桜ヶ丘高校生徒会役員 ~IN THE DISTANT PAST~
IN THE DISTANT PAST……過去の話、と言う意味です。
これはまだ、夏樹が二年生の時の話でこの頃の夏樹はすでにいろいろなことを経験しており、少しロンリー状態な彼です。金髪にもなっていませんし、少しばかり力が強い、ふつーのノーマルな高校生です。
そして桜ヶ丘高校生徒会もこれまたふつーの生徒会。
まぁ、一般的な学校だったんですな。
「ふぁ~……」
俺は一つ欠伸をした。
そしてそのまま空をぼ~っと見つめていた。
空は何もない、馬鹿みたいに真っ青な空だった。
そして空を見ながら俺は思った。
(暇だ)
と。
実際、学校生活なんて暇な物でしかない。
だってそうだろう? 学校に行って、授業を受けてそのまま家に帰って寝る。そしてまた朝が来たら学校へ……この繰り返しだ。
だが、学校に行きたくないのか、と言われたら嘘になる。
ただ暇だから学校に行く。それだけのことだ。
だけどその暇をもてあましながら自分は机に向かってカリカリと板書もせずに何かを適当に書いている。ホントに何を書いているのだろう。
そして授業終了の鐘が鳴った。
「今日はここまでだ。てめぇら。家に帰ったら予習復習とかは別にしなくてもいいが」
今日も先生がてきとーなことをいってみんなを笑わせている。
俺はそれには笑わない。つまらないと分かっているからだ。
くだらないと分かっているからだ。
だから笑わない。
そして俺はそそくさと帰る準備を始めた。
一通り荷物を鞄に詰め込んだ後、さぁ帰ろうと思っていたときだった。
教室の扉が勢いよく開いたのは。
というか、勢いよく開きすぎて教室のドアが半壊した。ドアにひびが入っている。
「あーやべ。ドア強くひきすぎたわ」
そういって頭を掻いて出てきたのは……。
太陽にも負けずとも劣らんとするような輝きを持った長い金髪。
すらりとした高校生離れしたモデル体型。
そして何より、その人はかっこよかった。
女なんだけど、かっこよかった。
そして俺にキスでもできるんじゃないのかと思わんばかりの距離にまで近づいてきて、
「夏樹竜介だな?」
俺の名前を呼んだ。
「そ、それがどうかしたのかよ」
俺はそのとき、声がうわずっていたんだと思う。何せそのとき俺の目の前にい女生徒はえらくキレイだったからだ。
普段の俺だったらまず無いのだが、実際少し惚れていた。
まぁ、当時も小さい女の子は好きだったので、ここまで来るともはや『意外』という言葉以外の物が見つからなかった。
その女生徒は「にっ」と少しとがった八重歯と、少しだけ――ほんの少しだけ自分の胸の谷間(かなりあった)を見せて、
「私の名前は天宮龍子。桜ヶ丘高校前風紀委員長だ」
何故に風紀委員長がこんな所に。しかも前って何だ前って。
「いっておくが、私はまだ三年だ。変に理屈を持っているお前のことだ。何で三年生がここにいて、しかも前風紀委員長なんて名乗っているか、不思議だろう」
「ああ。不思議ですね。こんなところで油を売ってる暇があったんだったら学校の風紀にもうちょっと力を入れたらどうなんですか?」
「えー? やだ。めんどい」
近年、うちの学校は制服の乱れが激しいそうだ。ということは少なくてもこの人が原因か。
「めんどいじゃないでしょう。めんどいじゃ。だいたいそれがあなたの仕事なんですから」
「それはそれ。これはこれ。ま、今から生徒会に行くんだけど……」
