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なんとか短編集  作者: 月這山中


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内見から見る江戸の歴史

 床下を覗くと江戸っ子の亡霊が露出している。

「ここはかつて寺院の敷地内だったんですよ」

 仲介人の根岸が淡々と話し始める。

「歴史ある寺とかではなく江戸時代に入ってから建てられた寺です。亡者は少し騒ぎますが、戦国時代のそれのような危険はありません」

 江戸っ子の霊が住宅基礎の下でひしめき合っており、まるで御神輿のようである。

 私は腰を上げて、言った。

「上がってもいいですか」

「どうぞ」


 江戸の歴史は好きだ。それを元に卒論を書いたほどだ。

 265年もの間続き、享保の頃には武家も含めて約百万人が暮らしていたという巨大都市である。現代の東京でも地面を掘り返せば大量の骨が見つかった、などというニュースは珍しくない。

 人口が多いということは死者の数も多いということだ。

 頭に腫物のある女性の亡霊が床下からにじみ出て来る。

「事故物件ではないのですが気味悪がる方が多くてですね。この通りはっきり見えるでしょう」

 根岸は亡霊を床に押し込みながら話す。

「いいですね」

「蔵前さんのような方に買っていただけるとこちらも助かります」

 天井から半ば骸骨と化した亡霊がぶら下がっている。腹が大きく膨れており飢饉の時の死者だろう。江戸時代は太平の世と言われるがこういう場面もあったのだ。

 赤子の霊が泣きわめいている。水子供養の歴史は浅いので興味はないが、江戸時代の子供が見られると言うのは新鮮な驚きがある。

 坊主の霊が並んで経を上げている。ここまでの信心でありながら成仏できなかったのは残念な話ではあるが、私の興奮は冷めなかった。

 徳川家康が構想した巨大都市の残り香を感じる。このようなスポットがあるとは思いもよらなかった。

 私は根岸に向き直った。

「ここに…」

 します。と言おうとした、その時。

 根岸の背後に赤い服の女性が立っていた。

 長い髪を垂らし、こちらを睨みつけている。手には文化包丁を持っていた。

「申し訳ありません。やめておきます」

 現代霊は、さすがに怖い。

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