スピード勝負
異世界生活6日目。
連続誘拐事件の捜査のため、僕らはラデン村とドルト村へ向かっていた。
そういえば、僕らは今朝おそらく『慈善の猫』のメンバーを目撃した。
今村に訪れるのは危険か。
となれば、
僕は道々の店を眺める。
…。見つけた。
「ナナさん。あそこ行きましょう。」
隣を歩くナナさんに声を掛ける。
一応ナナさんに持っておいてもらいたいものもある。
「あそこって、防犯店?」
僕の指す先を見て、ナナさんは聞いてきた。
「そうです。たぶん役に立ちます。」
そう言うと、ナナさんは頷いて、僕らは防犯店の中へ足を踏み入れた。
防犯店での買い物も済ませ、いよいよ勝負。
まずはラデン村へ到着した。
…。
さっきまでの中心街と何ら変わらない雰囲気だ。
こういう村は普通もっと寂れてるが。
これは…。
まぁ、今のところはどうでもいい。
誘拐事件の真相に関してはまだいいが、捜査協力はさせてもらう。
多少危険はついてくるかもしれないが。
僕は村の中にいた適当な人に声を掛ける。
「すいません。この辺りで猫をみませんでしたか?」
さあ、どう答える?
「ネコ…?いやぁ見てないなぁ。飼い猫かい?」
こちらを振り返った男性は少し考えてから言った。
「あぁいえ、ぼくらの猫ではないんです。知り合いから預かってる猫でして、それがどこかへ逃げていってしまって。」
ニュアンスを込める。
勘違いしろ。
僕らを『慈善の猫』と思え。
男性はまた少し考えてから言った。
「猫は見てないよ。それと兄ちゃんたちにアドバイスだ。この村で猫の話はよしたほうがいい。あらぬ誤解を生んじまうからな。」
やはり、この村と『慈善の猫』には関わりはあるのか。
「…よく分かりませんが、そうですか。ありがとうございます。」
あくまで一般人を装って会話を終える。
が、一旦本部へ行ったほうがいいな。
この情報だけでお金も貰えるだろうし。
…。
いや、スピードで勝負だ。
「ナナさん。ここからは別行動です。」
隣で黙って立っていたナナさんにそういう。
「え?」
なんで…?という言葉を顔に書き表してナナさんはこちらを見た。
「僕はドルト村に行きます。ナナさんは本部に戻って今の会話をそのまんま伝えてください。そんで出来るんなら警察団員の人を連れてドルト村へ来てください。これは念の為なんで出来ればでいいです。とにかくスピード勝負なんで僕はもう行きます。頼みますよ。」
返事も聞かず僕はドルト村へ駆け出した。
僕の予想が正しければ、『慈善の猫』が関わっているのはラデン村とドルト村のみ。
ラデン村ではなくてもさっきの男性は確実に彼らと関わりがある。
『慈善の猫』からすれば「ネコ」を探す人間なんて気になって仕方がないはず。
警戒すべき対象として伝達が行っても不思議はない。
それより早く僕が同じ手で関わりを暴ければ勝ちだ。
全力で走ってドルト村へやって来た。
村人からすれば知らない少年がゼェゼェ言いながら走ってきたのだからびっくりしたのだろう。
「どうした少年。」
と言って優しそうな男性が近づいてきた。
「いや、猫がにげてしまって。探しにきたんですが、見てませんか?」
そう聞くと、男性の眼光が一瞬鋭くなった。
「どんな猫だい?」
この男性も、あくまで猫の話をするつもりらしい。
「知り合いから預かった猫なんですけど、あ〜、僕種類とかはわかんないんですけど、結構大きくて色も黒めの子です。」
こちらでも僕はニュアンスを込めるが、
「見たよ。その猫なら。」
思っていたのとは違う返事だ。
「ほんとですか?どこに?」
僕はまだ一般人を装う。
それしか安全策はないように思う。
「用済みだから始末した。」
おっと…?
「えと…、始末っていうのは…?それに用済みって?」
ここは隠さないスタイルなのか?
「そのまんまだよ。」
…。まずいことになってきた。
「何の話をしてるんですか?」
ここまで来ると、一般人のフリも意味をなさない。
「猫さ。君がどの猫を考えていようが関係ない。猫について話をする人間は始末だ。」
…。
沈黙のまま睨み合いが続く。
「捕まえろ!!」
男性が叫んだ。
その瞬間に村人の視線が一気にこちらへ集まった。
ま、予想はしていた。
中学までは陸上部で短距離走をしていた。
足の速さで勝負する。
踵を返し、一気に加速して村の外へ出た。
追っ手は何人か来ている。
体力が尽きる前に大通りへでたいところ。
右下をみればさっきまでいたラデン村が見える下り坂を一気に駆け下る。
1人とすれ違った。
さっきの男性だ。
今から伝達とは行動が遅いなぁ。
彼も僕に気づいたらしく一気にこちらへ向かって走り始めた。
勢いに乗って加速する。
追っ手の怒号も小さくなっていく。
やがて自分の呼吸の音しか聞こえなくなる。
景色が霞む。
自分を俯瞰してみているような感覚を覚える。
あぁ、これがゾーンか。
現役でやってたとき、かなりいいところまで進んだことがあった。
が、絶対に勝てない。そう思わされた相手がいた。
たった10秒の勝負で、そいつはゾーンに入っていた。
今だからわかる。
あいつは必死だったんだ。
僕も僕でそれなりに頑張ったつもりだった。
毎度毎度本気でやっていた。
それで都大会でも勝てた。
でも、今だからわかる。
この命懸けのスピード勝負で実感する。
こんな気持で走ってたら、そりゃ強い。
…。また、頑張ろうかな。
日本に戻る理由がもう一つできた。
急にバランスが崩れて思いっきり頭から転んだ。
足がプルプルしている。
気づけばもう大通りに出ていた。
人も多い。その分、視線も多い。
…。恥ずかしい!
