第18話 宿命の対決――魔王の剣を砕け
絶望の峰を震わせる咆哮。
闇を纏った勇者アレスが剣を抜き放ち、俺を睨みつける。
「カイ……お前さえいなければ、俺は勇者として世界に称えられていた!」
「ちょ、ちょっと待て! 俺は何もしてないって!」
俺の否定は誰の耳にも届かない。
リリアは祈りを捧げ、エレナは剣を握り、セリア姫は叫んだ。
「勇者様……どうか奴を討ってください!」
(無理だって! 俺にそんな力は――)
アレスが突進してきた。
漆黒の剣が稲妻のように閃き、俺の首を狙う。
「うわああああっ!!」
俺はただ必死に後ろへ転がった。
その瞬間――。
ガキィィィンッ!!
アレスの剣が俺の足元の岩に当たり、跳ね返った。
その軌道は彼自身の胸へ――。
「ぐっ……!?」
紅の鎧を裂き、黒い血が飛び散った。
「な、なんで……俺の剣が……」
群衆は息を呑み、次の瞬間、歓声が轟いた。
「勇者様が反撃した!」
「なんという必殺技……!」
「まさに神をも超える剣技!」
(いや俺、避けただけだってぇぇぇ!!)
アレスは膝をつき、なおも立ち上がろうとする。
「まだだ……俺は、勇者に……なる……!」
黒い靄が彼の体を侵食し、暴走を始めた。
魔王の力が制御を失い、アレスの肉体を喰らい尽くそうとしている。
「やめろアレス! それ以上は……!」
叫ぶ俺の声に、彼は血を吐きながらも嗤った。
「……笑わせるな……俺を認めるなぁぁぁ!!」
闇が爆ぜ、山頂を覆う。
その瞬間、俺は足を滑らせて転倒した。
握っていた聖女の聖印が空へ舞い上がり、魔王の瘴気と衝突する。
ドゴォォォォォンッ!!
大爆発と共に、闇が晴れ、アレスの黒鎧が砕け散った。
「ぐ……ああああ……っ!」
彼は膝から崩れ落ち、紅の光を失った瞳で俺を睨む。
「……なぜ……お前なんだ……」
その声は、憎しみよりも虚しさに満ちていた。
兵士たちは歓喜の声を上げた。
「勇者様が魔王の剣を討ったぞ!」
「これで勝利は目前だ!」
リリアが涙を流し、エレナが抱きつき、セリア姫が剣を掲げる。
「勇者様……やはりあなたは、私たちの希望です!」
「ち、違うって! 本当に俺はただ……!」
だがその否定も、やはり「謙虚な英雄の言葉」としか受け取られなかった。
こうして俺は――かつての勇者アレスを打ち倒し、
人々の目に「真の勇者」として刻まれてしまったのだった。