第3話 王女からの婚約話!?
「勇者様、王都からの使者が参りました!」
村の広場に響いた声に、ざわめきが広がる。
俺はベッドの上で飛び起きた。聖女リリアが朝から俺の横で祈り続けていたせいで、一睡もできなかったのだ。
(……なんだってんだよ、今度は)
窓の外を覗くと、王都から来たらしい煌びやかな馬車が停まっていた。
扉が開き、金色の刺繍を施したドレスに身を包む少女が降り立つ。
透き通るような金髪、澄んだ蒼眼。
彼女の一歩一歩に、村人たちは息を呑んだ。
「……王女、エレナ殿下……!」
周囲が膝をつく中、俺だけが硬直する。
エレナは俺を真っ直ぐに見つめると、ためらいもなく歩み寄ってきた。
そして――
「勇者カイ様。どうか、この国の未来を共に担っていただけませんか?」
そう言って、俺の手を取った。
「――えええええっ!?」
「ま、待ってくれ! 俺は勇者なんかじゃ……!」
「ご謙遜を。鋼鉄竜を討ち、聖女を救い、騎士団長を従わせた英雄を、他に誰と呼べましょう」
王女の言葉に、リリアとジークが同時に頷く。
村人たちは歓声を上げ、もう完全に「勇者カイ婚約確定!」の空気だ。
「そ、そんな……俺はただ避けただけで……」
震える俺の言葉を、誰もまともに受け取らない。
むしろ「謙虚さまで伝説級だ」とさらに勘違いが広がっていく。
「勇者様。私は、国を背負う王女としてではなく……ひとりの女として、あなたを求めます」
エレナが頬を赤らめて告げる。
空気が一瞬で甘く、熱くなる。
――やばい、完全に婚約話じゃないか!
聖女リリアが「ああ……負けられません……!」と小さく呟き、騎士団長ジークは「勇者様をお守りできるなら、どのような立場でも」と剣を掲げる。
……気づけば俺の周囲は、愛と忠誠と勘違いで埋め尽くされていた。
そのとき、背筋を冷やす声が聞こえた。
「……まさか、あの“無能”カイが勇者として祭り上げられているとはな」
振り向くと、そこにいたのは――
俺を追放した勇者アレスと、かつての仲間たちだった。
彼らの目には、信じられないものを見るような動揺と……嫉妬が混じっていた。
「カイ……お前、一体何者なんだ?」
「いや、だから俺は何者でもないってばぁぁぁぁぁ!」
――勘違いは、ついに王都を巻き込む大騒動へ。