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イデア  作者: すだちポン酢
シュトレス編
10/39

常識と正しさ

 異世界生活四日目。

今日最後のバイト先である居酒屋へは17時に集合。

今はまだ14時前。

ジェイドの家では昼飯を食べれなかったから、昨日のばあさんのパン屋へ行くか。

「ナナさん、お昼ごはん昨日のパン屋行きません?」

まぁ正直、収入が想定の倍入ったから昨日のパン屋にこだわる理由はなくなったが、

「あの、お金たくさん入ったからさ、喫茶店とか行ってみたい。」

ナナさんは遠慮がちにそう言った。

喫茶店か。

まぁ、今日だけでもう100クルス稼いだわけだし、このあと60クルスはいるわけだから、

「行きますか。」

そう言うと、ナナさんはにかっと笑った。


 もうここにきて何度目かわからないシュトレスのメインストリート。

その一軒に喫茶店があった。

日本だとスタバとかタリーズとかドトールとかいろいろ行ったけど、

結局アイスカフェラテしか頼まなかった。

こっちの世界ならではの飲み物とかあったら飲みたい。


 「すご~い見たことないやこんなの。」

ナナさんは注文した飲み物と食べ物を見て目を丸くしていた。

ナナさんが頼んだ品は全く覚えていないが、

僕はイマヅク茶とホットドッグを頼んだ。

意外とホットドッグって日本だと食べなかったよな。

これ二つで30クルス。

先輩のはコーヒーのにおいがするお茶とバゲットになんかいろいろ挟んであるやつ。

二人で合計72クルス。

バイトのお金がでかすぎる。

シュトレスの次の都市は確かユツムギだったか。

ジャガイモ料理が有名らしい。

ユツムギまでの馬車代がわからない。

近距離の移動は公営の馬車に乗れるから国民証があればタダで移動できるが、

長距離になると都市同士の利権とかいろいろ関わってくるから、小さな村とかで乗換が必要になるし、

まずまず私営の馬車業者だから税金での運用ができない。

国民証が意味をなさないのだ。

馬車代が例えば二人で20クルスとかなら明日にでも旅立てる。

そんなことを考えつつ、

イマヅク茶に口をつける。

あぁ~。なるほど~。

苦い。

コーヒーとはまた違った苦みだ。

でもおいしいな。

台湾に行ったときの麦茶はこんな味だった気がする。

ホットドッグとの相性はあまりよくなさそうだ。

まぁ、いいか。

ホットドッグは久しぶりに食べたが、こんな味だったか。

久しぶりに何か食べるとだいたいこんな感じになる。


 昼ご飯を食べ終わったあと、まだバイトまで時間もあったので、ナナさんと明日の仕事を探しに来た。

ついでにユツムギまでの馬車代を聞いてみる。

「シュトレスからですと、一度途中で乗り換えて大体10時間くらいですかね。2人合わせて180クルスです。」

…。

180…。

大体今までの出費が1200クルスくらい。

ウォズベンからもらった残りが3800くらいで、

今日はバイトをして2人合わせて160クルス稼ぐから、

今日はこのままシュトレスに泊まって、

明日の朝出たとして手持ちは3720クルスくらいか。

え〜と、1クルスは大体40円だから、

10万円とちょっと。

向こうの物価が分からないけれど、

さすがにバイトをすれば賄えるか。

「ナナさん。明日にはもうユツムギへ行きましょう。お金は十分あるので。」

ナナさんも同じように考えていたんだろう。

特に反論することなく頷いた。


 色々と用を済ませたが、まだ時間がある。

居酒屋だから始まるのがそこまで早くない。

逆に終わるのが遅いのか…。

明日のユツムギ行きの馬車の時間を調べに

乗合馬車の乗り場へ行く。

ターミナルみたいな感じで整備されていて、

窓口もある。

「ユツムギ行きは、え〜、明日は9時に出ますね。

途中のアカラムという村で乗り換えてもらいます。大体日没と同じくらいでユツムギです。」

窓口にいた担当員は丁寧にこちらの質問に答えてくれた。

「ユツムギの宿屋の相場とか冒険者の仕事の給料相場とかってわかりますか?」

情報は大切。

得られそうなタイミングでどんどんゲットしたい。

