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イデア  作者: すだちポン酢
聖山騒動
35/39

Xday

 いずれ来るとわかっているものは、いくつあるだろう。

一つ、誰しもがわかるのは死。

それはいつ来るかわからないけれど、誰もがいつか迎えるものである。

あるいは突発的に。あるいは穏やかに。

この世界に生きる僕の死は突如として現れた


――――――――――――――――――――


 皆がXdayと言う日がある。

けれども、それがいつなのか知っていたのは、

私くらいだろう。


 「瑞樹くん。」

今日の仕事を終えて宿で落ち合ったところで私は彼に声をかけた。

予感があった昨日のうちに今日の仕事は少なめしておいた。

まだ空はオレンジがかってきたばかり。

「ご飯、行こう。」


 これはかなり思い切った決断だった。

なんせ1年くらいご飯も別々で暮らしていたのだから。

彼はあまり間を空けず、

「わかりました。」

とだけ答えてついてきてくれた。

私がこんな事をしたのは、多分寂しいからだ。

ここから先は本当に離れ離れになる。

その前にせめて彼と一緒にいたかった。

恋情とは少し違う。

彼である必要があるのか?

そういうわけではないのだ。

ただ、誰かと一緒にいたかった。

この世界、一緒にいれる誰かなんて彼しかいない。

…。なんであんなこと言っちゃったんだろうなあ…。

今になって後悔する。

守りたいと言うのは嘘ではない。

でも、もっとやり方あったはず…。

「ごめんね。」

気づけば私の口はそう発していた。

彼は少し驚いたようにこちらを見た。

「何が…」

彼が言い終える前に私は口を開けた。

「私の本当の名前、二宮七星っていうの。」

彼はただ呆然と私の方を見ていた。

「…。またね。」


―――――――――――――――――――――


「ご飯、行こう。」

先輩はそう言った。

あぁ、今日なんだ。

その瞬間、なぜかそう思った。

今日が最後の日なんだ。

「分かりました。」

だからというわけではないが、僕は即答した。


 連れてこられた店は洋食店のようだった。

最も、この世界はヨーロッパのような雰囲気があるから地元の料理屋、というのがこっちでの認識だろう。

パスタを頼んで、外を眺める。

このところ、先輩は何かと考え込むことが増えた。

前まではそういうことも相談させてくれたのに。

いや、相談させていたのか。

話したくないこともあるんだろう。

僕は水を一口含んだ。

「ごめんね。」

先輩が突然そういった。

「何が…」

聞こうとしたところを遮って先輩は続けた。

「私の本当の名前、二宮七星っていうの。」

…。思い出したのか?

それとも最初から覚えていた?

それでなんでごめんねなんだ。

「またね。」

先輩は言った。


 その瞬間だった。

低く、地面の底から何かが蠢き出てくるような、

不快な揺れが起こった。

周りの人が一斉に走り出した。

あぁ、やっぱり。

今日だったんだ。

僕は先輩に声をかけようと目線を前に戻した。

「……。は…?」

そこに先輩はいなかった。


 急いで街へ駆け出す。

イアさんが僕らを追っていたはず、

まずは彼女との合流か?

外に出ると揺れは一層強くなったように感ぜられる。

いや。先輩を見つけるのが先か。

僕は逃げ惑う群衆とは逆方向、聖山へ向けて走り出した。


―――――――――――――――――――


 地面が揺れている。

でもこれって多分化け物たちって言うより逃げる群衆のせいなんだよね。

死に向かっているというのに私の心は冷静だった。

イアさんとはあれから何度か顔を合わせた。

彼女には瑞樹くんを私から遠ざけるようお願いした。

名前を使って脅したのがよく効いたらしい。

気づけば辺りにはもう誰もいなくなっていた。

やっぱり、地面の揺れは収まっていた。

かわりに、異形というのが相応しい、

まさに化け物たちが待っていた。

民家を覗くやつとか、壊すやつもいる。

こっちにはまだ気づいてない。

私は足を止めて、息を吸って、叫んだ。

「お前たちが探してるのは私だろう?!来てやったぞ!!」

彼らはこちらを見た。

そして一気にこちらへ向かって走り出した。

「さよなら。」

私の後悔も、彼への気持ちも、ここまでだ。


―――――――――――――――――――


 「ミヅキ!」

後ろからイアさんの声がした。

「先輩は?!」

怒鳴るように僕は尋ねた。

「この先で彼女を待たせてる。向かおう。」

僕は彼女が指さした方向へ走り出した。


 どれくらい走った?

もう揺れは感じない。聖山までの距離は変わっていない。

…。おわった…?

後ろを振り向く。

イアは俯いている。

咄嗟に彼女の胸ぐらをつかんでいた。

「…。騙した…?」

彼女は苦しげな表情で答えた。

「違う…。脅されたんだ…。」

「誰に?」

怒りを鎮めようにもどうにもできない。

息はどんどん荒くなる。

「ナナにだ。」

…は?

僕は彼女を投げ飛ばした。

倒れた彼女に馬乗りになってもう一度胸ぐらをつかむ。 

「そんなわけないよな…?お前のせいで先輩は山ん中だ…。どうすんだよ…。」

彼女は目を背けながら言った。

「…。すまない…。」

その瞬間、全身の力が抜けるような感じがした。

終わった…。

全部おわった…。

僕はただただ、仰向けになって空を眺めていた。


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