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イデア  作者: すだちポン酢
平和な日々
31/39

わがままの理由

 エストを出てから1週間。

瑞樹くんが風邪をひいたときはどうしようかと思った。

一番は病院へ連れていくことだったけれど、医療機関はひっ迫って言ってたし、

とにかくお金を稼いでお薬を買ってどうにかしようと思っていた。

看病なんかしたことなくて何をすればいいかわからなかった。

それなのに、

「僕の体調が治ったのも、たぶん先輩パワーが大きいと思うんです。」

なんて。

私のこと好きなのかって思っちゃうようなこと平気で言って…。

私なんかその辺のごみくらいに扱ってくれていいのに。

記憶のない面倒な女。

捨てる人が大半だろう。

こんなに思われてると、やっぱり情けない。

それに、君はこの後、本当にしちゃいけない選択をしようとする。

私はもう、この世界をほぼ全部思い出した。

でも、

君のその選択から、記憶は戻ってこない。

たぶん途切れている。

今度は、私が君を守る。

そのことを話してしまうと、君は私を守ろうとするだろうから、教えてあげない。


 私たちが次に向かうのはダンクという都市。

ここで、私は一つ決断をする。

思えばここだったように思う。

君が私に君の恋心を打ち明けるのは。

だから、ダメだったんだ。

彼は眠った。

私は眠らない。眠れない。

あと2年。

聖山騒動。

そこが勝負どころだ。

今度は、私が守る。

何度目かわからない決意を固める。

あの時は、私も伝えたんだっけな。

それもよくなかったかな。

君のこと、嫌いだよ。

こうやって君を突き放さないといけないんだ。

…。無理だよぉ。

泣きたくなってきた。

こんなに、大好きだ。


 ナミセから8時間ほどでダンクへ到着した。

「先輩も寝ました?」

君のその何気ない質問。

でもそれが一番、私が思われていることの証明。

君、ちょろい男だね?

私も、ちょろい女だね…。

「うん。寝たよ。」

そう答えれば、君は安心してくれる。

何だっけ。

人と向き合う。だっけ。

君が一番したいこと。

前に聞いたよ。何度も。

もうできてるよ。

できていないのは、むしろ私のほう。

「たまには1日丸ッと休み取りますか。」

君、私に看病させたこと、まだ気にしてるね。

変わらないね。

たかが、看病。

当たり前のことなのに、本当に義理堅いね。

これでなんで自分を嫌いになっちゃうのかな。

でも、私は君を、突き放すよ。

嫌い。嫌い。嫌い。

そうやっていえば、君もあきらめるよね。

あきらめてよ?

私のこと思うの、もうやめてね?

大好きだよ。私は君を守るよ。君は私に守られてね。

その時にちゃんと伝えるから。


 馬車の停車場を離れて歩きはじめた。

君が好き。

君が嫌い。

君が大好き。

だから、ここだけ、今だけ。

持ってよ、私の心臓。

息が詰まりそう。泣きたくなる。

だめだ。彼を守る。

決めたんだ。

「瑞樹君。」

私をいつも導いてくれる大きな背中。

「なんです?」

私の呼びかけにはすぐ答えてくれる。

「私のこと、そんなに心配しないで。」

そんなに心配してると、君が、死ぬ目を見る。

「ちゃんと言うって言ったよね。」

そういう押しつけがましいところが、ほんとに、

好き。

だめだ…。

嫌いなんて言えるわけがない。

そもそも、好きになるなというほうが無理だろう。

優しくて、笑顔がかわいくて、大人で、甘えたさんなところがあって、頼りがいもあって、一緒にいると楽しくて、横顔がかっこよくて、寝顔がかわいくて、迷いながら進む強さもあって、不安を吐露する勇気もあって、それでも導いてくれる人。

大好きだ。

振り返った彼の顔を、私はたぶん一生忘れない。

ごめんね…。

泣きそうな、絶望したような。

そんな顔、してほしいわけじゃないんだ…。

でも…。

違うでしょ。

私の中の私が言う。

私は私が一番嫌いだ。

これは私が彼を失いたくないから。

失うより失ってもらうほうが私が楽だから。

だからこうして突き放す。

体のいい言い訳を並べて、みっともない。

彼の優しさを無碍にして、自分のこと優先して。

彼が私を好き?

図に乗るな。

私のどこがいい。

記憶は戻っているのに、自分のためにそれを隠して、自分のために優しさを無碍にして、

自分のためだけにしか動いてない。

それで?

君に最悪の選択をしてほしくない?

馬鹿か。

最低だ。

私には、罰が必要だ。

彼に嫌われる。

それでいい。

私は彼が好きだ。

私だけが彼を好きなら、それでいい。

この恋心は、絶対に見せない。


 宿についた。

彼とは顔を合わせられない。

仕事も私と彼は別々。

彼は私に声をかけようとしてくれていたけれど、

今そんなことをされたら泣いてしまう。

また私は私を傷つける。

どうすればいいんだろう。

君が、好きだよ…。

早くに布団に入った。

水浴びも着替えもしていない。

これで、嫌われるよね?

嫌われて、いいよね?

これで、君は死なないで済むよね?

私だけが死ぬので終わるよね?

…。嫌だなぁ。

君といたいなぁ。

君のことを考えると、いつも胸がはちきれそうになる。

その苦しさを抱えたまま、私は眠った。


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