「え〜とですね、宿はここと大差ないです。

あとはお仕事は〜、ちょっとこっちより相場低くなっている感じですかね。大体一人20クラスくらい。」

「なるほど。ありがとうございます。」

一人20クルスくらい。

僕とナナさんで合わせて40クルス。

流石に1日1回仕事だと赤字か。

でも今日みたく無理に3回も働かなくていいのか。

…ん。

地図がある。

そういえばこの世界ってどんな形してるんだろう。

って、4000クルスもすんのかよ。

昔は地図が高価だったって聞いたことはあるけど、

こんなの買えっこない。

それにまぁ、どうせこの世界とも3年経てばおさらばなんだし。


 明日には旅立つことが決まったので、

今朝の図書館のアリスさん、パン屋のおばあちゃんに挨拶をしに行った。

二人とも寂しそうにしてくれたのが、なんだか嬉しかった。

地球だと今みんなどうしてるかな。

僕はどうなってるのかな。

昏睡状態とかかな。

だとしたら、これは夢か。

ナナさんがいるのは、多分最後に見た人だからだろう。だとしたら、死んだら目が覚めるとかあるのかな。死ぬのは嫌だけど。


 時計は16時50分。

時間を厳守する日本人らしく、僕らは10分前行動で、

シュトレス最後のバイト先に着いた。


 「はじめまして〜。今日はよろしくね。」

出迎えてくれたのは昨日オーダーを取っていた店員さん。名前はララさんというらしい。

ララさんと、ナナさん。

呼ぶとき気をつけよう。

お店の裏側はかなり広く、厨房とスタッフルーム、トイレなどがあった。初めて入るから興奮する。

最初は仕事内容の確認だった。

今日僕らがやるのはオーダーを伝票に書いて、

厨房との間にあるテーブルにフックが付いたようなやつに伝票を引っ掛ける。という仕事。

それを見て厨房スタッフは料理をして、伝票と一緒にテーブルへおく。

それをホールスタッフが運ぶという流れらしい。

伝票は運ばずにまた別のところへ掛けておく。

勘定のときにスタッフが持っていって値段を計算する。暗算で。

すごい。それは僕にはできないな。

メニューだけ見て値段わかるってすごい。

僕らの仕事のポイントは2つ。

テーブル番号を正確に書くこと。

読める字で書くこと。

もしかしたら先輩は字がかけないかもしれないという不安はあったが、書けたらしい。

「なんかやったら書けた。」

と言っていた。

ちなみにララさんは僕の教育担当。

ナナさん担当はシャロンさんという人。

シャロンさんかララさんが僕とナナさん二人を見ていたほうがいいんじゃないかと思ったが、

口出しはしない。

勤務開始の18時までにテーブル番号を覚える。

入り口入って一番左端が1番、そこから右に1つズレて2番。3番、4番、5番、大テーブル2つは9番と10番。

20番までテーブルがある。

大体6、70人くらい入りそうだ。


 18時を迎え、僕はララさんと一緒に仕事を開始する。

「このカラヨムの漬物1個。シャガロンのスープ。」

カラヨム、と、シャガロンのスープ、っと。

「かしこまりました少々お待ちください。」

あぶな、テーブル番号も書かないと。

え〜と、12番。

お冷やも持っていくか?

さっきニィネさんが持ってってた気が。

「お〜い、こっちもいい〜?」

引き返す途中で声をかけられた。

まぁ、伝票は綴型だし、1枚ちぎってと、

「は〜い。」

考えることとやることが多くて大変だ。

今日のスタッフはララさん、シャロンさん、ニィネさん、あと厨房に2人。追加で僕とナナさん。

合計で7人。

普段は5人で回してるのか。

大変だ。

ていうか気づけばララさんは料理運んでばっかで全然こっち見てくれてない。

ナナさんも見えないし…、

もういいか。集中だ、集中。


 18時台はまだ良かった。

混んでたし忙しかったけれど、客の民度が良かったから。19時台に突入して、一気に強面が増えた。

やっぱり民度は少し下がる。

昨日見たようなどんちゃん騒ぎが始まった。

「おい!おめぇ!酒!」

「早くしろぉ!!」

「なんだてめぇやんのかぁ?!」

「上等だゴラァ!!」 

喧嘩までま始まったよ…。

もうどうすんの?

