第14話 魔王との対峙――必殺技の名は「虚空返し」
轟音と共に、黒き魔炎が山頂を覆った。
魔王ヴァルゼルドが玉座のように岩に腰かけ、禍々しい力を振りまいている。
「来たな、人間。……勇者カイ」
赤い瞳が俺を射抜いた瞬間、全身から嫌な汗が噴き出した。
(やばい……! 本物の魔王じゃねぇか……! 俺が勝てるわけないだろ!!)
震える俺の前に、聖女リリアが立ち塞がる。
「勇者様、どうかお下がりください! 私が――」
「いや聖女、お前では無理だ」
魔王の低い声が広場を震わせた。
「この戦場で唯一、我に対峙する資格があるのは……勇者カイ、貴様だけだ」
「いやいやいやいや! 俺は無理だからぁぁぁ!」
魔王が片手を振り上げた。
次の瞬間、黒雷が空を裂き、俺に直撃するかと思われた――
「うわぁっ!」
俺はとっさに身を伏せた。
すると雷は俺の頭上で弾かれ、反転して魔王自身の肩を焼いた。
「……なにっ!?」
観衆がどよめく。
「勇者様の必殺技だ!」
「避けただけで雷を返した……“虚空返し”だ!」
「新たな伝説が生まれたぞ!」
(いや今勝手に技名つけたよね!?)
怒りに燃えた魔王は、剣を抜き放ち突進してくる。
その圧に俺は腰を抜かし、転げるように斜面を滑り落ちた。
ガキィィィィンッ!!
岩陰にあった魔王の魔力結晶に、魔王自身の剣が叩きつけられる。
結晶は砕け散り、魔王軍全体を覆っていた結界が霧散した。
「なっ……この力を封じる結界を破壊するとは……!」
周囲の兵士たちは歓喜の声を上げる。
「勇者様が魔王の結界を打ち砕いた!」
「まさに救世主!」
「ち、違うって! 俺はただ転んだだけ――」
「なんと奥ゆかしい……!」
「謙虚さまでも伝説級だ!」
(誰か一人でいいから俺の話を信じろよぉぉぉ!)
魔王は血を流しながらも笑みを浮かべる。
「面白い……! この力、やはり貴様こそ我が唯一の宿敵……!」
その宣言に、群衆は歓声で応じた。
聖女リリアは涙を流して祈り、エレナは胸に手を当て「やはり私の婚約者ですわ!」と叫び、セリア姫は剣を掲げ「勇者様の背を守るのは私です!」と誓う。
――完全に修羅場を超え、もはや世界規模の花嫁戦争だった。
こうして俺は、魔王本人との戦いですら“避けただけで必殺技扱い”され、
勘違い英雄譚は、さらにとんでもない方向へ加速していったのだった。