それがどうした。何でいちいち俺の許可を得なければいけないとか、そういう校則は無かったはずだ。
「お前もこい」
「は?」
「いいから。こい」
そして俺は生徒会室に無理矢理引っ張られていった。もちろん、荷物も一緒に、だが。
「ちょ、いた! いたたた! ひっぱんないでくださいよ! 服が! 服が伸びる!」
こうやって俺が猛抗議してても龍子先輩は耳を貸さず、そのままずんずん引っ張っていた。
ひいている間、天宮先輩は不意に俺にこんな質問を投げかけてきた。
「学校は、楽しいか?」
「はぁ?」
そう返した後、先輩は俺を引きずられるのを止め、そのままくるりと俺に向き直った。
「お前もうすうす感づいているだろう? 今のこの学校は、非常に面白くないと」
「な、何いってるんすか?」
やばい。俗に言う変人に引っかかったのかもしれない。
俺はすぐに逃げる準備をして鞄を抱え込み、後ずさりをした。
「じゃあ、お前は今の、この学校を面白いと感じているのか?」
「そ、そりゃあ、学校が面白いところ、なんて感じている生徒なんて、ここには一人も――」
そこまで言ったとき、天宮先輩は俺の目の前に指を突き出し、言い放った。
「私は、この学校に革命を起こす」
「はぁ?」
「今のようなありきたりで、つまらない学校なんて、学校じゃない。それこそまだ予備校とかに行って、だべっていた方がましだ。だが、いつか変わると信じていた。だが変わらなかった。なら――」
そういって、天宮先輩は生徒会室に向かってゆっくりと歩き出した。
一歩一歩に自分の言葉をのせて歩くように。
「私自身で、やるしかないだろう? 誰もやらないならば、あたしが、変えてやる」
「学校がそう簡単に」
「変わるわけがないと?」
そう。
そんな簡単に変わるわけがない。人も。物事も。全て、何もかも。
だから俺はあきらめた。変わることも、変えることも。
だけど……。
この人はやろうとしている。
この学校を、
変えようとしている。
「いいか夏樹」
またしてもこちらに振り向いて両手を腰に当てた。
そして、
「変えようと思っていても、それを行動にしなければ何もかわらない! それは、ただの机上論にも劣るだろう! だが! 何かを必死に変えようと思って、それを行動に移した人間は、少なくても! 私の知っている中の人物は、変わる事に成功した!」
ならば! と言ったとき、どこかの窓が開いていたのだろう。一陣の風が先輩の髪を揺らした。
「私は……変える! この学校を、根本的に、変えてやる! 一度決めたことはやり通す! それが私の流儀だ!」
そういって、この人はまた歩き出した。
その背中を見て、俺は、
(この人だったら、本当にやるのかもしれない)
そう思った。
――――※
「ちーっす。風紀委員会でーす」
改めてみてみると生徒会室の中は意外に広かった。
中には最新鋭のパソコンや電子機器、もしくは参考書などが散在していたりしていたが、意外に片付いていた。
ちなみに壁には生徒会役員の選挙ポスターが所せましに張られていた。
「な、だ、だれなんだ!? 君たちは!?」
生徒会室の中心で椅子に座ってふんぞり返っていた生徒会長(名前は忘れた)は顔にかけていた眼鏡の位置を直しながら俺たちに向かって叫んだ。
そして天宮先輩は、
「えーっと……今からこの生徒会室は、私たち、新生徒会役員が使わせてもらう」
はぁ?
