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第12話 決戦前夜、勇者様をめぐる夜の攻防

 ――決戦前夜。

 王城の一室に押し込まれた俺は、ベッドに腰かけながら頭を抱えていた。


 (明日は魔王との決戦……なのに、なんで俺が“世界の希望”になってんだ……?)


 窓の外では兵士たちが鬨の声を上げ、街中が勇者カイの名を叫んでいる。

 ……プレッシャーで眠れるわけがなかった。


 コン、コン。


 ドアをノックする音。

 開けると、白い修道服に身を包んだ聖女リリアが立っていた。


 「勇者様……明日のために、どうか安らぎを」


 そう言って祈りの言葉を唱えながら、遠慮なく部屋に入ってくる。

 「ちょ、ちょっと待て! もう寝るところだから!」

 「神の加護を授ける儀式です。……もちろん、共に過ごすことも」


 リリアの頬はわずかに赤く染まっていた。


 さらに、別の方向から足音が。

 王女エレナがドレス姿で現れたのだ。


 「勇者様。決戦前夜に孤独など似合いませんわ。私が隣におります」


 堂々とした物言いだが、耳まで真っ赤だ。

 しかも手には葡萄酒の瓶。


 「お、おい……まさか飲ませて酔わせる気じゃ……」

 「勇者様が眠れるように、少しだけ……」


 「勇者様ぁ!」


 今度はセリア姫までが突撃してきた。

 「我が祖国では、決戦前に“伴侶と共に夜を過ごす”伝統があるのです!」


 「いや伝統って何!? 聞いたことないから!」


 三人が同じ部屋に揃った瞬間――空気が修羅場へと変わった。


 「勇者様を惑わせるつもりですか、エレナ殿下」

 「神に選ばれた方を私物化するのは、そちらでしょう?」

 「ふん、どちらにせよ勇者様の伴侶は私です!」


 バチバチと火花が散る。


 俺は必死に止めようとした。

 「ちょ、ちょっと待って! 俺は誰ともそんな関係に――」


 だが彼女たちは一斉に俺を見つめ、頬を染めて言うのだ。


 「勇者様……選んでください」


 「いや無理だからぁぁぁぁ!!」


 結局その夜は、一睡もできなかった。

 祈りを続けるリリア、葡萄酒を注ぐエレナ、隣で剣を抱えたまま寝ようとするセリア……。

 俺は布団の端っこに追いやられ、決戦前夜だというのに心身ともに疲労困憊だった。


 その頃、王城の外では。

 闇に紛れた勇者アレスが、不敵な笑みを浮かべていた。


 「明日……絶望の峰で、カイを地獄に叩き落としてやる」


 迫りくる決戦と陰謀。

 勘違いの英雄譚は、ますます大きな渦へと飲み込まれていく――。

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