優しさの意味
エストを発って1週間。
僕らはナミセという都市にいた。
この都市はノームの前身となる国家の首都だったらしく城趾や記念碑などがたくさんあった。
観光客も多いな…。
この世界は多くの国が陸続きになっているから他国からの観光客も多い。
国境もあってないようなものなんだろう。
ザルムからノームへ入る時も検査は数分で終わった。
なんで戦争なんかしちゃうのかなぁ。
地球よりも風通しはいいと思うのだが…。
まぁ歴史も何も知らないのに口出しなんか出来っこない。
被害はこうむりたくないな。
ノームやレプラージュまで戦火が回ってこないことを祈ろう。
話を戻すが、ここはノームでもおそらく最大規模の観光都市。
すると何が起こる。
物価がバグる。
観光客向けの値段設定なんだろう。
宿の値段も馬鹿なのだ。
今までは高くとも70クルスで泊れていたが、
この都市では一泊に一番安くて100クルスかかる。
日本円にしたらまだ4,000円程度なのでまだまだ安いわけだが。
仕事に対する払いもよくなる。
一つの仕事、例えば3時間のごみ拾いに対して30クルス。
たぶんほかの街なら15クルスくらいだった気がする。
観光案内の仕事とかもあったが、
僕らはこの町どころかこの世界に対する知識がないからその仕事は受けられない。
報酬は2時間で70クルスと最高レベルだったが。まぁしょうがない。
1週間地道に働き続けて210クルスをゲットした。
パンさえ高くなってしまっていたから大変だった。
今後は経由する町についてもしっかり調べないといけない。
次に向かう都市はノームに来て3つ目の都市、ダンク。
ナミセが首都であった時代、最有力だった豪族の支配した土地とのこと。
歴史を学ぶのも面白いかもしれないな。
しかしそれほど観光資源は残ってないのでナミセほど物価は高くないらしい。
とはいえダンクに関しては首都サルプにも近いので普通に都会物価らしい。
日本で言うと、どこだ?
埼玉とか首都圏のイメージか?
まぁ行けばわかる。
翌朝、馬車に乗ってダンクへ向かう。
この馬車の時間が案外気まずい。
気まずいのは僕だけなんだが、最近先輩は寝ないで僕の横に無言で座っていることが増えた。
寝てくれないかな…。
心臓が持たない。
それ以外にも、先輩はどんどん僕との行動に慣れてきて、僕がそっぽ向いていれば同じ部屋で着替え始めるし、
眠っているときに胸が見えて怒っていたのに最近は下着のまま寝たりするし。
家族くらいの認識だろうか。
設定だと僕は先輩の弟だけど、なんというか。
複雑な心境だ。
馬車の走る音がする。
前よりも乗り心地はよくなった。何かしら車輪や車体、道に改善があったのか。
乗り心地は、いいはずなのに…。
落ち着かない…。
気づいたら寝てしまっていた。
「瑞樹君、到着ですよ。」
先輩に起こされて気が付いた。
「おはよう。」
先輩は小さく微笑みながら言った。
こんなん誰でも好きになるやん。
「おはようございます。」
先輩は寝たんだろうか。
疲労はたまっているはずだし、眠って休むほうがいいと思うが。
「先輩も寝ました?」
聞いてみると先輩はこたえた。
「うん寝たよ。」
それならよかった。
「たまには1日丸ッと休み取りますか。」
基本仕事がない日は移動だし、移動が終われば次の日から仕事だった。
これ以上先輩に負担はかけたくないしな。
このダンクは都会なんだ。
娯楽施設もまぁあるだろう。
そういうところもちゃんと聞いてこないといけなかったな。
ちょうどいいところにいたので御者のおじさんにきいてみる。
「この辺の娯楽?そりゃまぁ賭け事だろうよ。あとは娼館とかか。」
おぉふ。
不健全。
まぁおしゃれな喫茶店でランチとかでも気分転換にはなるだろう。
馬車場の人に聞いた安宿を目指しながらいい感じの店を探す。
「瑞樹君。」
先輩が声をかけてきた。
「なんです?」
疲れたかな。荷物持った方がよかったかな。
「私のことそんなに心配しないで。ちゃんと言うって言ったじゃん。」
あれ…?