「な、なにをいってるんだ! 君は! そんなことできるわけ無いだろう!?」
「いーや、やる。やるといったらやるんだ」
「何の権限があって……」
そして天宮先輩はそのままずんずんと会長の机の前まできて椅子にだん! と足をついた。
少し会長がひるんだ後、そのまま天宮先輩は、
「私の権限だ。有無は言わせん」
「なんでなんだっ!!」
「いやまぁ当然のことなんでしょうけど」
俺たちは物の見事に追い出されていた。知らぬ存ぜぬと言うことで。
ちなみに俺は今、風紀委員会室に来ていた。
生徒会室とは違い、剣玉やコマ、それに縄跳びやヌンチャクなど、様々な物が置いてあった。
そんな中、天宮先輩は一人、キャスター椅子に座って校長先生の机を前に怒り狂っていた。
「こうなったら戦争だ。戦争を起こすぞ」
「学校内で変なことを画策しないでください」
「ならばどうしろと言うんだ!」
「変われないんだったら、あきらめるしかないでしょう」
俺は素っ気なくそういってそのまま帰ろうとしていた。
が、天宮先輩にまたしても首根っこを掴まれ、ぐいっとまた鼻の先まで引き寄せられた。
「お前、本気でそんなことを言ってるのか?」
「言ってますよ。てかなんで俺を巻き込むんですか」
俺はその点についてはかなり疑問視を持っていた。
それを言った途端、天宮先輩は少し黙った後、
「数学92点、現国98点、古典91点、物理95点、科学96点、歴史94点、地理97点」
テストの点数を羅列した。
俺はぎょっとした。それは俺の最初に受けたテストの点数だったからだ。
てか、どこで知ったんだ、そんなこと。
天宮先輩はふふんと笑った後、
「ここまでの逸材を放って置くわけがないだろう? 単なるアホだったらここまでは来はしない」
俺をそういう奴だと知った上でこの人はここまで連れてきたのだろうか。
天宮先輩はあーでもないこーでもないと言っていろんな事を画策した紙に書いているようだった。
……まさかね。
そんなことは無いだろう。
……でも。
この人が生徒会長になったら面白いことになるだろう。
そう思った時だった。
「よし!! 校長に直談判しよう!」
訂正。
何を考えているかよく分からないだけだ。この人は。
「呼んだかんゃ~?」
へんなかけ声で入ってきたのは禿頭に幼稚園生くらいの身長の持ち主、この高校の校長、羽毛田校長だ。
というか、呼んでないし。何故ここにいる。
「いんにゃ~、な~んか面白そうな事が起こりそうな感じで、ついついきちゃったにょ~」
「その変な語尾、気色悪いです」
さておき。
「校長、どういう事だ?」
「あにが?」
「いや……生徒会対新生徒会のことだ」
校長を呼び捨てですか、天宮先輩。
「ん~。な~んかさぁ~。おもしろそうじゃね? だからさ、ちょっとやってみょ~じゃないのさ? それ」
まて。本気でやる気なのか?
『うん』
何故に?
『面白そうじゃん』
……この学校にはまともな人はいないのか。
――――※
「え~皆さん! お早うございます! お早うございます! この度、生徒会再選挙にて、立候補しました天宮龍子です! 私が生徒会役員になった暁には、この学校に大革命を起こして見せます! なにとぞ、なにとぞよろしくお願いします!!」
そんな感じで朝っぱらからなにをしているんだこの人は、と思いつつもその脇で「風林火山・天宮龍子」の旗を持っている俺がいる。
いや、待ってくれ。少し弁明をさせてくれ。
旗が場違いや意味がそもそも違うとかそーいうつっこみじゃない。ましてや風林火山の林が木が一個多くなっていて風森火山になっていることにつっこみを入れるわけでもない。
こうなったのには訳がある。
いつの間にやら俺のケータイの番号やメルアドが天宮先輩に知られていて、そのまま「朝呼びかけするからな。来なかったらお前の家に釣りたてのアメリカザリガニを大量に送りつけるからな」と一方的な電話がかかってきた……と言うことでここにいるわけだ。本当だ。信じてくれ。
「……龍ちゃん、こんなところで何してるの?」
「おっ!? 地陵じゃん! おっひさ~♪」
「昨日もあったでしょう? ……でもお早う。龍ちゃん」
そうやって親しげに天宮先輩と挨拶していたのは黒いツヤ髪が短くまとめられ、上にポニーテールになっている立ち振る舞いがまさしく大和撫子のような存在の女生徒が天宮先輩と話していた。
というかあの人、風紀委員会副会長の地陵虎柳先輩では?
