンは口を告ぐんだ。
慌てていると、正面に立った美麗な青年は微笑んだ。その威力たるや。ラビエンは真正面からその攻撃(微笑み)を受け、視界がくらりとした。
「その輝く銀髪は、ワイマールの公女様でしょうか?私はアルフォンス・リガードと申します」
ふらつく足を踏ん張り、ラビエンも挨拶をした。片手でドレスを掴み、淑女のカーテシーをとる。
(リガード···南部の公爵家の令息か)
「はじめまして。ラビエン・ワイマールです」
アルフォンス・リガードは、パッと花が開くように顔を輝かせた。
「やはり!辺境の戦を終わらせた英雄に会えて光栄です。よろしければあちらでお話しませんか」
北部のワイマール公爵家とは違い、南部のリガード公爵家は魔術に秀でた家門だ。
(確か子供が4人いて、その中の1人が帝国一の魔術師と呼ばれる程の実力の持ち主と聞いたことがある)
あまりの美しさに怯んでしまったが、普段関わることがないので、魔術の話を聞いてみたいと思っていた。
――が、どうしても怯んでしまう。
「いえ、申し訳ありませんが、まだ陛下に挨拶を済ませておりませんでしたので、私はこれで!」
(この美貌と対峙するなんて、私には無理だ)
ラビエンはその場を逃げだした。
読んで頂きありがとうございます。全4話のお話です。
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