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わたしたちのゆるり薬膳生活  作者: 山いい奈
4章 ドラマの様にベタな
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第2話 まずは腹ごしらえから

 週末、金曜日夜のなんばは人でごった返していた。平日ですら人が多いなんばなので、週末となると会社帰りに飲食を求める人や外国人観光客で大変な人出である。


 千歳(ちとせ)の職場がある心斎橋(しんさいばし)からなんばまでは、大阪メトロ御堂筋(みどうすじ)線でたったの1駅。歩いても15分ほどだ。だがこの2駅を繋ぐ心斎橋筋商店街、そして道頓堀川(どうとんぼりがわ)を渡す戎橋(えびすばし)を越えて、戎橋筋商店街は人通りが「えげつない」。


 この通りと並行して、4車線道路の御堂筋が走っているのだが、その歩道もすごい人出になっているはずだ。なのでゆずちゃんと千歳は御堂筋線で移動した。


 御堂筋線は江坂(えさか)駅で北大阪急行への乗り入れがあるのだが、乗り換えなど無しで乗ったまま、終点の箕面(みのお)市である箕面萱野(みのおかやの)駅に行くことができる。


 なので正確には御堂筋線は、江坂駅を始点とすると新大阪駅、梅田(うめだ)駅、なんば駅、そして天王寺(てんのうじ)駅を経由して、(さかい)市のなかもず駅までを繋いでいることになる。大阪メトロは10線ほどが走っているが、いちばん混み合う路線だ。赤字路線が御堂筋線で賄える、なんて話も聞いたことがあるぐらいである。


 そんな混雑を緩和するためか、発着駅をいくつかに分けている。箕面萱野駅からなかもず駅、いくつかの駅から天王寺駅、新大阪駅から新金岡(しんかなおか)駅、など。御堂筋線は新大阪から天王寺が最も混み合うのである。


 千歳たちは天王寺行きに乗ることができた。なかもず駅までの電車よりは空いているのでラッキーだった。とはいえあくまで比べたら、レベル。帰宅ラッシュ時間帯なので、それなりに混んではいた。


 それでもたった1駅、2分ほど。なんば駅は南海(なんかい)電車や近鉄(きんてつ)電車など、他の路線への乗り換えがあるため、降りる人が多い。特に天王寺止まりはここでぐっと乗車客数が減るのだ。


 千歳たちも大勢の乗車客の波に乗ってホームに降り立ったときには、自然と小さな息が漏れたものだ。


 ゆずちゃんが見つけた日本酒バーは、戎橋筋商店街から道を少し外れたところにあった。が、先に晩ごはんだ。千歳たちは戎橋筋商店街にある「どうとんぼり神座(かむくら)」さんに並んだ。


 神座さんは大阪で人気のラーメン屋さんである。本店は道頓堀にある。フレンチを修行をしたシェフが開発したあっさりとしたスープにストレートの細麺が絡み、上には白菜と豚肉がたっぷりと、そして大きなチャーシューが乗っている。


 ラーメンには豚骨やお醤油などいろいろな分類があるが、このラーメンは何と分類したら良いのか分からないオリジナリティがある。お塩の様なお醤油の様な、判断が難しいところ。


 だが女性が食べやすい味作り、入りやすいお店作りを目指してきたそうで、女性ひとりでも入店しやすくなっているのだ。


 千歳たちの会社の終業時間は18時。今は18時半だ。この時間になれば、飲食店はどこもいっぱいである。同じ並ぶのであれば、回転率の高いラーメン屋さんが効率が良い。


 目論見通り、千歳たちは数分後に案内された。千歳は生ビールと「おいしいラーメン」の普通サイズを、たくさん食べるゆずちゃんは生ビールと「チャーシューラーメン」に煮卵と野菜トッピングを頼んだ。


 生ビールで乾杯し、飲みつつ話しながら待っていると、数分後に提供される。色鮮やかで間違い無く美味しいそれを数分掛けて平らげて、さっとお店を出た。


「美味しかったぁ〜、お腹いっぱい」


 ゆずちゃんが満足げに言いながら、ほんのわずかに膨らんだ、それでも細いお腹を撫でた。


「うん。ここのは飽きひん味でええよね。スープがさらっと飲めるんが嬉しい。お野菜もたっぷりで罪悪感少ないし」


「それな」


 そんな他愛の無い会話をしながら、千歳はゆずちゃんに案内されながら、日本酒バーに向かう。


 予約などはしていないが、フードのラインナップからして、2軒目以降にすることが多いお店だというので、この時間なら待たずに入れるだろうとゆずちゃんの談。実際ゆずちゃんが前回行ったのは20時ごろだったらしいが、そこまで混み合っていなかったそうだ。


 千歳はいろいろなお酒を嗜み、日本酒も大好きなのだが、現状として日本国内では日本酒離れというものが起こって久しく、年々需要が減っているというのだ。


 だから日本酒業界は、海外に目を向けた。年々日本酒の輸出量は上がっているらしい。全世界で日本食人気が上昇しているのもその要因なのだろう。千歳もテレビだったかで、海外にも酒蔵が建ち始めていると聞いたことがある。


 千歳は日本酒業界との関わりなんてまるで無い素人だが、それでもお酒好きのひとりとして、海外の人が日本酒を親しんでくれることを嬉しいと思っている。酒蔵さんだって慈善事業では無いのだから、販路が無ければそのものが失われてしまう、簡単な図式だ。


 お酒好きの千歳ができることは、飲んで応援、である。日本酒バーというのだから、いろいろな、それこそ千歳が聞いたことも無い様な銘柄がたくさんあるだろう。楽しみである。


 もちろん、締めの豚汁も。

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