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イデア  作者: すだちポン酢
ナリボシ編
27/39

生きるべき場所

 旅館生活は今日で最終日になる。

「お前も今日で最後か…。」

薪屋の店主がしみじみそういう。

「寂しいんですか?」

ここに来たのは一ヶ月前か。

もうエイジュさんはここにはついてこない。

一人で買い出しや搬入もできるようになった。

「あぁ。」

店主はきっと否定すると思っていたから意外だった。

「エイジュさんが帰ってくるんだからいいじゃないですか。」

店主の態度をみていると、なんだかこちらまで寂しくなってきて、ついそんなことを言ってしまった。

それでも、店主は僕が寂しいのを分かったらしい。

笑いながら、

「お前も寂しがってやがる。」

と言った。

この世界に来てから一ヶ月も1つの町に滞在したことは無かった。

基本は2日か3日。長くても1週間だ。

早く元の世界に帰りたいというのもあった。

しかし、不思議だ。

この世界は僕のいるべき世界じゃない。

なのに、ここに残りたいという気持ちがある。

「また来ますよ。」


 薪屋の店主にはそう言って別れた。

薪を運び込む。

ここからは風呂掃除。

慣れたものだ。まだ奥の機械類はさわれていない。

ちらりと見てみたことはあるが、メカニックな感じはない。

井戸と言うか、ポンプと言うか、なんだかよくわからない、木製の機械であった。

以前はこれが壊れてしまってしばらく男湯が使えなくなってしまった。

基本機械はネトラさんが取り扱っている。

彼ともずいぶん仲良くなった。

最初は愛想の悪い人かと思っていたが、そんなことはなく、買い出しの時にお菓子を買ってくれたり面白い話を聞かせてくれたり、

宿の大人たちの中では最も仲が良くなったかもしれない、

が、彼ともお別れだ。

「さみしくなるな。」

彼はそう言って僕を抱きしめた。

これは彼がよくやる行為だ。

幼いころの弟を思い出すのだそう。

「はい。」

なんだか、僕も押さなかったときの兄を思い出して、彼にこうされると強がりもできなくなる。

やっぱり寂しいな。

この世界の人たちは別れの時の寂しさをかなり前面に押し出してくる。

日本にいたときはどうだっただろう。

僕は特に悲しくも寂しくもなかった。

大した思い入れはなかったから。

もうすべてどうでもよかった。

でも、寂しさをこうやって押し殺さずに表現できるのは、いいな。

僕はちゃんとこの人たちのことを大好きになれていたとわかるから。

まだ大丈夫。

僕はまだ人を好きになれる。

思わぬところでそんな安心感を得た。

「ありがとう。」


 「一か月間ご苦労様でした。本日で契約は終了となります。」

この温泉宿の宿主であるイウスさんはそう言って頭を下げた。

この人に関しては接点もなかったからまだ分からないことが多い。

でも、悪い人ではない。

先輩がそう言っていた気がする。

こうして顔を合わせてみても、悪い人という感じはしない。

冷静な言葉遣いの奥に確かな熱意がある。

仕事大好きなんだろうなぁ。

「いえ、こちらこそありがとうございました。」

僕も頭を下げる。

こうするとより一層寂しくなる。

ふと、このままでもいいんじゃないかと思った。

ここなら僕はちゃんと人として生きられる気がする。

向こうに戻っても、またあの日々を繰り返すだけなんだ。

ならいっそ…。

そんな僕の思いを引き裂くように先輩も別れの挨拶をしている。

やっぱり先輩は帰りたいよね。

…。僕にだって、この世界は違うという違和感はある。

やっぱり地球が肌に馴染んでるのかな。

それともそんなこと関係なく、人間は帰るべき場所が決まってるのかもしれない。

ならば送り届ける。

世界の中心へ。

そして、僕も前を向くんだ。

嫌で嫌で仕方がない。それでも、前を向くんだ。

向こうに戻ってもすべてを失うわけじゃない。

少なくとも、先輩がいる。

…。僕って先輩のこと好きなのかな。

わかんないや。


 「行こっか。」

先輩は僕の隣に立って笑う。

この人のことを好きかどうかはどうでもいい。

僕らは帰らないといけない。

それは望んでいようがいまいが関係ない。

生きるべき場所はきっと決まっている。

そっちのほうが、きっと正しい。

正解はわからないけれど、僕は決意を固めて温泉街を歩いた。

お久しぶりです。

今月は学校行事が目白押しでなかなか進められませんでした。

ここからは勉強も頑張りたいので、更新ペースを上げることは難しいかもしれませんが、それでも書き切るところまでは書き切りたいと思っております。

よろしければ今後とも気が向いた時にふらっと読みに来て頂ければ幸いです。

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