第8話 世界が勇者を求める
――王都・大議会堂。
重厚な扉の向こうに広がるのは、各国の使節が集う巨大な会議の場だった。
長机の向こうに並ぶのは、フェルシア、ノルデン、アルメリア……周辺諸国の王や王女、重臣たち。
俺は場違いにも、その中央席に座らされていた。
(なんで俺がここに……!? マジで場違いすぎるだろ!)
国王レオン三世が立ち上がり、威厳ある声で宣言する。
「諸国の賢王よ。此度の会議の議題は一つ。――新しき勇者、カイの扱いについてである!」
その言葉に、会場がざわめきで揺れた。
「勇者カイ殿、どうか我が国に滞在を!」
「いや、我らノルデンが先だ! 勇者殿には我が娘を差し上げる!」
「アルメリアも姫を勇者に嫁がせ、国を救っていただきたい!」
――なんだこの婚約ラッシュは!?
各国代表が次々に立ち上がり、俺に向かって「娘を」「姫を」と言い募る。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はそんなつもりは――」
しかし俺の声は、歓声にかき消された。
「勇者様は謙虚なお方だ!」
「これほど拒む姿勢こそ、真の英雄の証!」
(いや違うからぁぁぁぁ!!)
壇上で王女エレナが立ち上がる。
「勇者様は、この国の守護者であり、我が婚約者候補です!」
続いて聖女リリアが前に出る。
「いえ、勇者様は神の導きによって私と結ばれる運命にあるのです!」
さらにセリア姫までもが一歩踏み出す。
「勇者様と共に立つのは、この私。民を救うためです!」
三人のヒロインが互いに睨み合う。
会場は一気に修羅場と化し、外交の場どころではなくなっていた。
そのとき――。
「やはり……奴は国々を惑わす魔物だ!」
鋭い声が響く。
俺を追放した勇者アレスが、堂々と前に進み出てきた。
「いい加減目を覚ませ! カイは無能だ! これは全て茶番だ!」
会場は一瞬静まり返った。
だが次の瞬間――
「無能? ……それほど謙虚に己を卑下するとは!」
「やはり本物の勇者だ!」
諸国の使節が一斉に頷き、会場は歓喜の渦に包まれた。
「ま、待て! 違うんだ! 俺はただ……!」
――またもや否定が、英雄性を確信させる材料になってしまう。
こうして俺は、各国の姫から求婚され、
世界規模で「勇者カイ伝説」を広められることになったのだった。
……俺の人生、どこまで勘違いされ続けるんだ!?