世界の選択
甘い匂いに鼻を刺されて、橘瑞樹は目を覚ました。
花畑の真ん中の祭壇の上に眠っていたらしい。
どれくらい?
分からない。
それでも、死んでいないということは分かった。
体を起こす。
ここは…。
見覚えは…ある。
いつ見た景色?
わからない。
夢の中?
そうかもしれない。
祭壇から降りる。
怖いくらい静かだ。
草を踏みしめる音だけが聞こえる。
目立って大きいあの建物を目指そう。
あそこにいけば、またなにか、わかる気がする。
――――――――――――――――――――
ミヅキは帰ってこなかった。
兄も見つからなかった。
なんで…、こんなことに…。
いつ間違えた?
そもそも間違えたのか?
これが正しい世界なのか?
気づけば私は教会の前に立っていた。
なぁ、創造神さんよぉ…。
あんたはホントにただこの世界を作っただけなんだな…。
私らのこと助けてはくれないんだな…。
兄が失踪した時以来だろうか。
私は泣いた。
――――――――――――――――――――
夢を見ていた。
夢というより、記憶だろうか。
彼に導かれた、記憶。
キーンコーンカーンコーン。
聞き慣れたチャイムの音で目を覚ました。
いつの間にか寝ちゃってた。
もう受験生なのに…。
学校にのこって勉強して、ここから塾に向かう。
勉強だけは頑張ろうと決めてたのに、成績は思ったように上がらない。
生来の内気がニョキニョキ育って顔を出して、高校生活3年目だけれど、気の許せる友達は一人もいない。
…。もう頑張りたくないなぁ…。
二宮七星は高校3年生。
成績普通、顔面普通、性格はちょっとシャイ。
誰か優しい人いないかなぁ…。
たくさん話してくれて、優しくて、イケメンだと最高だなぁ…。
…。
そんな事を一人で妄想してニタニタしてるから男女共に人気がないんだ。
お菓子食べたい。
甘いもの食べたら多少元気になる。
こっから勉強するんだし、ブドウ糖はだいじ。
学校最寄りのコンビニに入る。
お菓子売り場狭いんだよなぁ。
カバン背負ってるとギリギリ。広げろぉ。
しゃがんてラムネをとる。
ブドウ糖かな…?まぁいいでしょ。気持ちがだいじ。
ふと、隣に誰かが立っているのに気づいた。
男の子だ。
イケメンだなぁ…。
あ、違う違う。
「ごめんなさい、どうぞ。」
口早にいってそそくさ退散しようとしたところ、
その青年は手を掴んでいた。
え?!
怖い怖い怖い怖い怖い…。
「二宮…先輩。」
なんで名前知ってんの…?!
同級生にすら覚えられてないのに!!
本格的に怖くなって手を振りほどこうとした瞬間の、
彼の言葉、
私はたぶん、忘れない。
そこからの日々は激動だった。
突然わけのわからない世界に飛ばされて、そこでも内気が大爆発して、彼はそんな私を見捨てずに導いてくれた。
最後の時も私を庇ってくれた。
もらいすぎた私の最後の手段は掟を破ることだった。
こっそりと山の中へ忍び込む。
うまくいったと満足したのも束の間。
私はすぐに化け物に攫われた。
目を覚ますと、祭壇の上だった。
体は自由に動く。
遠くに大きな建物が見えた。
あれは…、神殿…?
なぜかはわからない、
けれども、私は引っ張られるようにその神殿へ歩を進めた。
―――――――――――――――――――
どうやらこの建物は神殿らしい。
いよいよイアさんの話が本格的にマジになってきたな。
ぐるりを歩き回っても何も分からない。
中に入るか?
そんな勇気…。
いや、まだ僕は先輩に会えてない。
望みは0じゃない。
僕は神殿の中へ足を踏み入れた。
暗がりの中に僕の足音だけが響いた。
中心に大きなスペースがあるのがわかる。
おそらくあそこが、神のいる場所。
一歩ずつ近づく度、鼓動は速くなる。
息も上がり始めた。
怖い…。
それでも、僕は、先輩に会いたい。
神様がいるのなら、どうか…。
あまりの眩しさに目を瞑った。
再び目を開くと、そこはさっきまでとはまるで違う空間だった。
真っ白…。
「ここは…。」
ここを、僕は知っている。
遠い昔、けれども今にとてつもなく近い場所。
「お久しぶりです。あるいは、はじめまして。ミヅキ。」
聞き覚えのない、懐かしい声のする方向へ目を向ける。
「私は創造神ウェヴス直属の天使、イオでございます。」
そこに形ある存在はなかった。
ただ空間から声がするだけ。
「どうも。」
先ほどまでの恐怖はどこかへ消えてしまったようだった。
「知っての通り、この世界はあらゆる世界の収束点。無限にあり得るはずの世界を無理やり一つにするための世界です。」
イオは続けた。
「しかし、あなたたちの場合は少々特殊でした。なんせ2パターン存在するのですから。」
2パターンというのは、僕と先輩ということだろう。
「以前はナナセのほうが選択をしました。」
以前、というのはおそらく、
「あなたが選択した世界です。」
そんで今回は先輩が選んだ世界。
「俺は何をすればいい?」
1つに収束させるのであれば、やることは簡単だ。
「前と同じですよ。」
そう言うと、イアは消えた。
前と同じ、か…。
僕の意識もゆっくりと遠のいた。
キーンコーンカーンコーン。
聞き慣れたチャイムの音で目を覚ました。
久しぶりの机の感覚だな。
さてと…。世界を選びにいきましょうか




