第13話 絶望の峰、決戦開幕!
――絶望の峰。
名の通り、常に黒雲が渦巻き、稲光が地を裂く不吉な山。
魔王軍が築いた砦がそびえ、闇の兵が列を成して待ち受けていた。
「うわぁ……帰りたい……」
俺は戦列の最前で震えていた。
その背後には、各国から集まった兵士たちと、聖女リリア、王女エレナ、セリア姫、そしてジーク団長が控えている。
「勇者様、どうかご安心を!」
「私たちが必ずお守りします!」
「共に勝ちましょう!」
……いや俺が守られる側なんだけど!?
「突撃せよォォォ!」
魔王軍の軍勢が一斉に押し寄せてきた。
オークの軍団、無数の骸骨兵、飛翔するワイバーン。
地響きが鳴り、兵士たちは怯えの声を上げる。
「勇者様のお力を……!」
後方から祈るリリアの声。
俺は慌てて手を振った。
「お、おい! 俺に期待すんなって!」
その瞬間。
巨大な魔導砲の弾丸が唸りを上げて飛んできた。
「うわあああっ!!」
思わず腰を抜かして転げた俺。
すると弾丸は俺の頭上で弾かれ、軌道を反転――魔王軍の砦に直撃した。
ドゴオオオオオオォォン!!!
砦の門が大爆発し、敵軍が総崩れになる。
「…………え?」
「さすが勇者様!」
「一撃で砦を破壊なさったぞ!」
「万歳! 勇者カイ様万歳!!」
……俺はただ転んだだけなんだが!?
さらに、骸骨兵の軍勢が迫る。
俺は必死に後ずさりし、拾った石ころを投げた。
コロッ。
……その石が、たまたま敵魔導師の杖を直撃。
暴走した魔力が炸裂し、骸骨兵をまとめて消し飛ばした。
「……マジか」
だが周囲には「勇者が秘術で軍団を消滅させた」としか見えない。
「勇者様……やはり神が遣わされた救世主……!」
「やっぱり私と婚約を!」
「いいえ勇者様は私の隣に!」
ヒロイン三人がまたも修羅場を繰り広げる中、兵士たちは士気を取り戻し、一気に攻め立てていった。
その背後で、アレスが歯ぎしりをしていた。
「ちくしょう……! なんであいつは偶然ばかりで勝てるんだ……!?」
怒りに震える彼の眼差しは、確実に狂気を帯び始めていた。
こうして絶望の峰での決戦は始まり、
俺はまたしても“無自覚の大勝利”で英雄伝説を広げてしまったのだった。
(……頼むから誰か気づいてくれぇぇぇ! 俺が無能だってことに!!)