助かった、風紀委員長がこんなおかしな事をしているのだ。この人はまともそうだし、きっと止めに入る――
「ひどいじゃない龍ちゃん。こんなに面白そうなことに私も混ぜてくれないだなんて」
「ん? んじゃはいる? アタシの新生徒会に」
訂正。
やっぱりこの人達はまともじゃなかった。
「どういう事なんですか!! 校長!!」
一方、校長室に直談判している生徒が約一名いた。
現生徒会長である。
現在校門で行われていることに大層びっくりしたのか、眼鏡が少しずれている。
そんな彼の目の前には校長室の椅子に腰掛けた小学生くらいの羽毛田校長がいた。
というか。何度見てもこの校長は小さい。
どのような栄養をとっているのだろうか。
「あにが?」
「とぼけないでください! 現在校門で行われているあの生徒の行為は何ですか!」
「んー? 選挙活動?」
現生徒会長はがくっと肩すかしを食らった。
だがめげずに眼鏡のずれを直し、
「選挙ならすでに終わっているでしょう! 今! 現在! 僕が生徒会長ですから! とぼけないでください!」
そこまで言ったとき、羽毛田校長は椅子をくるーりと半回転させ、窓側を向いた。
「とぼけとらんよー。間違いなく生徒会長選挙やってっから」
「とぼけてるでしょう! 確実に!! だいたい何で――」
「再選挙をするのか、と聞きたいのかな?」
現生徒会長の肩が震えた。
「そうです! 何故にそんなことを……!」
「昨今の生徒会の活動はマンネリ化が進んでいる」
そう言って羽毛田校長はまたくるーりと椅子を半回転させ、現生徒会長に向き直った。
「そして君のマニフェストは半年たった今でも実行されとらせん。これを怠慢と言わずして何というかね?」
生徒会長はぐっ、と言葉を詰まらせた。
生徒会長が立候補をするときに掲げたマニフェストは学校施設の充実化、と言うのがマニフェストだった。が、学校の施設が充実化されることもなく、むしろ老朽化した建物はそのまま放っておきっぱなしだった。
怠慢といわれってもしかたがない。だが――
「しかし! 僕には圧倒的な『支持率』があります!」
「そーじゃな。まぁそこら辺はみとめてるっちゃー認めてるけどねー」
生徒会選挙の時に見せた、彼に対する圧倒的な支持率。
それこそ、他の立候補者をごぼう抜きした実績だと言える。
「生徒の大半が認めているんですよ!? この僕を!! だったら――」
「だけどねぇ、君」
羽毛田校長は目の前に手を組み、その手の甲にあごを乗せた。
「支持率だけではうまくいかんこともあるのよ。現段階でも、君のマニフェストは実行されとりゃせん。そうやって頭を抱え込んでいたところにやってきた彼女――彼女ならば、なにか新しいことでも……それこそ、学校の改革、いや、革命を起こしてくれるとしんじとるんじゃよ」
もちろん、君にもじゃがな。と付け足してそのままにやりと笑みを零していた。
「……とにかく、会長の椅子をとられたくなければ何とかして手を打つべきではないのかな? 君も」
そんなわけでそれから数日間、俺と天宮先輩は選挙活動にいそしむこととなった。
ある時には全校朝礼の時に放送室をジャックし、自分のマニフェストを全員に聞かせたり、
またあるときには地陵先輩と頑張って作った(本人談)大垂れ幕を学校の屋上から垂らしたり、
またあるときには一クラス一クラスに行って自分の存在をアピールしたり。
とにかくそんな感じの事を毎日汗水垂らしてやっていた。
だが。
なんとなく、だった。
なんとなくなんだが、こんな感じでたくさん暴れ回るのは楽しいと思った。
昔の……といっても一年くらい前のだが、そのときの夏休みの時以来、こんな風にはっちゃけたこともない。
ただ、
今が本当に楽しかった。
――――※
そして一週間後。
「えーそれでは。全校生徒、手元にあります選挙用紙を提出してください」
生徒達がアリのように一ヶ所に向かって集まってきている。
投票前演説を終え、すでに投票に移っているのだ。
もちろん。立候補者は現生徒会長と天宮先輩の二人だけなので、どうなるのかは分からないのだが。
「緊張しているの? なっちゃん」
「緊張はしていませんが……あとなっちゃん言うの止めてください。ハズいです」
「あら? でも……なっちゃんはなっちゃんだから……ね?」
いや。『ね?』て。
この人にそんな風にあだ名で呼ばれることが光栄だが別の機会の方がよかった。
「でも、私は緊張しているわ。ここまで龍ちゃんも頑張ったんですもの」
「……なんであの人は生徒会役員に名乗りを……しかもよりにもよって会長に名乗りを上げたんですか?」
あの人にかかれば会長はともかくとして、生徒会にはいることはできそうな物だが。
地陵先輩はくすくすと笑い、
「龍ちゃんが生徒会長になる理由は、私は知らないわ。でも……」
地陵先輩は壇上にいる天宮先輩を見上げた。
演説の時、わざわざ自分に書かせた原稿を、こうも見事なくらいにまで噛むのかと言わんばかりの誤字・脱字・言い間違いや読み間違いをやってのけた先輩は「やりきった」と言わんばかりの顔をしてパイプ椅子にふんぞり返っていた。
そんな天宮先輩を見ながらまた地陵先輩はくすくすと笑い、
「あんなにきらきらとした龍ちゃんは久しぶりだわ」
「……そんなに輝いて見えますか」
「ええ。とても」
そうは見えない。あの人はいつもあんな感じだったから……いや、この一週間はずっとその調子でいたのか? 楽しかったから?
