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イデア  作者: すだちポン酢
聖山騒動
32/39

正しい世界へ

 あの諍い以降先輩とは話せない期間が長く続いた。

その間も僕は先輩のことが好きだった。

でも、突っ走る勇気はない。

これ以上嫌われたりしたら、さすがに悲しい。

だから見守るだけ。

片思いでいい。

悲しいと思われるだろうが、僕は幸せだ。

誰が何を言おうが、僕はこれがいい。

だって、僕は好きな人とずっと一緒にいれたのだから。

それも、あと1年ほどで終わる。

僕らの旅が始まってから1年と少し経った。

僕らは、この旅の目的地、世界の中心、

イルキュレムの首都コロナへとたどり着いた。


 聖山騒動。

それはこの世界における最大の災害。

10〜11年周期で起こる。

聖山から溢れ出る化け物が人を襲う。

奴らが求めるのは僕らのような異世界人。

もし異世界人が聖山近くにいなければ、世界は端から崩れ落ちる。

それにより67年前には一つの国が完全に消滅した。

しかし、異世界人が自ら聖山に入った場合、

化け物たちは人を襲わない。

聖山騒動の時期以外、聖山はただの山。

調査しても調査しても異世界人がどこへ行ったのか、

化け物たちはどこから来るのかは分からなかった。

騒動の時期は化け物によってこの世界の人達は聖山に入ることはできない。

「理解できましたか?」

役所の人に聖山騒動について聞くと、ここまでの説明が返ってきた。

ともかく僕らは化け物たちが出てくるまでここで暮らす必要がある。


 聖山の周りには柵が巡らされている。

化け物相手に役に立つのかは不明だが、

僕ら異世界人が通るための門は、今は登山口として使われている。

ここから、化け物があふれてくる。

その時にすぐに対応できるようにしないといけない。

宿はなるべく近いところをとるか。

「先輩。宿を探します。」

声をかけると、

「うん。」

そっけない。

僕の見ていないところでは何をしているか分からない。

記憶が戻ったとして、先輩が言いたくないなら僕も無理に聞くことはしない。

先輩は僕よりいろいろ考えている。

僕がいなくても平気なんだ。

好きだなぁ…。

前より笑うことは少なくなった。

話すことはぐんと減った。

でも、やっぱり好きだ。

もし聖山騒動で消えるのがどちらか一人だけで済むのなら、僕が消える。

先輩もそっちのがいいのかな。

僕らが向こうの世界に戻れる可能性は限りなく低いと思っていい。

国が消えてるんだ。

人だって簡単に消えるんだろう。

先輩には生きていてほしい。


ーーーーーーーーーーー


 私たちの旅が始まってから早くも1年と少しが経過した。

瑞樹くんとはあれからあまり話せなくなった。

でも、それでいい。

前回。というか、この世界の仕組み上、こうなるのが必然だったんだ。

「運命」

というものが本当にあるとして、それを誰もが理解できるようにするには、

やっぱり人の選択の必然性が大切なんだ。

でも、私は、前回とは違う選択をする。

そうじゃないと、また彼を失くすかもしれない。

それが怖いんだ。ごめんね。瑞樹君。最後にはきっと君に私の名前教えるから。

もし、まだ君が私のことを想ってくれているのなら。

…やめよう。そんなはずはない。

私は彼に忘れてほしくないだけだ。


 この世界の中心に近づくと、宗教が生まれる。

私はその宗教団が営む教会へ顔を出している。

救いを求める。

なんてことではない。

この世界、彼のいる世界がどうか、正しくあるよう祈っている。

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