第6話
「はい。移住者さんからのおハガキです。『稲生穂が垂れてきていよいよ収穫が近づいてきました』
おお!『先日の台風接近には肝を冷やしましたが田んぼの稲は無事です』」
***
9月。稲の色が緑から黄金色に変わり、稲穂が首を垂らしてきた。
お天気は快晴。稲刈り日和だ。
今日はオフのマナミンも手伝ってくれる。
それにご両親も駆けつけてきた。
基本は稲刈り機で刈ってしまうけど、稲刈り機では刈りずらい畦際を手刈りする。
手刈りはお義父さんとお義母さんとマナミンが担当。
稲刈り機は咲造さん。
俺はというと刈った稲を干すための竿を立てる。力仕事だ。
はぜかけというらしい。
最近はコンバインで稲刈りと脱穀を同時にやってしまうため、はぜかけをするのは珍しいとのこと。
これが咲造米のこだわりポイントってわけか。
咲造さん曰く“稲を天日干しすることによって米の栄養や旨味が増す”と話していた。
本当に米作りは手間ひまかかる。
稲を刈って空いたスペースに順次、竿を立てていく。
竿が立つとマナミンが一輪車で運んできた稲をかける。
「建人くん、次の運んできたよぉ」
「はいよ」
この作業、地味に大変だ。
稲を取るときかがむから腰にくるし、重いから二の腕はプルプル。
見かねたマナミンが稲をひとつづつパスしてくれた。
かがまなくていいから非常に楽だ。
「はじめての共同作業だね」
「ケーキ入刀がはじめてじゃなくてよかったのか」
「私は建人くんと一緒に何かできるならなんでもいいよ」
「うれしいこと言ってくれるな」
『おい。範子ーッはやく稲運んでくれ』
「はーい。お父さん呼んでるから行くね」
俺は結婚式を後回しにして都会から逃げるように移住してきたからマナミンに負い目を感じてたけど
彼女のためにもシャキッとするか。
10月
充分、天日干しした稲からお米を刈り取る脱穀を行う。
脱穀機に稲を投入すると米が取り除かれ、稲は藁となって排出される。
そしてお米はというと脱穀機に取り付けた米袋の中に注入される。
よくできているな。
今日も小川家全員で作業だ。
「咲造さん、ところでこの藁たちはどうするんですか。お米取ったら必要ないですよね」
「藁は肥料にしたり冬に活躍するから、小屋にしまうんだ」
「冬?」
「それより焼き芋の準備ができた。みんなで焼くべ」
焼き芋?
咲造さん、さっきから落ち葉集めたり、籾殻を持ってきていたのは焼き芋のためか。
そうか。こうやって家族みんなで食べるために咲造さん、夏から育てていたんだな。
「焼きたての芋はうまいか」
「はい。美味しいです」
ひとりのスローライフもいいが。こうやって家族全員で過ごすスローライフもいいな。
そして冬がやってきた。
咲造さんは家の隣にある作業小屋に篭って藁細工をはじめた。
冬に活躍するとはこのことか。
俺もさっそくしめ飾り作りを咲造さんから教わる。
「いいか。一握り代の藁の束を根本で縛ったら先端を3つに分ける。それぞれが“過去”“未来”“現在”を表している。
その3本を編み込んでいく」
3つの時空を編み込むなんてSFの世界みたいだ。
なんだか編み込んでいるうちにパラレルワールドとかそういう世界に引き込まれそうな気がする。
人は何百年も前から壮大な世界観を描いていたのだろうか。
何か藁から宇宙を感じる。
『なるほど。伝統的なしめ飾りにもそんな意味合いが込められていたんですね。移住者さんおもしろい。
普段、当たり前にあるものも、その意味を知ると新しい発見ですね』
***
「おじいちゃん。新米の味はどう?」
「美味しい」
「ちゃんと咲造米の味?」
「もちろん。婿殿ががんばってくれたおかげだ」
「咲造さん⋯⋯」
これが咲造米の味か。確かに他とは違う。
自分が作ったってのもあるけど美味しい。
冬が終わり、スローライフ2年目がやってくる。
俺は地域おこし協力隊に入り、移住者の視点から米づくりやこの地域の魅力を発信することにした。
そしてマナミンのお腹の中にも新しい命が宿った。
人気声優と結婚して一般男性になった俺。今度は父親としてこの地域で生きてゆく。
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