世界の収束
僕とイアは二人して寝転がったまま、朝を迎えた。
あまりの無気力に、まだ動く気はしない。
そう言えば、彼女は兄を探したかったんだっけ。
10年…。長すぎる。
「ミヅキ…。」
彼女は僕に声をかけた。
「すまなかった。でも、残った家族すべて、私の本名でさえ、ナナは知っていた。怖かったんだ…。これ以上家族を失くすのが。」
先輩が、なんでそんな事を知っていたんだ…。
「ミヅキ。聖山に入る方法はもう一つある。」
彼女はそう続けた。
それは僕にとって、最後の希望だ。
「なんですか。その方法って。」
体の底からふつふつと気力が湧いてくるのを感じつつ聞いた。
「有志による捜索団だ。おそらくもうすぐ召集がかかる。」
体を起こした。
それに参加すれば、もしかしたら、また会えるかも知れない。
守るとかもうどうでもよくなった。
ただ会いたいのだ。
「参加するしかないな…。」
僕は答えた。
「私は…。」
彼女は悩んでいるようだった。
「そうだ。昨日は本当にごめん。」
彼女の悩みとは何の関係もないかもしれないが、昨日の僕の所業は謝罪しないといけない。
「なんで謝る?悪いのは私だ。そんな私が、兄に会いに行っていいはずもない…。」
あぁ、そういうことだったのか。
「いいんじゃない?そんなこと言ったら先輩はどんな悪人になるんだか。」
二宮先輩か…。同じ学校のはずなのに聞いたこともない。
それは向こうも一緒か。
会えると決まったわけでもないのに、なぜか僕は元気になった。
なんだか、もう大丈夫な気がした。
体を起こした。イアさんの手を引いて、僕らは歩き出した。
役所が聖山から離れていたのは騒動後のことを見越してのことだったのか。
「捜索団本部」
と書かれた看板が部屋の前に立てかけてある。
ドラマでよく見る捜査本部みたいだ。
ドアの中へ入ると、中央に机が置かれ、その周りに人が集まっていた。
「参加希望か?」
隣から声をかけられた。
大男だ。
「はい。2人ともそうです。」
そう答えると男は紙とペンを持ってきた。
「ここに自分の名前と探している人の名前を書いてくれ。」
僕は先輩のこの世界での名前、ナナ=タチバナを。
イアさんはお兄さんの名前、イナ=ウルアと書いて、
それぞれ男に渡した。
「行方不明者一人増えたぞ。」
男は机の中心に僕の書いた紙を置いた。
僕らも中央の机を見に行く。
想像とは違ってかなり整理されていた。
どうやら、今回行方不明になったのは先輩を含めて4人。
前回から引き続き捜索対象なのはイナさんを含めた38 人。
意外と捜索の成果は出ているのか?
「ここには過去6回分の行方不明者が書かれてる。山ん中で60年も生きてらんねえだろうけど、一応な。捜索団内からも行方不明者は出るから気ぃ付けろよ。」
ヒゲモジャの男性が説明してくれた。
前回から引き続きの捜索対象者が38人。1回当たり7人くらいが行方不明になると考えればいいのか。
思ったより少ないけれど、発見も少ないんだろう。
「いつ、捜索へ?」
ヒゲモジャへ尋ねる。
「明日の5:00だ。あと19時間だな。」
中々長いな。
「今日はよく寝て体力つけとけ。」
ヒゲモジャはそう言ってまた会議へ参加し始めた。
しばらく僕らも聞いてはいたが、どこの口からはいるとか、まず誰から探すとか、指示出し役のおじさんたちの話にはついていけなかった。
とりあえず明日の5時にここに集合することだけ確認して部屋を出た。
「瑞樹。ちょっいいか。」
イアさんはそう言って僕を図書館へ連れてきた。
「民族学的な話、迷信みたいなものだから話半分に聞いてくれれば構わない。」
そう言ってイアさんは僕にこの世界について語り始めた。
太古の時代、世界は人々の選択によって無限に枝分かれしていた。
しかし、世界が存在できるスペースにも限りがあった。
人々が何を選択しようとそれ以上の枝分かれは起きなくなってしまった。
そこでこの世界を創造したのが創造神ウェヴス。
彼はこの世界を無限に枝分かれした世界の収束点とした。
増殖の限界を迎えた世界をここで収束することで、人類が永続的に選択を続けられるようにしたのだ。
「そして、世界の収束に必要なのが、」
イアさんは僕を指差して言った。
「君たち異世界人。」
なんとなく分かった。
異世界というのは少しだいそれた言い方なのかもしれない。
僕のいた世界とこの世界との違いはただ単に枝分かれした先というだけ。
ある人の選択がAだったかBだったかの違い。
それだけでここまで変わるのか。
「記録にのこっている聖山騒動はせいぜい300年分くらいだけれど、この宗教が生まれたのは2000年くらい前。たぶんその時から聖山騒動みたいなのは起こってたんだろうね。」
イアさんはそう推論を口にした。
たしかに、この宗教の内容はあまりに聖山騒動とマッチしすぎている。
それにしても2000年か…。
人の頭はそんな短い間じゃ進化しないらしい。
僕もこの理論で納得してしまった。
「それで、この話で僕に何が言いたいんだ?」
この世界についてはまぁ理解できた。
だが、それでどうしろというのだ。
僕は先輩を探しに行く。
「私は、納得してないんだ。」
イアさんはそう言って、続けた。
「異世界人が収束に必要なのは分かった。でも、じゃあなんで兄さんはいなくなった?異世界人がこの世界に来て、消える選択をするのが世界の収束のはず。兄さんはそこに何の関係も無い。」
こちらをまっすぐ見て、彼女は言った。
「もう裏切らない。お願いします。兄さんを探す手伝いをして下さい。私も、ナナを探す手伝いをするから。」
なるほどな。
でも、言われなくとも、そのつもりだ。
「分かりました。」
僕も彼女を真っ直ぐ見て言った。