急いで立って歩き始めた。
ナナさんは今どこだろうか。
とりあえず本部へ向かう。
念の為後ろを確認するが、当然、ここまで追ってくるような馬鹿はいない。
「瑞樹くん?」
後ろを確認していたところ、ナナさんの声が背中から聞こえた。
振り返ると知らない人と一緒に立っているナナさんがいた。
「ども。」
軽く手を挙げると、
「どうしたの?血だらけ。何があったの?」
あちこちペタペタ触りながらナナさんは心配そうに言う。
今コケたからか。
「大丈夫。ただ転んだだけです。それより、その方は?」
ナナさんと一緒に来た人に聞く。
「あ。私はユツムギ警察団員のエマスと言います。」
黒髪のボーイッシュな女性だ。
本部から急いで来てくれたとすれば、ちょっと申し訳ないが、
「今から本部へ行くところだったんです。来てもらったとこ悪いんですけど、一旦話したい話があるので。」
僕はナナさんとエマスさんに言った。
僕らは警察団の本部へ行き、
ラデン村とドルト村が『慈善の猫』と確実に関わっていること、
今朝方僕らが見た大男2人もそのメンバーだろうということ、
そして、次の誘拐はもう起きたであろうことを伝えた。
応対してくれていたのはイジェスさんだった。
ええと、5級なんだっけ?
こういう事件の調査を任されるってことはそこそこ偉い人なのか。
「なるほど、また信憑性の薄い情報を。」
イジェスさんは呆れながら言った。
「ラデン村での会話はナナさんだって聞いてます。」
証人がいるんだから信用しろ。
そんなんで調査依頼とかよく出せたな。
「つまりなんです?被害者宅への訪問は慎重にしろ、ついでに僕たちに護衛をつけろ、と?」
こちらの意思を汲み取るのが上手で助かる。
「まあ、訪問に関しては別にストップしませんよ。攻撃されるのはあなたたちでしょうから。でも護衛はもらいます。金も払います。」
そうだ。こちらに警察団の調査をとめる理由はない。
ドルト村でのあの不穏なセリフも伝えたんだ。
こちらの義務は果たしている。
「…。わかったよ。護衛を出そう。いつまで護らせればいい?」
確かに。いつまでだろう。
「この情報でもらえる報酬は?」
それによって変わる。
「…。ミヅキ、君を信頼して100クルスでどうだ?」
100…!!
今日このあとのバイトで80クルス、明日のバイトで160クルスを2人合わせて稼げる。
ここで100クルスをもらえたら、合計で340クルス。
明日には旅立てるわけだ。
「今日から明日1日護っていただければOKです。」
まあその費用が160クルス以上ならもう少し延長しないとなんだけど。
「1日と少しか…。1級団員なら日当100クルスで護らせられるぞ。」
100クルスなら大丈夫。
60クルス黒字だ。
「それでお願いします。」
あとそうだ。
ドルト村は僕に対して敵意マックスだったわけだが…、
「ドルト村は警察団員に対してなんかしてきたりはしないんですか?」
もし警察団には何もしていないのなら、
ドルト村の狙いは警察団に『慈善の猫』の存在を印象付けさせること。
一般人に対してあそこまで攻撃的なのは『慈善の猫』を知られては困るから。
正体は違法研究団体か、それとも…。
「今のところは特に無いな〜。ドルト村の対応に変化がないかも調べてみよう。貴重な情報助かったよ。このあと仕事依頼があるんだろ?ちょっとまっててくれ。護衛を連れてくる。」
そう言ってイジェスさんは奥へ行った。
5級団員と聞いたときは新人さんかと思ったけど、数字が上がれば上がるほど偉いのか。
もしかして、制服の胸のところのバッチは階級で数が変わるのか?
ちょうど星の形だったからそういうものなのかと思ったが。
しばらく経ってイジェスさんは1人女性を連れて奥から出てきた。
「こちら1級団員のエレン。君たちの護衛を引き受ける人だよ。」
イジェスさんの紹介を受けてエレンさんは頭を下げた。
「はじめまして。ミヅキさん、ナナさん。1日と少しというお話ですが、精一杯お守りさせていただきます。」
挨拶を済ませると彼女は顔を上げた。
胸のバッチは1つだからそれが階級ってことで間違いないだろう。
にしてもめちゃくちゃかわいい。
ほんとにこの人護衛できるのか?
むしろ僕のほうが護るの向いてそうだけど。
まあ、この中心街で大きな問題はそうそう起こらないだろう。
時間的にも人はだいぶ増えた。
屋台も始まっているらしい。
外から賑やかな音が聞こえてくる。
「よろしくお願いします。」
僕も頭を下げ、ナナさんにエレンさんを加え3人で本部を出た。




