第6話 仕組まれた罠と、またしても英雄伝説
その夜。
王都の一角、石畳に囲まれた裏路地で、低い声が響いた。
「許せねぇ……! あの無能が、英雄面しやがって……!」
怒りに震えるのは勇者アレスだ。
隣には魔導師セリナ、剣士リオン、僧侶マリナ。
かつて俺と肩を並べた仲間たちが、今は憎悪に染まっている。
「アレス様、どういたします? このままでは国王陛下まで完全に“カイ派”に……」
「簡単だ。あいつの化けの皮を剥がせばいい」
アレスは薄く笑った。
「明日の英雄式典で、俺が罠を仕掛ける。……奴が無能だと、王と国中に証明してやる」
翌日。
王都の広場には群衆が押し寄せていた。
「勇者カイ様、万歳!」と声を張り上げる人々の熱気が、祭りのように渦を巻いている。
……当の俺は、壇上の真ん中で冷や汗を流していた。
(なんで俺、こんなとこに立たされてんだ……!?)
王女エレナが隣で微笑み、聖女リリアは祈りを捧げ、ジーク団長は剣を掲げている。
俺だけが完全に場違いだ。
その時――。
「魔獣が出たぞォォォ!!」
群衆の悲鳴が上がった。
どこからか放たれた魔導陣が爆ぜ、巨大なゴーレムが広場へ姿を現したのだ。
「な、なにっ……!?」
「広場の結界が……破られている!?」
魔導師セリナの仕業だと直感した。
アレスたちの陰謀。俺を窮地に陥れ、無能を証明するつもりなのだろう。
「さぁ見せろよカイ! 本当に英雄なら、この魔獣を倒してみろ!」
アレスの嘲笑が響く。
(ムリムリムリムリ! 俺にそんな力は――!)
俺は慌てて飛び退いた。
その瞬間、ゴーレムの拳が俺に迫り――
ゴッシャアアアアッ!
拳は俺を掠め、そのまま自分の胸へ直撃。
轟音と共に、巨体が崩れ落ちる。
「…………え?」
〈反射同調〉がまた発動していたのだ。
俺はただ避けただけ。
だが観客の目には「勇者が片手でゴーレムを粉砕した」としか映らなかった。
「す……すげぇ……!」
「これが……伝説の力……!」
「万歳! 勇者カイ様万歳!!」
広場が歓声に包まれる。
聖女リリアは涙を流して膝をつき、王女エレナは頬を赤らめて俺の腕を取る。
ジーク団長は剣を掲げ、雄叫びを上げた。
「我らが英雄に、勝利あれ!!」
「いや、だから俺は――」
必死の否定は、再び「謙虚すぎる勇者」の言葉として処理された。
壇上の隅、アレスは青ざめて立ち尽くしていた。
「ば、馬鹿な……! あれほどの罠を……一瞬で……」
「アレス様……もう誰も、信じてくれません……」
仲間たちが呟き、彼らの計画は完全に裏目に出た。
こうして俺は、仕組まれた罠すら“奇跡の勝利”と勘違いされ、
ますます英雄伝説を強固なものにしてしまったのだった。