「正しい」と「正解」
町には人が増えてきた。
開いているお店も増えてきたし、そろそろご飯にしよう。
今日はまだ何も食べていないからおなかが空いた。
それと毛布。
忘れていたがまだ夕方にもなっていないのにもう肌寒さを感じる。
とりあえずはご飯を食べようということで、僕らはそこら辺の屋台で適当なものを見つけて買って食べた。
毛布も買ったところでエレンさんが口を開いた。
「お二人とも、一度宿へ案内してもらってもよろしいですか。」
時間はまだ余裕あるし、かなり真剣な顔をしていたので従うことにした。
宿に戻ると早々エレンさんは言った。
「先ほどから後ろをつけられています。」
…は?
全然気づかなかったんだが…、この人もやっぱり警察団員なんだな。
「え~と、それで?」
あとをつけられるだけならば特に問題ないが、まあ襲われないようにどうこうって話をしてくれるんだろう。
「え?あ、いや。それだけというか…。」
…。
「まぁ、人通りの少ないところは避けて、とりあえず今日の夜は寝ないで乗り切りましょうか。」
それくらいしかできることないし、逆にそれだけやっておけば問題ないだろう。
「そうですね。くれぐれも私のそばを離れないでくださいね。」
エレンさんはそう念押しをした。
イジェスさんだったらなんというんだろう。
一級と五級の違いなんだろう。
つけられてるって言われてもなぁ…。
ぼくらはバイトの時間まで宿に残った。
宿を出るときこちらを見ている二人組を見つけた。
今朝の二人よりかは小柄だ。
でも僕がスーパー小柄だからな~。
襲われたりしたらひとたまりもない。
でもこの通りは人通り多いし、これからもっともっと増えていく。
なら問題ない。
…と思いたい。
昨日ぶりに馬車場を訪れた。
エレンさんは見守るだけかと思ったが、手伝ってくれるらしい。しかも無償で。
この世界にチップの文化があるのかは知らないが支払いの時に少し色を付けよう。
いい人だし、かわいいし。
任された仕事は馬車の案内。
馬車には行き先や出発点別に番号が振られている。
1から4が乗降所1番、5と6が乗降所2番などなど…。
色々とルールがあるらしい。
低速徐行で入ってくる馬車の番号を見る。
何番の乗降所へ行ってくださいと伝える。
それだけ。
まあ特に気になるところはなかったが、1つ気になったのは5番。ラデン村とドルト村の名前がある。
勘が当たれば何かしら良くないものが輸送される。
が、今日は馬車番号11と12、ドルト村、ラデン村からの馬車は来なかった。
代わりに乗降所5番へ入ってきたのは13と14。
ヘデナ村とアマヤ村。
少し観察してみたが変なところは特にないように思う。
何か誘拐事件と関わりがあると思ったが、勘違いか。
エレンさんも観察はしているようだ。
宿に帰ったら情報交換してみようか。
仕事はそのまま何もなく終わった。
しっかり賃金の40クルスを受け取った。
僕らはそのまま宿に帰った。
宿に帰るとナナさんは速攻で眠りについた。
今日は寝ないって話だろ。
まぁ気楽に安心して過ごしているんならそれでいい。
僕とエレンさんの間にはしばらくの沈黙が流れた。
さすがに気まずいしなんか話そう。
そうだ。今日何か気付いたことがなかったか聞いてみるか。
「今日の馬車場の仕事、僕は結構怪しい点見つけられると思ってたんですけど、何も見っけらんなかったんですよ。
エレンさんなんか見てたかなーって思ったんですけど、どうでした?」
エレンさんは少し考えてから言った。
「私も特に何も。一番馬車での誘拐が手っ取り早いですし、明日の仕事は何か見つかる可能性はあるかもです。」
何も見つからなかったか。
まぁしょうがない。
再び沈黙。
月はこの部屋からじゃ見えないな。
「エレンさんは、なんで警察団員に?」
そんなことを聞いたのはウォズベンのことを思い出したからかもしれない。
ウォズベンの息子、名前聞いてたっけ。
彼は警察団員になったらしい。
なんとなく、動機が知りたい。
「私は、少し長くなりますよ?」
彼女はゆっくりと話し始めた。
「子供のころ、私は弟と母と三人で暮らしていました。父は私が生まれる前に浮気相手とどこかへ行ってしまったらしいです。
父を法的に裁くことも、父を探すことも私が警察団員を目指した理由の一つです。
でも、一番大きいのはベン=ダリアスを見つけ出すことです。」
ベン=ダリアス。
違法研究か。じゃあ今回の誘拐はエレンさんにとっても調べてみたいものだったのか。
「ベン=ダリアスは私の弟と母を連れ去り、実験に使いました。」
…。長くない。シンプルじゃないか。
「私はやつを殺したい。」
すこし語気が強くなった。
右を見ると光のない目で虚空を眺めるエレンさんがいた。
「そうですか。」
別にいいじゃないか。
人を殺したいと思うことくらい。
別にいい。
「…。止めないんですか。」
こちらを見ながらエレンさんは聞いた。
けれどその目は止めてほしいというよりも、
人を殺そうとすることを肯定も否定もしない僕を非難しているように見えた。
彼女は正しくないと思っている。
人を殺したいと思う自分を正しくないと思っている。
「正しくない」か「正解」か。
「殺そうとしているその場面になったら、まぁ止めるかもですかね。
あとは、無理だと思っているからです。殺すなんて。」
思うことくらい別にいい。でも、実際にやっちゃだめだ、と思う。
それはまぁ単純に怖いからってだけだ。
あとは、あのよぼよぼ爺さん、いつから探されているのかもわからないし、いくら探しても見つからないだろう。
「そうですか…。」
そういったエレンさんの声はもう色がなくなっていた。
その目に一切の光もない。
月明りもない夜だからだろうか。
「でももし、僕がエレンさんなら、同じことを思っていたかもです。だからエレンさんは正解だと思います。
無理でもだめでも。正解の道へ行っていると思います。」
できないことを目指すのが、必ずしも「正解じゃない」とは限らない。
間違った道へ進んでいても、「正解じゃない」わけじゃない。
その過程で得た経験や知識はきっと役に立つ。
それを言えばこの世に「正解じゃない」ことなんか一つもないが。
「そうですか。」
まったく声色を変えないまま、彼女は答えた。
…夜はまだまだ長そうだ。
月明りさえないと、なぜか余計に寒く感じる。
さっき買った毛布にくるまりなおして、
沈黙のまま、僕らは明日を待った。




