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なんとか短編集  作者: 月這山中


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全てを破壊しながら突き進むバッファロー流星群

 星景写真家・星見一郎には三分以内にやらなければならないことがあった。

 遠い宇宙から届く、全てを破壊しながら突き進むバッファロー流星群を捉えるための準備だ。


「いそげ、いそげ」


 逸る気持ちが声に出る。

 星を撮る時の心は、いくつになっても変わらない。

 車からおろした三脚を立て、牡牛座へ向けてカメラの絞りを開いて、ピントを調整し、構図を確認する。星座の並びと方角をアプリで幾度も確認する。

 もうすぐ星が降る。

 全てを破壊しながら突き進むバッファロー流星群を捉えることは星見にとって長年の夢だった。子どもの時分に見たあの光がもう一度、150年の時を経て星見の視界に入るのだ。

 アルデバランを横切る青い光が見えた。


「来た」


 流星が光る。ひとつ、ふたつ、やがて数え切れぬほど。

 等速で突き進む。

 その青は大気圏で燃え尽きる星屑の色ではなく、遠く宇宙で光り猛っている色なのだと星見は聞いた。

 轢かれた星は滅びの色で輝き、弾ける。

 何億光年と離れた空で全てを破壊しながら突き進むバッファロー流星群が星を散らしている。


 星見はこの時のために時間と私財を投じて来た。100年前にがんを宣告されながら延命手術を受け、70年前にはサイバネティックスによって動かなくなった手足を交換した。臓器も九割が人工に置き換わった。そこまでしてでもこの光をもう一度見たかったし、カメラによって己の手中に収めたいと、ずっと願っていた。


「綺麗だなあ」


 星見の人工関節の口から言葉が漏れた。

 星見に天文学は解らない。

 ただ、専門家の間では全てを破壊しながら突き進むバッファロー流星群は凶兆と言われている。

 ここ三百年で地球に近付きすぎている、と。

 いつか地球も他の星々のように破壊されてしまうのかも知れない。

 星見は心のどこかで、それもいいかも、と考えていた。


 流星群の最後の一筋が去った。

 星見は静かになった空をしばらく眺めていたが、カメラを確認して、三脚を折り畳み、車に乗り込んだ。

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