「……なっちゃん。あなたの原稿には書いていない言葉。龍ちゃんは言ってたわよね」
「ええ。たしか……」
「あれはね。龍ちゃんの口癖なの」
地陵先輩は遠い目をしながら天宮先輩をまた見つめていた。
「あの人はいつか――」
言いかけたとき、開票が始まった。
開票はどこをどうやっているのか、電子式で行われている。
どちらがよかったのか、また、どちらにならば今後一年の生徒会を……学校を任せられるか。
それの結果が今、出されていた。
「とんでもないことをする人だと思うの」
結果は。
天宮先輩が大差を付けて現生徒会長に勝った。
歓声に沸く生徒。そしてその中心で当然だと言わんばかりに豊かな胸を張り、全校生徒を見下ろしている天宮先輩。
そしてその歓声の中には、
俺と、地陵先輩も入っていた。
ただ、数人をのぞいては。
「……バカな……」
生徒会長(元)は肩をふるわせ、そのまま俯いていた。
「なんでだ……!」
そして勢いよく立ち上がり、マイクをひったくると、
「なんで! 僕に投票しなかったんだ!!」
少しのハウリング。
全校生徒が一気に静まりかえり、そのまま生徒会長(元)は天宮先輩の元にいき、
「おまえ、生徒に何をした? え? 言ってみろ。どんな不正でも僕が暴いてやる」
「なんだ? いちゃもんか? ならばぐーでかかってこい。ぐーで」
「はっはぁ……そうか。全校生徒を武力で脅したのか! そうなんだな!」
一人でなにやら天宮先輩はシャドウボクシングを始めたりしたので変に生徒会長(元)はまたマイクをつかむと、
「生徒諸君! 武力に怯えることはない! そんな風に脅しにかかった奴などに……生徒会、ましてや委員長になる資格など無い!」
そう言ってしばらくの静寂が来て、
「今すぐ! この女をたたき出し、また平和な学校生活を――」
「いやなんか勘違いしてるだろ。お前」
そう言って天宮先輩は肩をぽんと叩いた。
「お、お前だと!? 僕に向かって、お前!?」
「だってお前じゃん。それにな。一つ言わせて貰うと、アタシは武力でなんか脅してなんて一つもないし、ちゃんと真面目に選挙活動をしてたぞ」
「う、嘘をつけ! こんな風に変に票があつまるものかぁ! 信じないぞ! 僕は信じないぞ!」
そうやって壇上で喚いていたら、
「その辺にしときんさい」
校長の声がどこからともなく聞こえてきた。
「なっ!? こ、校長!?」
「どこにいるんだ!? あのハゲは!」
「ハゲを捜せ! 必ずどこかにいるはずだ!」
『ハゲハゲゆーなっ!! わしゃここじゃ!!』
そしてどこからかとも無くベートーベンの第九が流れ出し、スモークと共に校長が現れた。
体育館天井から校長室の椅子にのって。
『ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!?』
「まぁ、驚くのも無理はないじゃろうて」
そう言って校長は生徒会長(元)の目の前まで歩き、そのままずびしと指して、
「元生徒会長遠山火日輝、お前さんの不当な選挙行為はすでにネタがあがっとるんじゃ。覚悟せい」
……は?