止めるべき?やっぱ止めるべき?

こういうのって案外安全に気を使って腕相撲とかにするんじゃ…?

そんな事を考えて影からヒソヒソ覗いていると、

ずいっと大きな影が現れた。

誰だ?

あ、厨房のおっさん。

仕事人の雰囲気がかっこいい。

バチッと止めんのか?

―― バコーン!!

厨房のおっさんが手を振り上げたかと思うと、

喧嘩をしていたうちの片っぽがぶっ飛んだ。

殴った?

え?

OKなの?

心配になり後ろを見るも、先輩ズの表情は微妙に読み取れない。

暴力さんは何かをぶっ飛んでない方に言うと、

そいつはおとなしく座った。

「良し。OK」

シャロンさんが声を出し、先輩ズはまた前へ出た。

僕もつられて前へ出る。

ぶっ飛びさんはまだ伸びている。

そこに寝られると仕事の邪魔だな。

僕は彼を引っ張って店の外へ出した。

ついでに注文を取って帰るとララさんが、

「出してくれた?ありがと、重かったでしょ?」

と話しかけてきた。

「まぁ、邪魔だったんで。どこまでがOKなのかちょっと法に詳しくないんですけど、殴るのはOKなんですか?」

「業務妨害をされたと責任者が判断した場合はOK何だって。訴訟されたら第三者の判断も入ってくるけど。」

なるほど。

第三者委員会。

痴漢容疑とかのニュースで聞いた気がする。

ていうか暴力さんは店長だったのか。

すご。圧。

あんな店長の店でよく騒げるな。

「お〜い!ちゅうも〜ん!」

表から声がする。

僕の仕事の番。

「いってきます。」

ララさんにそう言って僕は表へ出た。

と同時にナナさんを発見した。

何やら話をしている。

こんな男たちとよく喋れるな。

僕なら怖くて卒倒しちゃうよ。

「御注文お伺いしま〜す。」

1時間も続けるとなんだか飽きてきて適当になってくる。こりゃ日本帰っても店員さんに何も文句言えないな。もとからそのはずなんだけど。

こうしてみると実感する。店員さんって大変だったんだなって。

注文を受け中へと帰る途中、

「だ〜か〜ら、早く持ってこいって!」

といっているのが聞こえた。

あの席は確か13番。

持って来い?

なんか運んでないやつがあんのか。

気になってテーブルを確認するとたしかにあった。

え〜と、これはイヨムキのピリ辛炒めか。

あ、伝票にテーブル番号がない。

これ、筆跡で見てもナナさんの字。

へぇ〜ナナさんこういう失敗するんだ。

なんかあんましなさそうなイメージなのに。

とりあえず持っていってみよう。

「あの、お客様、」

今もまだナナさんへ怒鳴り散らすジィさんに声を掛ける。

「あ?!」

不機嫌さを隠すこともなく、じいさんはこちらを見た。

「御注文いただいたお品物はこちらでよろしいですか?」

こちらは不機嫌を隠して聞く。

「ん?あぁそうだよ?でも遅すぎるよな?」

知るかよ。

「いつ御注文いただいたのかは存じ上げませんが、おまたせしてしまったことへは謝罪致します。すいませんでした。」

なんで僕が謝るんだ。

結局貰えたんだからいいでしょ?

「なぁ、待たされて気分害されたから〜、金はゼロでいいよな〜?」

あぁ、なるほど。

(お客さまはこのイヨムキ、えぇ、10クルスくらいですか、が払えないからこうやってチャチャ入れるわけですか?)

