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わたしたちのゆるり薬膳生活  作者: 山いい奈
1章 ゆるゆる薬膳との出会い
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第4話 薬膳との触れ合い

 薬膳のルーツは、中医学というものなのだそう。中国を中心に発展してきた医学だ。


 中医学の基本となるのは五行説(ごぎょうせつ)。自然界を構成する5つの基本物質が(もく)()()(ごん)(すい)。それを人間の身体に応用すると(かん)(しん)()(はい)(じん)五臓(ごぞう)に当てはまる。


 この五臓はいろいろな役割を担っていて、お互いに助け合ったり牽制しあったりしているのだそう。そうして身体のバランスを取っているのだ。


 しかし五臓は、季節によってそれぞれに影響が出やすいのだという。春は肝、梅雨は脾、夏は心、秋は肺、冬は腎。


 だから季節ごとに調整のために、食べた方が良いものがある。春は青いもの、夏は赤いもの、梅雨は黄色いもの、秋は白いもの、冬は黒いもの。


 色で例えてくれるのは、分かりやすいなと思う。青いもの、すなわち緑色のものは、きっときゃべつや小松菜などのお野菜、赤いものなら赤パプリカや人参、黄色いものだったらかぼちゃや卵、白いものは大根や玉ねぎにお豆腐、黒いものはきのこ類や黒豆、などなど、だろうか。


 もちろんこれらばかりを食べろ、というわけでは無い。普段のごはんに少し取り入れる、それぐらいの緩さで良いのだ。


 生姜は身体を温める、きゅうりは身体を冷ます、おねぎは免疫力を上げる。


 幼いころから耳にしてきたこれも、薬膳の分野なのである。そう思うと、あまり難しいことは考える必要が無いのだなと感じる。


 今は春なので、青いもの。春きゃべつやスナップえんどう、菜の花などの青いお野菜が旬である。そう思うと、旬のものと繋がっているのだなと思える。お大根は冬だしきのこ類は秋だから、全てに当てはまるわけでは無いが、今や季節問わず、多くのお野菜がスーパーなどに並んでいる。


 ここが少し弱ってるかな? と思うときに、気軽に取り入れることができるのだ。多くは豚汁に使えば美味しく食べられる。


 拓嗣くんは風邪を引きやすいが、この風邪も季節によって種類が違う。拓嗣くんがいちばん酷くなりやすい冬のものは寒邪(かんじゃ)と呼ばれ、治癒には身体を温めることが必要。なので生姜やおねぎ、紫蘇などが良いのだそう。


 本来なら、風邪を引かないことがいちばんだ。なので免疫を上げる、身体を温める食材を使ったごはんを意識しつつ、引いてしまったらお薬にも頼りつつ、治るためのごはんを用意する。


 薬膳として食べることで全てが解決できるわけでは無い。拓嗣くんが風邪を引きやすいというだけで、病気は多種多様である。だから防ぐことだって大事なのだ。


 というわけで、今夜の豚汁は菜の花を入れることにした。旬だし、ほのかな苦味が好きである。初春から初夏にしかいただけないごちそうでもある。


 今日は金曜日。平日なので朝からお仕事で、今はお家に帰ってきたところである。駅近くのスーパーを覗くと、ちょうど良い量の菜の花が売られていたので、迷わず手に取ったのだ。


 青い野菜というのもあるのだが、菜の花は春に起こりやすいいらいらを抑えるなどの効能があるそうだ。千歳はそういう状態では無いが、菜の花で心が穏やかになれるのなら、それは嬉しいことだと思う。ただでさえ美味しいものは心を和ませてくれるのだ。これは良い効果である。


 そして、食材には身体を温めるものと冷ますもので、寒性(かんせい)涼性(りょうせい)平性(へいせい)温性(おんせい)熱性(ねつせい)の5段階に分別されるそうなのだ。菜の花は涼性。ということは熱を冷ましてくれるもの、ということになる。


 だがベースとなるお味噌は温性に近い平性なので、バランスが取れるのでは無いだろうか。お揚げさんもやや温性で、青ねぎも温性である。


 だいぶん暖かくなってきたが、それでも肌寒い日だってある。まだまだ身体は冷やしたく無い季節である。


 しかし、千歳はこれまでも無意識に、お味噌で心身を温めてきたのだな、としみじみ思う。お味噌汁や豚汁を飲むと心がほっとするのは、その効能のおかげなのだろうか。面白い。


 千歳は菜の花を流水で洗い、適当な大きさに切る。それをお水を張ったボウルに入れた。あく抜きのためである。あくであるシュウ酸は水溶性なので、茹でなくても浸すことで抜けていくのだ。ちなみにほうれん草のあくも同じ方法で抜くことができる。


 テフロン加工のお鍋を火に掛け、温まったらごま油を落とし、豚肉の細切れを炒める。細切れはお得に買えるので、いつも利用している。炒めることで、お出汁を入れて煮ている途中であくが出にくくなるのだ。


 あくについては、両極端の意見がある。臭みの元になるというものと、旨味になるというものである。だが、焼肉やステーキなど、焼いて食べるときにあくを気にするだろうか。


 ただ、沸いている水分にお肉を入れたとき、牛肉なら灰色の、豚肉や鶏肉なら白いあくが出る。それは取った方が雑味の無い美味しい仕上がりになる。見た目も良くなる。


 なので、あくの扱いや見方もひとつでは無いのだな、と千歳は思っている。


 お鍋にお水を入れ、沸いたら顆粒だしと短冊切りのお揚げさんを入れる。お揚げさんは買ってきて最初に使うときにまとめて短冊切りにして、保存バッグに入れて冷凍している。


 煮込んでいる間に、副菜作りだ。今日は豆もやしを買ってきた。もやしは白い食材。秋に食べると良いとされている色だが、それで食べたいのを我慢する様なことはしない。ちなみにもやしは涼性である。


 丁寧にひげ根を取って洗ったら、ツナと合わせてごま油で炒めて、無限もやしを作るつもりである。そして白いごはん。


 今日のお献立も完璧や無い? 千歳はついにんまりとしてしまうのだった。

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