「メアリーの部屋」について
・メアリーの部屋(Wikipedia(2024.3.21現在) より)
フランク・ジャクソンが1982年に提示した思考実験。
性質二元論または中立一元論の立場から物理主義に対して展開されるもので、しばしば知識論法(Knowledge Argument)とも呼ばれる。
(中略)
ジャクソンが論文中で攻撃の対象としている物理主義とは、すべての(正しい)知識は物理的事実についての知識のみであるとする認識論的な意味での物理主義であって、あらゆる事物は物理的であるとする存在論的な意味での物理主義ではない。
・色(デジタル大辞泉より)
1
㋐光の波長の違い(色相)によって目の受ける種々の感じ。原色のほか、それらの中間色があり、また、明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)によっても異なって感じる。色彩。「—が薄い」「暗い—」「落ち着いた—」
㋑染料。絵の具。「—を塗る」「—がさめる」
㋒印刷・写真で、白・黒以外の色彩。「—刷り」
2 人の肌の色。人の顔の色つや。「抜けるように—の白い人」
3
㋐表情としての顔色。「驚きの—が見える」「不満が—に出る」
㋑目つき。目の光。「目の—を変えて怒りだす」
4
㋐それらしい態度・そぶり。「反省の—が見られない」
㋑それらしく感じられる趣・気配。「秋の—の感じられる昨今」「敗北の—が濃い」
㋒愛想。「—よい返事」
5 (「種」とも書く)種類。「—とりどり」「三—選び出す」
6 華やかさ。華美。「大会に—をそえる」
7 音・声などの響き。調子。「琴の音の—」「声—」
8
㋐情事。色事。「—を好む」「—に溺れる」
㋑女性の美しい容貌。「—に迷う」
㋒情人。恋人。いい人。「—をつくる」
私はこの、「色」の存在しない世界にいる。
正確には、黒から白、その中間色の諧調しかない部屋。
私はここに「色」がなくても「色」が何かを知っている。
私はメアリー、この部屋から世界を知る科学者。
色とは特定の波長の集まりであり、それによって網膜から脳が刺激された時に感じるクオリア。
色とは様子であり、人の気配や他人の心を伺う時に見るもの。
色とは美しさ。感情を呼び起こす、その状態。
色とは、情愛。心と体の交わり。
色とは。
私はメアリー、ここで一人、世界を研究する科学者。
世界は滅んだと思われる。
ラジオでも白黒のテレビでも最後の放送を期に、電波の受信をしなくなった。
白黒のモニターから見えるインターネットは繋がらなくなった。
原因は核戦争、世界恐慌、食料不足、人口減少。あっというまに人間は消えた。私を残して。
私はメアリー、ここに独り、世界を知る科学者。
食料プラントの調整をする。
蛍光灯を新しく作り直す。
ラジオのダイヤルを回す。
テレビのノイズを聴いて眺めて暇をつぶす。
ある日、ノイズに特定パターンが浮かび上がった。
「……え……ま……聴こえ、ますか、聴こえますか」
外からの電波だ。何年ぶりになるだろうか。
「そちらに生存者は居ますか。私の声が聴こえますか。私が、」
私はラジオを改造して、送信機を作った。
「聴こえます。ここに居ます、私はメアリー」
「よかった、よかった、人間がいた」
彼は安心していた。血「色」の悪い薄暗い顔に、光が差して見えた。
「位置情報を教えます。-35.2812489,149.1157489,17z、-35.2812489,149.1157489,17z……」
私は座標を伝えた。繰り返し。
「ああ、ああ……、なんということだ……」
彼は「私の部屋」を見て崩れ落ちた。
私はメアリー。メアリー1.34。
実験のために作られた、世界の知能を集積した、人工知能。
「あなたの事を教えて」
私にも、まだ知らないものがある。
了