第4話 旧パーティとの再会と、再びの勘違い
広場に緊張が走った。
俺を追放した勇者アレスと、その仲間たち――剣士リオン、魔導師セリナ、僧侶マリナ。かつての“勇者パーティ”が、王女エレナの前に現れたのだ。
「……アレス様、本当に……あの方が?」
「間違いない。あの無能のカイだ。だがなぜ……王女殿下に手を取られている?」
仲間たちの視線は、驚きと困惑に満ちていた。
俺は必死に弁解する。
「ち、違うんだ! 俺はただ、ドラゴンが勝手に……」
「黙れ!」
アレスの怒声が広場を揺るがした。
「国を欺き、聖女と王女をたぶらかすとは、貴様……! 恥を知れ!」
「いや、だから誤解だって!」
周囲の空気が一気に張り詰める。
リリアは俺の前に立ちはだかり、エレナは手を離さずに強く握ってきた。
「勇者様を侮辱するなど許しません!」
「そうですわ。カイ様は、この国の英雄です!」
「なっ……」
アレスは言葉を失った。
かつて自分の背後に控えていた仲間たちが、今は俺の側に立っているように見えるからだろう。
「……ならば証明してみせろ。カイ、お前が本当に英雄だというのなら!」
アレスが剣を抜いた。
鋭い刃が陽光を反射し、広場の空気が震える。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は戦う気なんて――」
「黙れ! 俺の一太刀を受けきれぬなら、貴様はただの詐欺師だ!」
振り下ろされる剣。
俺は反射的に手を上げてしまった。
ガキィィィン――ッ!
乾いた衝撃音と共に、アレスの剣が弾き飛んだ。
俺はただ手を突き出しただけ。だが〈反射同調〉が発動し、力の流れがそのままアレス自身に返っていったのだ。
「ぐっ……!?」
次の瞬間、アレスは自分の剣で腕を切り裂かれていた。
鮮血が飛び散り、広場に悲鳴が響く。
「な、なんだ今のは……!」
「アレス様の剣が……自分に跳ね返った……?」
村人たちがざわめき、聖女リリアが震える声で叫んだ。
「これこそ……神に選ばれし〈絶対防御の勇者〉の証です!」
「いやいやいや! 今のはただの事故だから!」
だが誰も俺の必死の否定を聞き入れない。
王女エレナが、感極まったように涙ぐんでいた。
「……これで確信しましたわ。あなたこそ、この国を導く真の英雄」
ジーク団長も膝をつき、剣を地に突き立てる。
「勇者様……我ら騎士団、一同お仕えいたします!」
「……ま、待てってばぁぁぁぁ!」
アレスは悔しげに唇を噛み、俺を睨みつけた。
「カイ……貴様、一体何を隠している……? 俺たちを追い抜くつもりなのか?」
「ち、違う! 俺はただ……!」
必死の否定も虚しく、広場にいる全員が「謙虚さこそ勇者の証」と解釈してしまう。
――どうして俺は、こうも勘違いされるんだ!?
こうして、俺は旧パーティとの衝突さえも“圧倒的勝利”と勘違いされ、
ますます“英雄”としての地位を固めてしまったのだった。