熱血少年の愛の告白
龍馬は時計を見た。もうすぐ検診の時間だ。
「沙織先生すきだぁぁ!」
思わず口に出る。今日こそ告白すると、龍馬は決めていた。
「うるさいぞお前。本を読んでるんだよ」
隣のベットに寝ている淳が言う。
「もち。沙織先生のあの目を見た時に一目惚れだよ」
「俺たち入院してるんだぞ。大人しく療養しろよ」
淳は呆れた風に言う。
「愛はどんなときでも燃え上がるもんさ」
龍馬は顎に手を当てて格好つけて言う。龍馬は、昔から好きな相手が出来るとどんな時でも関係なく燃え上がる。
「それが尻を看護師に拭いてもらっている男が言うことかよ」
「両腕を骨折してるんだからしょうがないだろ」
龍馬は口を尖らせる。彼は両腕を骨折していて、入院している間、看護師にトイレの世話をしてもらっているのだ。
「こんにちは」
涼しげな声と共に、首から聴診器をぶら下げて白衣を着た女性が病室に入ってきた。
「来たあああぁぁぁあああ!」
龍馬は鼻息をふん、と出して奇声をあげる。ギプスで固まっている両腕をブンブンと振って、沙織に自分のことをアピールする。
沙織は、龍馬の方を一別すると何の反応も見せずに、すたすたと淳のベットへと歩いていく。
「沙織先生好きだあああぁぁぁああああ!」
龍馬は思いっきり叫ぶ。その直後、
「あ……」
と、気まずそうな顔をする。
「思わず告白しちゃったよ」
えへへ、と下を出して首を傾げる。
「うるせぞ龍馬」
淳が眉をしかめて怒鳴る。
「お前こそうるせえぞ。俺の沙織先生への愛を邪魔するなよ」
「龍馬君。診察するから少し静かにしててね」
沙織は、龍馬の告白がなかったかのような口調で言う。
「はい。分かりました」
龍馬は口をつぐむ。
「それじゃ、診察を始めるわ」
「お願いします」
沙織の診察が始まる。龍馬は診察をしている沙織をジーを見る。
その視線に気付いた淳が、
「おい! こっちを見るなよ」
「お前なんか見てねえよ。俺は沙織先生を見てるんだ」
龍馬は沙織先生の方を向く。
「好きです!!! 先生ぃぃぃ!」
龍馬が告白する。それから、ハッ、として口を閉じる。
「ごめん先生。熱い思いが思わず口から出ちゃったよ。静かにするよ」
「ならいいわ。ついでに、あまりこっちの方を見ないでね。淳君も落ち着かないから」
沙織はそれだけ言うと、淳の診察を続ける。
「分かりました」
龍馬は正面にある白い壁をジーと見つめる。けれども、隣にいる沙織が気になり、チラチラと横目で見る。
チラチラと、チラチラと。
そんな龍馬を見て、淳は顔をしかめ始める。眉が逆八の字になり、目がつり上がる。歯ぎしりが徐々に大きくなっていく。
「いい加減にしろよお前! チラチラと見るな!」
淳の怒りが爆発した。
「さっきも言ったけど、お前なんか見てねえよ! 俺は沙織先生を見てるんだ」
龍馬も負けじと声を張り上げる。
「先生。こいつをどうにかしてください」
淳は沙織に言う。
「分かったわ」
沙織は一言だけ言う。
「あなた、随分元気があるのね」
彼女は龍馬に言う。
「もちろんです。先生への愛が原動力になっています」
「でも、その熱さがみんなの迷惑になってるのよ」
「そんなこと、先生の愛に比べたらなんの障害にもなりません」
「そこまで行くと病気ね」
沙織は大きく頷く。彼女は龍馬の顔を両手でがっしりと掴む。
龍馬の心臓が大きく脈打ち、耳元のスピーカーから大音量の音楽が流れているみたいだ。
「それじゃ、直さないとね」
沙織は右手を大きく振り上げ、振り下ろす。沙織に右手は早さのあまりぶれて見えた。
右手が進む先には龍馬の左頬。龍馬は左の頬がゾクリとした。
バチン! と大きな音が病室を満たす。
沙織は片方の手で龍馬の頭を固定していたので、ビンタの衝撃がそのまま来る。
「あなたなんか嫌いよ」
沙織が冷めた目で言い放つ。その言葉は氷の刃となって龍馬の胸を貫き、渦巻いていた熱を冷ます。
龍馬は放心して口を開けっ放しにしていて、目の焦点がどこにもあっていない。
「これで、彼の熱は治まったわね」
「さすが医者だ」
淳が感心した。
~おわり~
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