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ミドリ(4)

 松本ミドリの交際相手である大学生の笠井みどりが、行方知れずになっているという情報を掴んできたのは、強行犯捜査係で一番のベテラン刑事である堀部さんだった。

 事件当日、笠井みどりはバイト先であるファストフード店に休むという連絡をしてきたが、それっきり連絡が取れない状態になっているという。


 ミドリとみどり。どうせ、付き合ったきっかけは、名前が同じだからということだろう。あいつらしい。おかげで、こっちはややこしくなっていますよ。わたしは心の中で呟きながら、堀部さんからの報告を聞いていた。


「笠井みどりの実家がある埼玉県越谷市周辺も当たってみましたが、姿を見かけたという人はいませんでした」

「そうか、わかった。では、堀部さんと二川は引き続き笠井みどり周辺の捜査を続けてくれ」


 織田係長はそう言って捜査会議を終わらせると、一度咳ばらいをした。


「あと、高橋。ちょっと残ってくれ。話がある」

「え、はい」


 まさか織田に呼び止められると思っていなかったわたしは、立ち上がろうとした腰を椅子へと戻した。

 なにを言われるのだろうか。わたし、なにかヘマをやったのかな。内心ドキドキしながら、織田のことを見ていた。


 織田は他の捜査員たちが捜査本部として使用している会議室から出て行ったのを見届けてから、口を開いた。


「松本ミドリのことだが――――」

「ええ。元カレでした」


 織田の口から言われるよりも先に、わたしは自分から打ち明けた。


「そうなのか……」


 意表を突かれたような表情で織田がいう。

 どうやらわたしの予想ははずれたようだ。てっきり、飲んだ時に佐智子が口にした話を富永が織田に伝えたのだと思っていたのだが。


「そうなると、話がより高橋にとっては不利になるな」


 そんな前置きをしてから、織田は言葉を続けた。


「松本ミドリ殺害現場から、高橋と同姓同名の名前が入った包丁が発見された」

「えっ……」

「これだ」


 スマートフォンで見せられた一枚の写真。そこには一本の包丁が写っていた。

 その包丁には見覚えがあった。ミドリがひとり暮らしをする際、一緒に浅草の合羽橋道具街へ出かけて買ったものだった。あの時、包丁に名前が入れられると聞いたミドリが「じゃあ、さっちゃんの名前を入れてもらおうよ」とはしゃいだことを思い出した。


「さっちゃんの名前入りの包丁でおいしいもの作ってよ」

「料理屋さんで働いているから、さっちゃんにはきちんとした包丁で料理してほしいんだよ」


 よくわからない理由をミドリにいくつも並べられて、なぜかミドリの家の包丁にわたしの名前を入れてもらったのだ。わたしがアルバイトをしていたのはファミリーレストランの配膳係で、料理なんて一切作れないというのに。


「確かに、その包丁に書かれているのは、わたしの名前です」


 わたしは正直に答えた。

 まだ使っていたの。わたしはミドリの物持ちの良さに驚かされると同時に、ミドリとの当時の思い出が甦ってきてしまい、涙がこみ上げてきた。


「犯人は入念に包丁を洗ったようで、包丁からは指紋の検出はされていない。それもあって、高橋も重要参考人のひとりとなった」

「そうですか」

「悪いが、当日のアリバイを調べさせてもらう」

「わかりました」


 わたしは織田と一緒に捜査本部を出て、二階にある取調室へと向かった。

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