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なんとか短編集  作者: 月這山中


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流れゆくもの

 何も考えることができない。

 何も考えることができない。


 髪を広げた市松人形が河原の石に当たって回転する。

 首の抜けかけた衣裳着人形も。

 雛人形が流れていく。

 投棄されたものではない。どれも綺麗なものだ。

 暗い木陰のあたりから、赤い雛壇が現れる。

 雛段に並べられてそれごと流れていく。

 紙を折って作ったひらべったいものも、流れていく。

 流れていく。

 私はそれを見つめている。

 私はそれを見つめることしかできない。

 瞼を固定されたように。痛みはない。

 ただ、雛人形が川を流れていく。

 透き通った水は川底の黒い石を覗かせる。

 ごうごうと、川の水なのか風なのかはわからないが、音が耳を叩く。

 雛人形が流れていく。

 色とりどりの着物を着て、誰かの成長を願って、作られたそれらが、黒い川の水に浸って流れていく。

 何も考えることができない。

 何も考えることができない。

 市松人形に彫りこまれた目と目があった気がした。


 私は自分の部屋に立っていた。

 河原はない。雛人形もない。

 世界が一変したように思えた。

 私は卓袱台の前に座り、皿の上の焼き魚に箸をつけた。

 壁が崩れる。世界が崩壊した。

 天井が外れる。

 空が見える。


 私は流れる雛人形になっていた。

 世界は一変した。

 黒い水に髪と後ろ半身を浸して、川を下っている。

 首の抜けかけた衣裳着人形が隣を流れていく。

 私は動けない。

 私は動けない。

 紙を折って作ったひらべったい人形が渦に巻かれて沈んでいく。

 冷たい川の水が体温を奪っていく。しかし、元より体温なんてものが人形にあるのだろうか。

 和紙を重ねて作られた着物は堅く、水を吸わない。手足を一切曲げることができない。

 私は動けない。

 私は動けない。

 赤い雛壇が視界の半分を覆った。しかし私は、空を見上げることしかできなかった。

 分厚い雲が空を覆っている。


 私の頭が河原の石に当たり、世界が回転した。


 私は自分の部屋に立っていた。

 河原はない。雛人形もない。

 私は息を吐いた。

 卓袱台の前に座り、皿の上の焼き魚に箸をつけた。

 壁が崩れる。

 天井が外れる。

 空が見える。


 私は、


 何も考えることができない。

 何も考えることができない。

 何も考えることができない。

 何も考えることができない。

 何も考えることがで、

 私は動けない。

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