第3話
俺のスローライフがはじまる。
まだ寒さの残る3月。田んぼに出て耕す田おこしだ。
小川家の田んぼは敷地内にある。
さっそく古い農機具小屋から耕運機を引っ張り出してくる。
咲造さん曰く1年ぶりの活躍のようだ。
咲造さんは丁寧とは言いがたいが端的にエンジンの掛け方を説明してくれた。
「チョークを動かしたら、この紐をひっぱるだけだ。それと動かす前に油をくれといてくれ」
「油?」
ガソリンならさっき入れたが⋯⋯
「!」
俺は棚に置いてあった潤滑剤スプレーが目に止まる。
なるほど。どうやら、錆びついた駆動部に潤滑剤を注入しろということか。
俺は棚の上にあった潤滑剤スプレーを駆動する箇所に吹き付ける。
「これでこいつも滑らかに動いてくれるぞ」
ひと通りスプレーが塗り終わるといよいよエンジン始動だ。
だけど紐を引っぱってもなかなかかからない。
どうやらコツがいるようだ。
「せーの!」と、5回目でようやくエンジンが掛かった。
「田んぼに前進ッ!」
俺はマナミンが演じる“勇者列伝 グランカイザー“の主人公になったつもりで気合いを入れた。
「いくぜ!ロータリー回転!」
とレバーを上げるとロータリーが回転。
勢いよく土を掻き出す。
なんだか本当にロボットを操縦している気分だ。
「よし、グランカイザー。これから土との熱いバトルだ」
『任せてくれ建人』
入り込むと、耕運機がグランカイザーのようにしゃべりかけてくる気がしてきた。
『ロータリースラーッシュ!』
説明しよう。この攻撃をくらえばどんなに硬くなった土だって砂のようにサラサラだ。
「なーんちゃって。ハハハッ」
ハッと我に帰ると、咲造さんが白い目で俺を見ていた。
「大丈夫かな。この婿」と、思ってそう。
よし気合い入れて耕すぞ。
だけど横幅1mほどのロータリーで60坪の田んぼを耕すのは気が遠くなる。
機械の振動でハンドル握る手は痛いし、30分もしないうちにへとへとだ。
「婿殿。お茶にするぞ。疲れるほど働いちゃあいけねぇ」
たしかに、サラリーマン時代の俺にも聞かせてやりたい言葉だ。
スローライフ⋯⋯想像していた以上に疲労感すごいなぁ。
もうすでに全身筋肉痛だ。
こうして休み休み耕して夕方。
スローライフ1日目が終了した。
「もうふくらはぎパンパンだ。どこか湿布ないかな。栄養ドリンクも飲みたいな」
タンスの引き出しをあちこち開けながら湿布を探ししているとマナミンから着信が。
「もしもし」
『その声、やっぱお疲れね』
「そうだよ。もうクタクタだよ」
『だったら私に任せて”大地の神よーー』
“詠唱⁉︎”
これは今期放送している“Sランクパーティーを追放された俺が伝説のヒーラーと出会って活躍します“の
マナミン演じる伝説のヒーラー”ヒーリス”の治癒魔法。
「この者の身体を癒したまえ。ヒールッ!』
癒された。全身が緑色に発光して全身の疲労が一気に回復したように感じる。
「ありがとう。マナミン。疲れも筋肉痛もどこかいったよ」
『それはよかった。じゃあまた明日ね』
翌朝
「イテテテ」
俺は全身の筋肉痛で布団からなかなか起き上がることができなかった。
ふと、入り口の襖の方を見やると湿布と栄養ドリンクが山積みになっていた。
「ありがとう。咲造さん」
涙ながらの感謝だった。
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