怒ってる…?
何で…。だって僕はただ、先輩に快適に過ごしてほしくて…。
あれ?
ー私だけで、いじめなんかどうにでもできる。無駄なことしないで。馬鹿。
思い出すのは僕の黒歴史。
これは、押しつけなのか…?
ー助けてなんて言ってないじゃん。無駄なことして引きこもって…。ホント馬鹿。
先輩は休みたいと言ったか?
おしゃれな店に行きたいと言ったか?
ー大丈夫って言ったのに…。なんで…。
先輩は、俺に、何て言った?
なんだ…。
ー独りよがりなんだよ。馬鹿。
ただ俺が、優しい俺をやりたかっただけじゃないか…。
信頼したり、向き合ったり、好きになったり。
うまくできるようになったつもりだった。
うまくできてると思いたかった。
「…。ですよね。じゃぁ。仕事探しましょ。」
振り返ってこたえて、また背を向ける。
顔を見たくなかった。
今まで見たことなかったことを、自覚するのが嫌だった。
そうだ…。俺は下手なんだ。
人のこと、ちゃんと見るって、人にやさしくするって、難しいなぁ。
泣きたくなるような気持ちで、僕は歩いた。
そこからは無言の時間が続いた。
先輩は終始ムッとしていて、ごはんも勝手に買ってきたし、
水浴びや着替えも僕のいない隙に済ませてさっさと眠ってしまった。
わからない。
僕の押しつけを嫌がったんだろうか。
ならもう、僕、何もしないのがいいんじゃないか。
でも、先輩は僕に言ってくれた。
君のおかげで日々が楽だと。
お世辞だったのかな。
…。辛いな。
でも、
それでも、先輩が好きだ。
看病されたくらいでって思う。
でも、それだけじゃない。
僕に嘘をついてくれた。
僕がいい加減前を向けるようにだましてくれた。
これはもう婉曲解釈だ。
でも、先輩が好きだ。
好きな人のためを思うと突っ走る癖は変わらないなぁ。
僕は…。
先輩に背を向ける形で僕は横になった。
ーでも…。これは、私のために言うこと。
君がいつまでも私のこと引きずっちゃうと私の気分が悪いから。
耳に残るあの子の声。
ーその子が君を元気づけたのは君に感謝してるからだと思うよ。
僕を優しい人と騙してくれたあの人の声。
ーありがとう。うれしかった。君は変わらないでね。
そんなこと言われたって、僕がしたことは最低な暴走だ。
変わるさ。
変わりたいよ。
変わりたかったよ。
変われなかったよ…。
何で君は僕に変わってほしくなかったの?
ーありがとう。
僕が、君を救えていたかい?
ーうれしかった。
僕はどうしたらいい?
ー変わらないでね。
暴走列車のまま。
先輩を好きなまま。
僕がしたい僕のやさしさで、君を救えたの?
ーありがとう。
変わらなくて、いい?
『変わらなくていいところも、あると思う。/君は、変わらないでね。』
目が覚めた。
なんだか、新しい自分になったような気分だった。
いろいろ、今までの人生を思い出した夜だった。
寝たのか。寝てないのか。
わからないけれど。
掛布団を被る彼女。
僕のしたい、僕で。
僕は誰かを救えるかな。
「好きです。」
声に出した。
先輩は寝ているから気づかない。
でもいい。
僕の心の中にしまおう。
先輩は僕の押しつけが嫌なんだ。
でも僕は先輩が好きだ。
だから、捨てられるまで、またさんざん言われるまで、
僕にできる最大限で、僕は彼女を思おう。




