さらばバッファロー
「そう、凶器は全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れなのです」
探偵の言葉に一同は耳を疑う。
被害者は浅瀬の河で、それも心臓発作で亡くなったのに。
「なにを言っている。こんな時に冗談か」
「いいえ真剣です。そのようなものをいつでも呼び出せる機能が人間には備わっている」
ここですよ、と探偵は自らの頭をノックする。
「被害者は薬か、催眠術か、あるいはその両方によって認識をゆがめられ、バッファローの群れが目の前に現れたと錯覚させられた。それによって狂乱し、心臓発作に陥ったのです」
集められた紳士たちは頭を振る。無理もない。
彼等が部屋を出ようとしたその時だった。
「ところで皆さん、《《バッファロー》》と聴いてどのような土地を想像しますか」
「土地?」
彼らは疑問に思う。バッファローの姿形ならともかく、土地とはどういうことか。
「バッファローとは本来スイギュウを指す言葉ですが、アメリカでは野牛全般に用いられることが多いのです。ここにいる紳士方、特に都会生まれのアメリカ・イギリスから来られた紳士はご自分の国の田舎を想像するでしょう。広く枯れた平原、もしくは湿地帯か。しかしそうではなかった」
探偵は一人の紳士へと向き直る。
「被害者は河で死んでいた。これは《《河でなければいけなかった》》と示している」
探偵に射竦められた紳士、アレックス・ラマヌジャンの額に汗が流れた。
「インドにおいて、特にヒンドゥー教においてはスイギュウは貴重な労働力であり食料でもある。身近な家畜動物です。未舗装路のないこの土地で暴れスイギュウが走るのに適した場所は、あなたにとって、あの河しかなかったのですよ」
「……あ」
アレックスは駆け出した。警官隊に取り押さえられる。
「あ、ああ、あいつが悪いんだ! この俺を馬鹿にした、同じ紳士として認めてくれなかった! 畜生、畜生、牛に蹴られて死んで当然だ!」
探偵はただ、無言でその光景を見守った。
植民地時代が生んだ悲劇である。




