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わたしたちのゆるり薬膳生活  作者: 山いい奈
3章 それぞれの役割り
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第3話 ふたりの分担

 翌朝、お腹いっぱいになってたっぷりと寝てすっかりと持ち直した拓嗣(たくし)くんは、元気に出勤していった。喉がまだほんの少し枯れていたので、暑い暑いと言いながら、白い不織布マスクを着けていた。


 拓嗣くんのお仕事は、看護師なのである。専門学校在学中に国家資格を取り、学校を卒業してから総合病院の外来と病棟で数年お仕事をし、今は梅田(うめだ)の男性専用クリニックで働いている。


 診察開始時間は9時。8時に出勤してお掃除や診察準備などをするので、7時にはお家を出るのだ。


 なので、千歳(ちとせ)は毎日6時に起きて、朝ごはんの支度をする。千歳は9時始業のため8時に出れば充分間に合うので、拓嗣くんを送り出したあとは洗い物などをする余裕がある。


 お家の中は、幸い巧く回っていた。拓嗣くんは結婚前の約束通り、できる限り家事をしてくれていた。


 といっても、平日のほとんどは千歳が担っている。というのも、拓嗣くんは出勤が早く、退勤は遅いのだ。


 クリニックの午後診療の受付は19時まで。立地柄、お仕事終わりの患者さんを迎えるためだ。実際午前診療より午後診療の方が患者さんが多くて忙しいと拓嗣くんは言っていた。なので帰宅が21時を超えることもあるのだ。


 ただし、このクリニックは日曜日と祝日が休診、水曜日と土曜日は午前診療のみだ。なので水曜日、昼下がりに帰ってくる拓嗣くんが、お掃除とお洗濯をしてくれるのだ。


 今はまだふたりの家庭である。洗濯機は新居引越しを機に買い換えた大型のドラム式なので、週に2度のお洗濯で充分回るのだ。


 お掃除も、水曜日に拓嗣くんが完璧にやってくれる。実家にいるときには家事はお母さん、千歳から見たらお義母さまに任せっきりだった拓嗣くんだが、自分のお部屋のお掃除は自分でしていたし、水周りなどの他の箇所も千歳が教えたらすぐにできる様になった。


 どうやら、拓嗣くんはお掃除が好きな様である。実はお義母さまがお掃除好きだそうで、それを引き継いだのかも知れなかった。確かに結婚前に拓嗣くんの実家に挨拶に行ったとき、お家はまるでモデルルームの様にぴかぴかだった。


 汚れているのが嫌なのにお掃除嫌いな千歳なので、拓嗣くんのこの嗜好はとてもありがたかった。


 千歳もお仕事から帰ってきたら軽いお掃除はする。放っておくと埃はすぐに溜まってしまう。時間的に掃除機は近所迷惑になりかねないので、ワイパーなどを駆使するのだが。


 それでも拓嗣くんが水曜日にしてくれる分と、週末にふたりでする分で、お家は綺麗に保たれている。今はお掃除が楽になるグッズもたくさんある。拓嗣くんがわくわくしながら買ってきてくれたりするのだ。本当に助かっている。


 本当に、家庭というのは思いやりと助け合いで成り立つのだな、としみじみ思う。家政婦さんに来てもらえる様なご家庭ならお任せすれば良いと思うが、一般的な家庭だと難しいことが多い。


 どうしても忙しいときには、時間単位で家事代行をお願いするなんてことはあるかも知れないが、それもそう頻繁には難しいのでは無いだろうか。


 それを思うと、ふたりで完結できるこの環境は、とても好ましいと言える。


「さぁてと、私も会社行くか」


 千歳も着替え、身だしなみを整えて出社準備をする。さて、今日はどんなとんでもクライアント、案件が飛び込んでくるのだろうか。何としても迎え撃ってやろうと気合いを入れるのだった。




 8月の末になった。お盆も終わって残暑に入っているのだが、やはりお日さまは容赦無い。それでもこれから少しずつ和らいでくれる、そんな期待をする日々である。


 その日は水曜日で、拓嗣くんがお掃除とお洗濯を済ませてくれていた。千歳はお家に帰り着き、さっそく晩ごはんの支度をする。


 ごはん作りも任せたら良いのでは、と思われるかも知れないが、豚汁無しでは千歳の食生活を語ることはできず、その豚汁作りは千歳の趣味なのだから、奪われるわけにはいかないのだ。


 それに拓嗣くんは、お料理に苦手意識があるらしい。小学校の家庭科の授業で、包丁で手を切ってしまったことがあるのだそうだ。それからできるならあまり包丁は持ちたく無いと思っているのだとか。


 その日の晩ごはんは、もちろん豚汁と、豚の生姜焼きとレンジで蒸したざく切りきゃべつ、白いごはんである。豚汁の今日の具は人参である。夏にぴったりの赤いお野菜で、平性である。少し厚めの半月切りにしてたっぷりと入れた。


 豚汁と生姜焼きで豚肉が被っているが、豚汁好きはそんなことなど気にしないのだ。拓嗣くんも文句など言わずに食べてくれる。


 今夜も食卓を整えて、向かい合わせで「いただきます」と手を合わせる。


 千歳はまずは豚汁から。すすっとすすると、柔らかなお味噌に豚肉の甘みとお揚げさんの滋味が溶け出している。人参もほっくりと煮えていた。


「あ、千歳ちゃん、そろそろ落ち着いた感じやし、どう? うちと千歳ちゃんとこで、前に言うてたやつ」


「ああ、そやね、そろそろええかもね。おかんに電話してみる」


「うちも連絡してみるわ。予定が合ったらええんやけどなぁ」


 このあびこに新居を構えて約2ヶ月。千歳が希望した通り、2LDKの賃貸マンションを借りた。リビングダイニングに水回り、そして千歳と拓嗣くんそれぞれのお部屋。


 場所は、千歳が以前ひとり暮らししていた場所からそう遠く無い。少し南側になり、業務スーパーが近くなったのが嬉しかったりする。


 生活が落ち着いたら、それぞれの両親を呼んで、ホームパーティなんて大げさなものでは無いが、お食事会ができたら。そう考えていたのだった。

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