なんてことは言えない。

「申し訳ございません。

提供させていただいた以上、代金は支払っていただきたく存じます。」

敬語はよくわかっていないけれど、

とりあえずそれっぽいこと言っとこ。

「はぁ〜?!気分悪くなったって言ってるよなぁ!」

机バンバン叩き出した。

一昨日市役所でやったやつ…。

でも不思議と怖くないな。

後ろには店長も見えるし、パス出しゃいいんだろうけど、ちょっとこいつで遊んでみたい。

「もし気分を害されたからタダにしろ、

これが通ってしまうと、こちらとしましても、

気分を害されたので商品は提供しません、ということができると思うのです。」

そう言うと、ジイさんは茹でダコみたいになって吠えた。

「んなわけねぇだろ!俺だけだよタダにできんのは!」

タコが吠えたw

やっぱいるよなこういう大人。

何歳で心の成長止まったんだろう。

「そんなわけなくないですか?

この世界に誰か一人にのみ通用するルールなんかあるわけ無いじゃないですか。」

笑いをこらえて言い返す。

「黙れぇ!」

茹でダコが足を伸ばして来たところに、

ぶっとい丸太みたいな店長の腕がやってきた。

あぁご愁傷さま。


 「ミヅキくんすごいね。ああ言うのは店長の役目なのに。」

中に戻ると、先輩ズから褒めてもらえた。

日本でやったら炎上だったな。

でも、なんかそれは納得いかない。

わがまま王子はお家だけでやってほしいな。

なんで外にまで持ってきちゃうか。


 その後は特に波乱もなく最後のバイトを終えた。

そしてお楽しみの賄い飯。

何にしよ〜う。店長が何でもいいって言ってた、ってララさんから聞いたし。

やっぱ昨日のやつかな。

「これにします。」

カノヤのスープ麺。

おいしそ〜。

料理を待っていると、突然手で目をふさがれた。

「だ〜れだ?」

…。

「その遊びってこっちにもあるんですかね?」

目をふさがれたまま、僕はナナさんに聞く。

「どうだろうね。で、だ〜れだ。」

…。

「賄い決めました?」

このまま遊んでやろう。

「うん。昨日のやつ。」

「僕もです。」

「いいよねあれ。」

…。

いつまで目隠されてんだろう。

だんだん心の目開いてきてる気がする。

暗闇に光が、見える…。

「瑞樹くんさ、すごいよね。」

突然ナナさんがそう言った。

「どうしたんですか?」

僕に言わせればナナさんのほうがすごい。

ナナさんはずっと前に出ていて、おじさんたちの相手をしていた。

僕からしたらおばさんたちの相手させられてるわけで、なかなか耐えられない気がする。

「私怖くて何も言えなかったのに。」

あぁ、茹でダコさん。

「僕はああいう人たちは軽蔑するので、怖いとかは思わないんです。ああいうふうに相手にしたのは、単に僕にあのおっさんを許す度量がなかったからで、たぶん普通、怖いしああ言うのはOK出すんです。そのほうが安全だし。日本に戻ったら出来ませんからね。ルール守るのは良いことです。」

そう、僕は日本でもたぶん同じことをしてしまう。

そうなったとき、僕の味方は居ない。

だって店は客に奉仕するものだから。

あんなふうに馬鹿にしていい立場じゃないから。

それが常識でそれがマナー。

客に対して店員がキレるなんて、

動画とられて拡散されて顔と名前が広められて、

正しい方に僕がいるという自信はある。

だって提供が遅いだけで料金ゼロにしようとするなんてありえないから。

でもお客様は神様で、言うことは絶対。

そりゃ、提供した品に異物が入ってるとかそれは問題だから僕でも頭を下げる。

でも僕は客がキレたら無条件に頭を下げるということが、多分できない。

とりあえず謝る絶対ルールに、僕は順応できない。

「だから僕みたいなのを見ないほうが日本に帰ったときには得ですよ。」

さすがにバラバラはちょっと困るけど。

「ううん。」

先輩は目隠しを解き、

その手を僕の肩へ回す。

コツン。

頭と頭を合わせて、

「ありがとう。」

先輩は、そう言った。

「あ、ナナさんだったんだ。」

遅ればせながら答える。

「おっそい。」

笑いながらナナさんは僕の正面へ座り、

一緒にご飯を食べた。


 異世界生活4日目。

今日は今までのどの日よりも疲れた。

明日は馬車で1日休息。

寝坊しないといいけど。

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