第19話 最後の戦い――偶然が導く必殺
絶望の峰を揺るがす咆哮。
闇を纏った魔王ヴァルゼルドが、敗れたアレスを一瞥し、低く嗤った。
「フ……やはり貴様が我が宿敵……勇者カイ」
(やめろやめろやめろ! 勝手にライバル認定すんなぁぁぁ!)
魔王が振り上げた剣から、黒雷が奔る。
大地が裂け、兵士たちが吹き飛ばされる。
「勇者様、どうかお逃げを!」
リリアの叫びに、俺はただ必死に転げ回った。
ゴオオオオオオッ!
黒雷が俺を追うように炸裂する。
俺は思わず拾った盾を掲げた――
ガキィィィンッ!!
盾は砕けたが、その破片が鏡のように光を反射し、黒雷を逆流させた。
それが魔王の胸を貫き、巨体が揺らいだ。
「……ぐぅっ……!」
「さすが勇者様! 雷を返したぞ!」
「これが“虚空返し”の真の姿か!」
(また勝手に技名つけられてるぅぅぅ!)
怒り狂った魔王が瘴気を爆発させる。
大地が崩れ、俺は足を滑らせて宙へ放り出された。
「うわぁぁぁぁっ!」
落下する俺の手が、偶然、砕けた神具の柄を掴む。
それが光を放ち、空に巨大な魔法陣を描き出した。
「なっ……これは……」
魔王が見上げた瞬間、魔法陣から光の槍が雨のように降り注ぐ。
大地を揺らす轟音と共に、魔王の体を貫いた。
「ぐあああああああああっ!!」
黒雲が裂け、夜空に光が差す。
沈黙。
そして――。
「勇者様が……魔王を討った!」
「救世主! 救世主だぁぁぁ!!」
兵士も民も、ヒロインたちも、誰もが涙を流して歓喜する。
リリアは嗚咽しながら俺に縋り、エレナは誇らしげに胸を張り、セリア姫は剣を掲げて叫んだ。
「勇者様! 世界を救ってくださり感謝いたします!」
「ち、違うんだって! 本当に俺はただ転んだだけで……!」
だが否定の声も、やはり「謙虚な英雄の言葉」としか届かない。
魔王の巨体が崩れ落ち、絶望の峰に静寂が訪れる。
世界は確かに救われた。
……偶然と誤解によって。