第11話 決戦準備と、花嫁候補の行列
――魔王が宣言した「絶望の峰」での決戦。
その知らせは瞬く間に大陸全土に広がり、王都は前代未聞の熱狂に包まれていた。
「勇者様に最強の武具を!」
「各国の財宝を捧げよ!」
「聖女様と王女様、姫様が勇者様を支えるぞ!」
……俺の耳には「婚約ラッシュ加速宣言」にしか聞こえなかった。
王城の大広間には、各国の使者がひしめいていた。
金銀財宝、神具、古代の巻物――あらゆる宝が山のように積み上げられていく。
「勇者カイ様、我が国から“雷神剣”を献上いたします!」
「どうか我が娘を側室に――!」
「勇者様には、ぜひこの秘伝書を……それと三女を……!」
(お宝はともかく、なんで娘をセットで寄越すんだよ!?)
俺は必死に否定した。
だが「謙虚に即答を避けるのも勇者の美徳」と解釈され、さらに縁談希望者が増える一方だった。
隣に座る王女エレナは、笑顔ながら目が笑っていない。
「勇者様。これ以上“側室”など要りませんわよね?」
聖女リリアは両手を握りしめ、祈りの形で睨みつけている。
「勇者様は神が選んだお方……伴侶は私以外にありえません」
セリア姫は剣を抜きそうな勢いで叫ぶ。
「勇者様と共に戦うのは、この私です!」
(やめろ! 王城で三国合同修羅場やめろぉぉぉ!!)
そんな修羅場の最中、ジーク団長が厳しい表情で進み出た。
「勇者様。決戦に備え、我が騎士団は三千の兵を率い、絶望の峰へ同行いたします」
「いえ、だから俺は戦う気なんて――」
「ご謙遜を! 勇者様お一人でも十分でしょうが、我らは盾となり剣となりましょう!」
広間が再び歓声に包まれる。
その喧騒を、ひっそりと睨む影があった。
――勇者アレスだ。
「くそっ……! 財宝も兵も女も、全部カイのものかよ……!」
彼の心は嫉妬と焦燥に焼かれていた。
(必ず引きずり下ろしてやる……。次こそ、奴の“無能”を暴いてみせる……!)
闇に紛れて去っていくアレス。
誰も気づかぬその陰謀が、決戦をさらに混乱へと導くことになる。
こうして俺は、各国からの支援と婚約希望者に埋もれながら――
否応なく魔王との決戦に向けて、世界の“唯一の希望”として祀り上げられてしまったのだった。
(……本当に俺で大丈夫なのかぁぁぁぁ!?)