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わたしたちのゆるり薬膳生活  作者: 山いい奈
5章 誤解と幻覚
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第13話 千歳の予想と心のうち

 12月も下旬になり、忙しない毎日が通り過ぎる。千歳(ちとせ)の元には(ひじり)ちゃんの写真集に使われるデータが届き始めていて、撮影のときに感じたリアル感、生感を思い出しながら、加工を進めている。


 今だから、撮影に立ち会って欲しいと言った写真家さんのこだわりが分かる。写真家さんにもいろいろいるだろうし、千歳も毎度写真集を制作するたびに立ち会いはしていられないだろう。今回は完全にイレギュラーだった。


 だが、良い経験になったのは間違い無い。企画制作部は基本ああいった撮影に立ち会い、指示を出したりしているはずだが、聖ちゃんの写真集は写真家さんが主導だった。もちろん事務所の意向もあっただろうが、聖ちゃんの魅力を引き出すために、写真家さんが骨を折ったのだ。だから、造形加工はほとんど無い。影を薄くしたりする程度だった。


 お仕事に集中しながらも、カレンちゃんと(はら)くん、拓嗣(たくし)くんとの忘年会の日が迫っていることにも気を取られてしまう。正確には拓嗣くんに掛けられているであろう催眠術が解かれるかも知れない日。


 それで、解決するのだろうか。そして、それは拓嗣くんのためになるのだろうか。千歳には分からない。そもそも拓嗣くんに掛かっている催眠術の内容が分からないのだ。拓嗣くんは何を望んで、術を掛けてもらったのか。


 ……いや、千歳は何と無くだが想像がついている。女性に対して奥手だと周りに思われていて、実際にそうだった拓嗣くんは、女性との接し方を改善する様な術を掛けてもらったのでは無いだろうか。その結果があれなのでは無いだろうか。


 拓嗣くんは思い込みが強いところがある。それがおかしな方向に行ってしまう原因になったのでは無いだろうか。


 千歳には催眠術のメカニズムなんて分からない。それでもテレビや動画で掛かった人を見ることがあるが、苦手な何かを克服する様なものが多かった様に思う。掛けられた人が大量のわさびなどの刺激物を平気な顔して食べているのも見た記憶がある。


 だから拓嗣くんも、同じ手段を取ったのでは無いだろうか。


 拓嗣くんは今でこそ男性専用クリニックに勤めているから、上司や同僚、患者さんも男性ばかりだ。だがそれが定年まで続くかは確実では無い。


 将来、また総合病院などで働くことになったら、女性とも関わらなければならない。とくに病棟ともなればお世話や介護で密接になりやすい。お仕事なのだから、女性が苦手だなんて言っていられないはずだ。


 もしかしたら拓嗣くんは、前の職場で苦労をしたのかも知れない。千歳にはそんなことはこぼさなかったが、男性専用クリニックに転職したぐらいなのだから、もしかしたら、と思うのだ。


 女性に対して奥手だと言っても、人それぞれ程度はあるだろう。だが拓嗣くんは千歳に対して、直接交際を申し込んでくれたのだ。それが拓嗣くんの誠意からきたものだとしても、それができるのだから、そう深刻では無いと思っていた。


 だが、拓嗣くんはずっと悩んでいたのだろうか。千歳が呑気に、やれお仕事だ、薬膳だ、豚汁だ、なんてやっている間にも、苦悩があったのだろうか。


 それが真実だとして、千歳はそれを汲み取らなければならなかったのだろうか。答えはイエスであり、ノーである。千歳はそう思う。


 言われなければ分からないことなんて、ごまんとあるのだから、全てを察しろと言うのは無茶である。そう思うと同時に、夫婦なのだから、常に気を配っておかなければならなかったのでは、とも思うのだ。


 夫婦でいちばん近しい間柄だと言って、千歳は拓嗣くんの全てを知っているわけでは無いだろうし、逆もしかりだろう。それでも千歳なりに思いやってきたつもりだった。


 千歳に言ってくれなかったことに少なからずショックを受けつつも、拓嗣くんも言いづらかったのでは、とも思う。


 拓嗣くんは見栄っ張りなタイプでは無いが、思い込みが強そうな分だけ意固地なところがあるだろう。男性女性と言うつもりは無いが、男性としてのプライドだってあったのかも知れない。


 それとも、拓嗣くんは千歳を信用してくれていないのだろうか。だとしたら、それこそショックである。悲しさだってある。


 千歳は確かに頼りないのかも知れないし、話を聞くことしかできないだろうが、それでも。


 目の前のモニタに映し出されている、聖ちゃんの若々しくも妖艶な笑顔が滲んだ気がして、千歳は慌てて目元を拭った。

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