第5話 国王の勅命と、婚約ラッシュの始まり
王都の大広間。
黄金の柱に囲まれた荘厳な謁見の間に、俺は無理やり連れてこられていた。
膝をつく聖女リリアと騎士団長ジーク。隣には王女エレナ。
そして玉座に座るのは、この国の支配者――国王レオン三世だ。
「……そなたが、鋼鉄竜を討ち果たした新しき勇者か」
低く響く声に、俺は反射的に頭を下げた。
「い、いえ俺は――」
「謙遜はよい」
王の眼差しは鋭く、しかしどこか慈しみに満ちていた。
「この国は今、大いなる脅威に晒されている。魔王軍の侵攻を退けるには、勇者の力が不可欠……。カイ、そなたに勅命を下す」
玉座の間に沈黙が広がる。
王は片手を上げ、重々しく告げた。
「――勇者カイよ。この国を守れ。そして、王家の未来を共に築くのだ」
「……は?」
突然の言葉に、俺は硬直する。
だが周囲は一斉に沸き立った。
「やはり……勇者様が正式に認められた!」
「国王陛下のお墨付きだ!」
聖女リリアは感涙し、ジークは剣を掲げて忠誠を誓う。
王女エレナは頬を紅潮させ、両手を胸に添えてこちらを見つめていた。
「勇者様……これで堂々と、婚約をお受けいただけますね」
「えええええっ!?」
混乱している俺の耳に、さらに爆弾のような声が飛び込む。
「お待ちください、殿下!」
リリアが立ち上がり、必死の形相で言い放った。
「勇者様をお支えするのは、この聖女リリアの使命……! 私こそが、伴侶としてふさわしいのです!」
「なっ……!?」
「おいおい、ここで婚約争い始まるのかよ!?」
会場がざわめく。
さらに、ジーク団長までが一歩前に進み出る。
「勇者様。もし婚約者を選ばれるのであれば、我が妹を――」
「お前もかぁぁぁぁ!!」
否応なく始まった婚約ラッシュ。
俺はただ巻き込まれているだけなのに、場の空気は完全に「勇者カイ争奪戦」になっていた。
国王はそれを眺め、楽しげに笑う。
「よい。娘を嫁に望む者が多いのは結構なことだ。……勇者よ、選ぶがよい」
「いや無理だから!? 俺、婚約とかそういうのマジで――」
必死に手を振るが、周囲は「照れている」「慎重なだけ」と解釈してくれる。
そして――その光景を、広間の片隅で苦々しい顔で睨んでいた者たちがいた。
勇者アレスと旧パーティの面々だ。
「……ふざけるな。俺たちが築いてきたものを、あいつが全部奪っていくのか……!」
アレスの呟きに、暗い影が広がる。
こうして、俺は国王に“正式な英雄”として認定され、
気づけば国中から婚約を迫られる羽目になった。
――俺の人生、どこで間違ったんだ!?