将来は不安まみれ
この世界も日本と同じように公共交通機関は時間を遵守するらしい。
シュトレスを出発したのが9:00。
ユツムギへの到着予定時刻は19:00。
10時間もの旅路で誤差は10分だけ。
時刻は19:10。
とりあえずご飯を食べよう。
朝から何も食べていないからお腹が減った。
ユツムギはジャガイモで有名らしい。
最初聞いたときは耳を疑った。
この世界にも日本と共通するものがあった。
ジャガイモという名の全く別物とかいう展開も予想していたが、
馬車の乗降車場のすぐ近くに屋台街があり、
そこへ入れば最初に目に飛び込んできたのがフライドポテト。
しかも塩味とロン塩味という2種類。
見たところロン塩味は海苔しお味っぽい。
現地の人に聞いたところ、
この屋台街は役所の方まで伸びているらしい。
明日の仕事選びにも丁度いいしこのまま突っ切ることにした。
屋台といえば昔行った海外の夜市をおもいだす。
日本にもああいうのあるのかな。
無いよな〜。帰ったら調べてみよう。
ここの屋台街も夜市と一緒だ。
イジュストの串焼き、ラムの串焼きっぽいかな。
焼きオカタはいか焼きだ。
ジャガイモのラーブは芋餅か。
アクセサリーや服を売ってる屋台もある。
「いろいろあって目移りしちゃうね。」
そう言うナナさんの手にはさっきのフライドポテト。
こっちの世界ではジャガイモのデイルドと言うらしい。
ちなみに僕の手には焼きオカタ。
向こうと大して変わらない味。
何のタレだ?
芋餅って結構お腹に溜まるイメージあるし、
夕飯にはいいかな。
そう思って屋台に並ぶ。
「食べるの?」
フライドポテトを頬張りながらナナさんが言う。
「はい。夕飯にももってこいかなと。」
6個入りか12個入り。
まあ2人で食べるから12個入りがいいかな。
12個入りが8クルス。
安い。
「私も買お〜。」
そう言ってナナさんも列に並んだので、
「僕が買いますよ。12個入り半分こしましょ。」
と言ったが、
「12個全部食べたい。」
食いしん坊なんだ。
意外。
結局、僕は6個入りを、ナナさんは12個入りを買った。
それを食べながら役所へ向かう。
やっぱり芋餅はお腹に溜まるな。
僕なら12個も食べられない。
隣を見るとナナさんはうまいうまいと頬張っている。
四次元胃袋め。
こうもたくさん食べる人がいるとお金の問題も深刻になりそうだ。
今はまだウォズベンに貰ったお小遣いが残っているけれど、今後もそれを崩しながら生活する。
イルキュレムにつくまでの期間と費用にもよるが、貯金もなくなるだろう。
どれだけお金がかかるのかも、時間がかかるのかもまだ分からない。
エウルクさんに聞いとくんだった。
役所に着いたらまずはそれだな。
「瑞樹く〜ん。」
そんな事を考えていたらナナさんから呼ばれた。
「どうしました?」
聞くとナナさんは気まずそうに、
「いや、お腹いっぱいなっちゃって。」
…言わんこっちゃない。
「じゃ、袋とじといてください。宿で食べましょ。」
ナナさんはシュンとして袋を折って閉じた。
「ごめんなさい。」
冷めたら美味しくなくなるし、もったいない。
作った人にも失礼だろう。
そういう「ごめんなさい。」だよな。
僕の袋の中にもあと2つ。
結構くるな…。
いか焼きとこれだけで十分って…。
だから大きくなれないのか。
僕は残った2つを一気に口に入れた。
のどに詰まりそうだ。
慌てて水袋の水を飲む。
ぬるくなっていて美味しくない。
これも新しく入れ替えるか。
う〜。重い…。
僕達はそのまま役所への道を歩いた。
役所には大体1時間くらいで着いた。
ここの役所はシュトレスのとは違い親切で、
仕事掲示板に、
『お仕事は依頼開始時間が24時間後以降のものか常時受け付けのものをお選びください。』
とある。
今から24時間後以降だと明後日のものが増えるな。
僕らは常時受け付けの仕事依頼を探した。
…!
