文章力:⑤情景描写を意図的に入れる
ストーリーが決まって、キャラの動きやセリフも決まって、それをそのまま書き起こすと、味気のない事実の羅列が出来上がります。そこには、「情景描写」が含まれないからです。
■ 情景描写は必要なものではない
情景描写は、「風景や状況を五感を使って具体的に描写すること」です。
文章において、情景描写は必須ではありません。キャラの動きとセリフがあれば大抵の話は進みます。ストーリーに関連する人や物の視覚情報を書くくらいで、その他の情景描写は意識して足さないと出てくることはありません。
ですが、情景描写の極端に少ない文章を読むと、確かに味気ない感じがします。薄暗く何もない空間にキャラとセリフがあるだけで、作品の世界観が伝わってこないのです。
情景描写がなくても話は成立しますが、面白い作品に情景描写は必須、そう捉えるのがよさそうです。
■ 情景描写の目的は何か
文章的に本来必要でない要素を足す、というのはどう考えればいいのでしょうか。ただ闇雲に情景描写を足したら良くなるとも思えません。
--------------- 例 ---------------
ピピピピピ。目覚まし時計の音が聞こえる。太郎は自宅のベッドで目を覚ました。ぼんやりとした視界が、徐々にはっきりしてくる。見慣れた自室の天井には、三日前にボールをぶつけたときの傷が残っている。太郎がベッドに手を突き、重い体を無理やり持ち上げると、ベッドがギシリと音を立てた。
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ただ朝に目が覚めただけのシーンで、これだけ描写を詰め込んだところで面白くもなんともないです。
「太郎は眠い目をこすりながらシャワーを浴びて、朝食も食べずに家を飛び出した」くらいでさっさと次のシーンに行けば、それで十分です。
では、どこに情景描写を差し込めばいいのか。作中に入れるべき情景描写を、目的ごとに分類してみることにします。
■ 視点操作
シーンの冒頭や、話の焦点が切り替わるタイミングで、視点を読者と合わせるための描写です。
・視点保持者の明示(シーン冒頭で主人公から見える景色の描写など)
・話者の提示(セリフの話者に注目させるための描写)
・話の焦点の提示(時計の描写をしておいて時間の話題に移行する、など)
・次シーンへの移行(遠くに街が見えてくるなど、次シーンの舞台を思わせる描写)
主に視覚を利用した描写になります。
■ 印象操作
特定のキャラ、物を読者に強く印象付けるための描写です。
・キャラの紹介(外見、動き、声など)
・キャラの性格(表情、仕草など)
・物語で重要な役割を果たす手がかり(探し求めていた宝物や、事件の証拠など)
視覚はもちろんですが音を使った描写も多いです。(声色や、キャラの動きによって生じる音など)
■ 物語設計
作品の世界観を伝えるための描写です。
・作品の世界、設定の説明(ファンタジーや近未来世界の街の景色など)
視覚以外にも匂いや温度を組み合わせることが多いです。
■ テンポ調整
話のテンポを落とすための描写で、これまでのものとは毛色が違います。作品の世界を表現するというよりは、読者の読むペースを落とすことが目的になります。
・時間経過(出来事と出来事の間の時間経過を表すために間に挟み込む描写)
・読者が情報を消化するための時間稼ぎ(新設定を詰め込み過ぎた場合に、一度話を止めるための描写)
このパターンは描写の中身自体ははなんでもいいので、一見無意味に見える描写を入れても成立する可能性があります。(何の脈絡もなく、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえる、など)
■ 情景描写は理詰めで入れられる
ここまでで分類したように、情景描写は目的ごとにおおよその用途が決まっています。そのため、情景描写を入れるべき場所というのは自ずと定まってきます。
・シーンの冒頭、末尾
・セリフの前後
・そのシーンで話題の中心となる人、物が出てきたとき
・新キャラ、新設定が出てきたとき
・新しい場所に訪れた時
・話のテンポを落としたいとき
これらの場所に意図的に情景描写を埋め込んでいきます。
ここまでやったら、あとは作品のスタイルによって、コミカルな動き(踊ったり跳ねたり)や、シリアスな緊張感(つばを飲み込んだり握った拳が震えたり)の描写を足しながら微調整していくのがいいのではないでしょうか。
【今回のまとめ】
・情景描写は文章に必要な要素ではないが、面白い作品にするためには必須となる
・情景描写はいくつかの目的で分類でき、それを入れる場所も大体決まってくる




