第2話 聖女の勘違いと、膝をつく騎士団
「私の命、あなた様に捧げます!」
いきなり目の前で聖女リリアが跪いた。
俺は慌てて手を振る。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はただ――」
「ご謙遜なさらないでください。あの鋼鉄竜を一撃で倒せる人など、伝説の勇者様以外にいません!」
キラキラした瞳で見上げてくる彼女に、言葉が詰まった。
――いや、俺はただ避けただけなんだって。
だがリリアは、俺の沈黙を「謙虚な英雄の姿」と解釈したらしい。
両手を胸に組み、祈りを捧げるように言葉を続けた。
「女神のお告げにありました。“勇者は絶望の森にて蘇る”と……。まさか本当に、その通りになるなんて」
「いやいやいやいや!」
「やはり……本物の勇者様……!」
――どうしてこうなる!?
翌日、俺はリリアに半ば強引に連れられ、村の広場に立たされていた。
大勢の村人たちが集まり、花びらを撒いて「勇者様!」と叫んでいる。
「皆さま、安心してください! 勇者カイ様は生きておられます!」
「おおおお!」
リリアの高らかな宣言に、村人たちは感涙していた。
俺は人混みの中で小声で抗議する。
「……おい、俺は本物の勇者なんかじゃ――」
「わかっています。ご自身を“ただの無能”と偽ることで、真の力を隠そうとなさっているのでしょう?」
「違う!! めっちゃ違う!!」
――が、誰も聞いてくれない。
そのとき、鎧の擦れる音がして広場がざわめいた。
銀の甲冑を纏った騎士団が現れ、その先頭に立つのは屈強な男――王都騎士団長ジークだ。
「ここに、“鋼鉄竜を一撃で討ち倒した勇者”がいると聞いた」
「え、いや、俺は……」
ジークは俺の前に跪き、剣を掲げる。
「カイ様、どうか我らに剣を振るう栄誉をお与えください!」
「ええええ!?」
広場は歓声に包まれた。
聖女リリアが両手を合わせ、瞳を潤ませる。
「これで国も救われます……!」
「いや、だから違うんだってば……!」
こうして俺は――
・聖女に「命を捧げます」と誓われ、
・騎士団長に「剣を授けてくれ」と跪かれ、
・村人全員から「救世主」と祭り上げられる。
完全に“英雄”の立場にされてしまった。
……どうして俺の人生、こうなったんだ。