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わたしたちのゆるり薬膳生活  作者: 山いい奈
3章 それぞれの役割り
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第8話 相手のことを思って

 落ち着いてくれたお義母さまも交えて、楽しい時間はあらためて始まる。お義母さまは千歳(ちとせ)が作ったお料理を一通り食べて、「美味しい。羨ましいわぁ」としみじみと呟いた。


拓嗣(たくし)、あんたほんまに幸せもんやで。こんなに料理が巧いお嫁さんに来てもらえたんやから」


「せやろ?」


 拓嗣くんは得意げに、にやりと笑った。


 そんな親子の会話も飛び出す。皆が笑顔でお酒とお料理を楽しんでいる。


「千歳、ワインある? 冷蔵庫開けてええ?」


 兄ちゃんがそう言いながら立ち上がる。千歳は「あるで。開けてええよ」と、空いたビールのグラスを兄ちゃんの分も取り上げて後を追った。


「あ、悪い」


「ううん」


 ワインは冷蔵庫に入れてある。赤は常温で飲むことも多いが、季節柄冷蔵庫に入れていた。今はその方が飲みやすいだろうし。


「そんな高いもんや無いんやけど、赤と白とスパークリングがあるわ 私も飲も」


「スパークリングか。ミモザ作れる?」


「兄ちゃんミモザ好きよね。言うと思ってオレンジジュースも買ってあるで」


「さすが、できた妹やで」


「任せい」


 そんな軽口を叩きながら、冷蔵庫からスパークリングワインとオレンジジュースを出す。食器棚からはワイングラスを。千歳も拓嗣くんもたまにワインを飲むので、2客だけ買ってあったのだ。


「作っといてくれる? 私、ビールのグラス洗うから」


「よっしゃ」


 兄ちゃんにミモザ作りを任せ、千歳はビールグラスを洗う。こういうのは空いたものから洗うのが、あとで楽である。


 ミモザはシャンパンとオレンジジュースで作るカクテルだが、最近ではスパークリングワインで作ることも多いのだそう。こちらの方が手に入りやすいし、お家で作るにはお手軽だ。


 リビングからは楽しげな声が届いている。両家の繋がりというものは、無くても良いという意見もあるだろう。だが良好であるなら、それに越したことは無いと思うのだ。


 幸いにも、拓嗣くんのご両親は千歳に良くしてくれる。会社に行ったら既婚者の同僚の愚痴を聞くこともあるものだから、自分もそんな目に遭ったら迎え撃つ心構えでいたのだが、杞憂だった。


 その同僚は言い切っていた。


「絶対に義両親と同居したらあかんで!」


 そもそも千歳の実家は4世代同居で、女性陣は千歳の見えるところでは巧くやっていてくれたから、はぁ、そんなもんかと思っていたのだが、さすがの千歳も結婚前には既婚女性のコミニュティを見に行った。用心のためだった。


 そしたら、あるわあるわ、恐ろしい義実家の愚痴の数々。


 千歳は本当に自分は恵まれているのだな、としみじみ思ったのだった。


「あ、お義兄さん、ミモザですか?」


 拓嗣くんも缶チューハイが空いたのか、グラスを持ってひょこひょことキッチンに向かってくる。兄ちゃんのミモザ好きは、拓嗣くんも知っていた。


「おう、好きやねん。千歳、できたやつ持ってっとくから」


「ありがとう」


 兄ちゃんは残ったスパークリングワインとオレンジジュースを冷蔵庫にしまって、ワイングラスを手にリビングに戻って行った。千歳は拓嗣くんからグラスを受け取り、ついでに洗ってしまう。


「さてと、僕は何飲もかな〜、僕もミモザ作ろっかな〜、赤ワインのオレンジ割りもええなぁ〜」


 拓嗣くんはお酒には強いが、気持ち良くなるのが早い。すっかりとご機嫌である。そんなことを言いながら冷蔵庫から赤ワインとオレンジジュースを出した。


「あ、ごめん、ワイングラス、ミモザに使ってもた」


「ええよええよ。僕はロックグラス使お」


 千歳も拓嗣くんも、お酒の種類は節操無くいろいろ飲むので、グラスもいろいろな種類を2客ずつ揃えているのだった。


「ロックグラスって、何かかっこええよなぁ〜、大人っぽくて〜」


「何言うてるん」


 千歳はおかしくなって、頬を緩める。拓嗣くんはそんな千歳を見て、嬉しそうにふんわりと笑った。


「千歳ちゃん、今日はありがとう」


「んー?」


「僕の両親も、こうしてもてなしてくれて。ごはんもたくさん作ってくれて、おとんもおかんも嬉しそうや」


「うん。お義母さんも笑っててくれて良かった」


 千歳が言うと、拓嗣くんは「あー」と少し気まずそうに苦笑いをした。


「おかんが変なこと言うてごめん。僕もごはんのことは初耳やったからびっくりしたわ」


「ううん、お義母さんはちゃんと拓嗣くんのことを考えてくれてたやん」


「そうなんかな」


「うん。だって、お料理が苦手な人なんて、男女関わらず珍しく無いやん。メシマズかていてはるやろ。お義母さんが作りはるもんがどうかは分からんけど、苦手なんをちゃんと自覚しはって、それでもお義父さんと拓嗣くんに美味しいもんを、ってお惣菜とかに頼ったんよ。びっくりする話とか見るからね、お料理下手を自覚せんまま、とんでもごはんを作らはる人がおるって」


「そうなん?」


 拓嗣くんが目を丸くする。拓嗣くんもお料理への苦手意識を自覚しているから、それと分からない人がいるとは思いもよらなかったのだろう。


「うん。せやから、お義母さんはちゃんと拓嗣くんのことを考えてくれてたってこと。お肉もお魚もお野菜も、ちゃんと食べさせてくれてたんやろ?」


「うん」


「やったら、それでええやん。なーんも、問題あれへんよ」


「そっか、そうやな」


 拓嗣くんはほっとした様に顔を緩ませた。


「それにしても、やっぱり人生経験て大事やなぁ。お義父さんとうちのおかんの言葉、的確やった」


「せやな。僕らもまだまだ成長せんとやな」


「うん」


 千歳と拓嗣くんは、そうして微笑み合ったのだった。

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