『指名手配犯』
こっちの世界にもいるのか。
そりゃそうだよな。犯罪がない場所なんかあるわけない。
治安にも気は使うべきか。
どれどれ…。
「ダリス=スーヴェン
強盗殺人、身長175センチほど、44歳」
う〜わ。こわ。特徴とともに似顔絵も掲示されている。どこにでもいるお兄さんって感じだ。
「ホルン=カーター
殺人、身長160センチほど、66歳」
こっちのマダムは…、婆さんだな。うん。
この人が殺人を…。怖いな。
指名手配犯は3人。
この2人の懸賞金は日本円にして10万円の2500クルス。
ただ、最後の一人は7500クルス。日本円で大体30万円。
「ベン=ダリアス
強盗殺人、違法研究、身長180センチほど、95歳。」
人を殺して変な研究をした人か。
95って…。もう死んでるだろ。
何の研究したんだ違法研究って。
思い当たるのはエドクレイで見たキメラたち。
人体実験や生物実験の類だろう。
こういう人たちには会わないのが一番だ。
懸賞金はいらん。
指名手配犯のほかにも似顔絵は掲示されていたため、
そっちを見てみる。
『行方不明者』
…。なるほど。
「テテ=ソニー、8歳、ラデン村付近で2週間前から行方不明」
「グラン=スタント、7歳、ドルト村付近で2週間前から行方不明」
「トマス=ラングレー、8歳、ドルト村付近で先週から行方不明」
その他の行方不明者もみんな幼い子供ばかり。
しかも地理的にドルト村とラデン村は近いはず。
行方不明になったのもみんなここ1,2週間だ。
こんなん誘拐だろ。
そんな事を考えていると、ナナさんが背後から走ってきて、
「瑞樹くん、これ。」
と、仕事内容が書かれたチラシ、常時受け付けの仕事依頼を持ってきた。
『行方不明者の捜索及び誘拐犯の捜索協力』
依頼者は、『ユツムギ警察団』。
これ、やっぱり誘拐か。
それに警察団って、ウォズベンの息子が入ってたってやつか。
もしかしたら聖山騒動について普通の人では知らないことを何か聞けるかもしれない。
…、やるか。
受付へナナさんが持ってきてくれたチラシを持っていく。
「この仕事依頼を受けます。」
「承知しました。身分証の提示をお願いします。」
受付の女性は丁寧に作業を済ませてくれた。
ついでに聞こうと思っていた事も聞いてみる。
「ここからイルキュレムのコロナへ行こうとするとどれくらいかかりますかね?」
「そうですね〜、ノンストップで大体1ヶ月半くらいですかね。特急便なので費用は高くなって62,000クルスは超えます。」
受付嬢さんは答えた。
思ったより近いなイルキュレム。
しかし高い。
62,000…。ってどんなだ?
えぇと、こっちの1クルスは40円くらいだから、
2,400,000円超え…。
えぐい…。
今のお金3,000クルスとちょっとだぞ…?
「安く行こうとするとどうなるんですかね…?」
アホほど時間かかるとか…?
「各都市に停車するのでどれだけ短くしようとしても3ヶ月は掛かりますね。費用は大体23,000クルスくらいですかね。」
思ったよりずっと早いし安くなったな。
半額以下はでかいぞ。
各都市停車で向かおう。
時間はたっぷりある。
受付の女性に聞いてついでに安宿を教えて貰った。
この宿も2部屋取るより2人部屋ひとつ取ったほうが安い。でもこの話をすると宿屋の店主は機嫌悪くするな。
そんな嫌かな安い部屋取られるの。
明日からの仕事は誘拐事件の捜査お手伝い。
明日の仕事はとりあえずで取った馬車場でのお手伝い。報酬40クルス。2人で80クルス。
誘拐事件の方は出来高払いだから不安定だ。
明日もあさイチで役所へ行き、本格的にこの街で働くのは明後日からということにした。
この宿が1泊70クルス。
財布を見ると残りは大体3,500クルス。
必要なのは20,000クルス。
気が遠くなるな。
次の都市はナリボシ。
馬車代はおそらく大体180クルス。
のちのちのことを考えてもこの都市やナリボシ、アムノン、まあ最初の都市たちで大きく黒字にしたい。
貯金も崩さず黒字にできれば100点満点だ。
後で馬車代が安くなれば最高。
高くなっても大丈夫という懐にしたい。
俄然捜査協力へのやる気が出てきたな。
この宿も敷布団らしい。
薄い。掛け布団もない。寒い。
と思っていたところ、
背後から急に抱きつかれた。
「えちょ、ナナさん?!」
感じたことのない感触に少々思考停止したが、
遅れて距離をあけてしまう。
この人まさか…、ぼくのことを?!
「さ〜む〜い〜。こっち来て!!」
…いやいや寒いからっておかしいでしょ。
この人日本の記憶と一緒に人間の繁殖方法忘れてんのか。
「さすがに駄目ですよ。」
断るとぶーたれてしまった。
「じゃあいいもん!」
子供かよ…。そんなだからエウルクさんにバカにされるんだよ。
まあ、そういうところは別に嫌いじゃない。
なんだか本心を見せてくれているような気がするから。
…この人、芋餅食べてないよな。
「芋餅食べました?」
確認すると、
ガバっと起き上がって、
先輩は無言のまま芋餅を食べた。
…やっぱり。大丈夫かよこの人。
異世界生活5日目。
人生何度目か分からない、慣れない都市。
変なことすることが増えた先輩。
治安も悪くなってきた。
不安要素は多くある。
それでも、僕らはここで、生きるしかない。
芋餅の甘い匂いの中、僕はゆっくり目を閉じた。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
すだちポン酢です。
書いててコイツラまだ5日目かよと思いました。
まだまだ物語としてはチュートリアルのつもりです。
この国をでてからはハイテンポにしていく、予定です。
次回は8月20日公開予定です。
今後ともよろしくお願いします。