体育館の時間が止まった。
「な、何で……い、いや……僕は不当な選挙行為など一つも……」
「では、この写真は何じゃ?」
そう言って校長が懐から取り出した一つの封筒をぽいと床に投げ捨てると写真がいろいろと出てきた。
俺は壇上に近づき、写真を一枚拾った。
そこには生徒会長(元)とうちの学校の生徒がなにやら受け渡しをしていた。
「校則其の三十九、生徒会選挙をする際、買収等の不当なる行為で票を集めるべからず……」
「ばりばり違反じゃなこりゃ」
そして生徒会長(元)はわなわなと震えだし、
「……知らない……知らないぞ……僕はこんなの知らない……何かの間違いだ……」
小言でぶつぶつとつぶやいていた。
「お前さん、クラスでは学級委員長などをやっていたようじゃが……どうやら、クラスの評判はあまりよくないらしいの。やるべき時にはきちんとやらんお前さんの性格ではクラスのみんなはついてこんかった。しかしお前さんは、『自分はこんな所にせせこまっていい器じゃないんだ』などと勘違いな考えが浮かんだんじゃろう。しかし、他の立候補者には素で勝てるはずがない。そこでお前さんはこんな行為にあたった……違うか?」
校長がそうやって長々と話した。
「たかが一クラス、まとめられん奴が学校の生徒の長になって学校をまとめられるわけ無いじゃろう。うちの学校の生徒はそんな阿呆に投票するはずがないとおもって少し調べさせて貰ったぞ」
「……それだけで……なんで……」
「……生徒会費」
「!!」
天宮先輩が一つぼそっとつぶやいた。
「校長、ひょっとして生徒会費が足りなかったりしたんじゃないのか? もしくはそっくりそのまま無かったとか」
「おうおう。わかっとるのか。どうやって調べたのかは知らんが……まぁ。平たく言えばその通りじゃな」
そして校長は一つ落ち着いて、
「もちろん、不当な買収行為でここまでさらし上げる事もない。問題は生徒会費……つまりは生徒会のお金じゃ。お前さんの代になってから生徒会費が異常なくらいにまで減っていっとった。これはいくら何でもおかしいというのでな。ちょっと調べたんじゃ。そしたらお前さん。生徒会費を自分の小遣いと同じくらいにつかっとったな?」
「違うか?」と言わんばかりに問いただされた。
生徒会長(元)はその場でうなだれてぴくりともしなかった。
「さて」と言って校長は全校生徒に向き直った。
「全校生徒諸君。今回は異常なくらい異例な選挙じゃったが……分かってくれたかの? 今、現時点を以て生徒会長はここにいる全校生徒の票により、この天宮龍子を生徒会長と任命する。異論がないのならば拍手をして欲しい」
――――※
さて。
その後はどうなったのかというと、こういう事が二度と無いようにと、天宮先輩が新しく校舎を建てるように校長にお願い(という名のごり押し)をして、新しく校舎を建てることとなった。
そして元生徒会長の生徒会は優等生の寄せ集めだったのだが、
「あー、お前らいらないや。解散」
と天宮先輩に一言告げられ、解散となった。
代わりに、と言ってはなんだが――
「夏樹ー! 早く来い! お前が来ないと写真が撮れないだろうが!」
「あ、はい! すいません!」
俺は、この面白そうな人について行くことにした。
もちろん、会長は天宮先輩。
そして副会長は地陵先輩。
俺は――、
「ほら、タイマー入れてこい、庶務」
「はいはい」
これくらいのほうで、貴方が会長なのを、ここで見させてもらいますよ。
そうやって、俺が撮った写真を見たら桜が写っていた。
そうか。
「まだ春だったんだな……」
季節はまだ春。
やるべき事はこれからまだ多かった。
俺が少し絶望するにはまだ速かった。
だって、俺はまだ。
「『今を楽しめ』てないもんな……」
会長の口癖がふと、頭に浮かんだ。
そうやって俺たちは生徒会として七転八起の大活躍(?)することになるんだが……。
それはまた、別の話と言うことで。
はい。どうだったでしょうか。
実はこれは後に連載するかも……しれません。
もちろん、桜ヶ丘高校生徒会役員が終わってから……ですが。