第7話 隣国の姫、まさかの求婚!?
王都が熱狂に包まれた翌日。
謁見の間に集められた俺は、国王の横でガチガチに緊張していた。
「勇者カイよ。本日は隣国フェルシアからの使者が来ている。……そなたに関わる重大な話だ」
(またかよ……! もう放っておいてくれ!)
重々しい扉が開き、絢爛なドレスを纏った少女が現れた。
深紅の髪を三つ編みにまとめ、翡翠の瞳を輝かせている。
彼女の背後には護衛の騎士団が列をなし、その存在感は王女エレナにすら負けていない。
「フェルシア王国第一王女、セリア・ローゼンベルクと申します」
――王女か!? しかも、隣国の!
セリアは真っ直ぐに歩み寄り、俺の前で膝をついた。
「勇者カイ様。どうか、この私と婚約を結んでいただけませんか?」
「ぶふぉっ!? け、婚約!?」
謁見の間に響き渡るその言葉。
俺は混乱しすぎて、変な声を出してしまった。
「ま、待ってくれ! 俺は――」
「存じています。謙虚に己を“無能”と称されるそのお姿……まさに勇者にふさわしい」
(いやいやいや! どうしてそうなるんだ!?)
当然のように周囲がざわめき始める。
「な、隣国の王女まで勇者様に!?」
「これで二国が手を取り合えば、最強の同盟が生まれるぞ!」
国王は嬉しそうに頷き、エレナは顔を真っ赤にして震えた。
「そ、そんな……私よりも先に婚約を……?」
リリアは両手を握りしめて必死に言葉を放つ。
「勇者様はすでにこの聖女と心を通わせておられます!」
「ちょっと待て! 俺は誰とも――」
無駄だった。
彼女たちは完全に「勇者様がどちらを選ぶか」という方向に解釈している。
セリア姫は立ち上がり、俺の手を取った。
「どうかお聞きください。私の国は魔王軍の侵攻に苦しんでいます。勇者様が私と婚約すれば、民は救われます……」
瞳に涙を浮かべ、震える声で訴える。
群衆は「英雄は世界を救う」と喝采を上げた。
「……いやいやいや! 俺はただの一般人だからぁぁぁぁ!!」
その場の混乱の中、アレスが人混みをかき分けて前に出た。
「ふざけるな……! 隣国まで巻き込みやがって……カイ、貴様はどこまで奪えば気が済む!?」
彼の瞳は憎悪に燃えていた。
だが周囲は「嫉妬する元勇者」の図にしか見えない。
こうして俺は、隣国の姫からまで求婚される“世界規模の英雄”に勘違いされてしまった。